第13話 本格稼働の準備
セナがどこかの鬼軍曹のようなことを言い出した時はどうなるかと思ったが、実際は無難に案内役をしてくれたおかげもありファーストコンタクトは成功したと言えるだろう。
まあ今後については警察というか政府の対応次第にはなるだろうがあの警官2人はこちらの狙い通り動いてくれて、レベルアップしてステータスも見えるようになったのだからただの虚言とは思われないはずだ。後はどれだけあの2人ががんばってくれるかだな。
「よし。じゃあパペットたち、後は頼んだぞ」
待機部屋で集まっていたパペットたちにタブレット越しに指示を出すとパペットたちが動き出し、部屋の床下に隠されていた看板を持つとそれぞれの位置へと動き始める。動きは決して速くはないが俺の命令を理解してちゃんとそのとおりに動いてくれるんだからある意味すごいよな。めちゃくちゃ弱いけど。
現状召喚しているパペットの数は11体。そのうちの2体は隠し通路の前で工事中の偽装をするために配置しているから実質チュートリアルダンジョンの運営として使っているのは9体だ。
まず最初の部屋には2体が待機し、そのうち1体は看板を持ってここが初心者ダンジョンであることを知らせる役目、もう1体が案内役という看板を持って来た者を奥へと連れて行く役目を担っている。
次の戦闘を行う部屋には戦うパペット1体とこの部屋で戦いのチュートリアルを行うとレベルアップができることを書いた看板を持ったパペットが待機している。
そして最後の部屋には1体のパペットが待機しており、このダンジョンコアを取るとダンジョンが攻略できることが持っている看板でわかる感じになっている。ちなみに取り出したフェイクコアを受け取るのは案内役のパペットの仕事だ。
残りの4体は戦うパペットの交代要員という面もあるのだが実はもう1つ仕事がある。それは木の棒の入った宝箱を暗闇の中で設置すると言う役目だ。人がいる階層ではまったくダンジョンの改変ができない仕様だから面倒だが仕方がない。
いきなり宝箱が現れるなんてダンジョンっぽいということでわざわざそんな感じにしてみたが、まあその様子はいつか見つかるだろうとは思っている。見つかったら見つかったでこっちが困るわけではないしな。パペットたちに運ばせればそれもまたダンジョンっぽくて良いだろう。
パペットは1体につきかかるコストは10DPなのでもっと増やしてもそこまで負担じゃねえんだが、俺の予想ではそのうち戦うためのパペットとダンジョンコアを受け取る役目のパペット以外はお払い箱になると思っている。だって説明するなら人がすれば良いだろ。その方が絶対にスムーズで伝え漏れもないだろうし。まあそんな訳でしばらくはこの最低限の人員で運営していく予定だ。足らなければそれこそ召喚すれば良い話だしな。
「そういえばどの程度DPは入ったんだ?」
「ちょっと待ってくれ。おっ! 思ったより入ってるな」
「見せてみろ」
セナにも見えるようにタブレットの向きを変えるとセナがちょっと背伸びして覗き込んできた。その可愛らしい姿にこっそり心の中で笑う。
確認した現在のDPは4223DPだ。ダンジョンの作成とモンスターの召喚できっかり6000DPを使用して残りの4000DPを残しておいたので今回の2人で223DPが入ったことになる。
事前に埋め込まれた知識から考えると入ったとしても30DP程度だと思っていたからおよそ7倍だ。死んだときに入ったDPは全て生き返らせる時に使っちまったから入ってねえし、何なんだろうな?
「セナは多い理由がわかるか?」
「わからん。そもそも与えられるDPの基準自体が不明確だからな。あるとすれば初めてダンジョンに人類を入れて試練を受けさせたからということか?」
「あー、初回特典みたいなもんか。まあDPについてはおいおい統計でもとってみるか。ある程度の基準がないと今後の予定が立てづらいしな」
「うむ」
タブレットのメモ機能に侵入者の数や何をしたかを書いてその横に223DPと記載しておく。後は記録を続けて最終的にはDPが入る項目を特定できればより効率的にダンジョンが運営できるようになるはずだ。
「さて、後は……あっ、お前がいたな。セナ、来てくれ」
「んっ? あぁ、わかった」
何か忘れていることは無いかとキョロキョロとコアルームを見回し、1体の人形へと視線が向く。その人形はパペットとは違って顔や体に起伏があり、かなり人間に近い形をしている。もちろんただの人形であるはずがなく俺が召喚したモンスターだ。
その名も真似キン。
ちなみに1体で1000DPと言う高額モンスターだ。なんとパペット100体分だぞ。
この真似キンなんだが、そのダジャレのような名前の通り他人の姿を模倣することが出来ると言う珍しいモンスターだ。同じような能力を持つドッペルゲンガーってモンスターが10万DPであることを考えると破格の安さとも言えるんだが、安いには安いなりの理由がある。
第一に弱い。人形系のモンスターって強い奴いんのかなってくらいに弱い。強さとしてはパペット1体よりは強いけど2体と同時に戦うと負けるかもってくらいだ。そしてこういったモンスターは模倣した相手の能力とか強さもある程度模倣できるってのが定番だと思うんだがそんなことは無く弱いままなのだ。
第二に模倣が甘い。確かに相手の姿を模倣できるんだがその姿は誰が見ても人形なのだ。その人を人形として模倣するって表現が正しいのかもしれないな。模倣された方は一瞬びっくりするかもしれないが、そいつは偽物だ! なんてことは出来ない。すぐ見破られるからな。まあそれ以前に話せないんだが。
まあこんな感じなのでDPも比較的安い1000DPで済んだんだろう。今の俺にとってはかなりのDPだがリストに載っているモンスターの召喚コストを見る限り安い方だからな。
そんな真似キンの前にセナが立つ。すると真似キンがグニャグニャと形を変えていき、どんどん縮んでいったかと思うとセナと寸分たがわぬ姿へと形を変えた。
「ふむ、やはり面白いものだな」
セナが手を上げたり体を傾けたりすると鏡写しのようにセナの姿をした真似キンも動いていく。若干のぎこちなさがあるので一緒に居れば間違えることは無いが単独なら勘違いしそうだな。
だんだんとセナが速度を上げて動きだし、真似キンもそれを真似て動こうと……あっ、限界が来て転んだ。
「この程度で転ぶとはこの軟弱者め!」
「それくらいにしとけよ。じゃあ、とりあえず真似キンはダンジョンへ向かってくれ。人が来るまでは適当に各部屋を巡回だな」
セナの姿をした真似キンがこくりと首を振り、とてとてと小さな足で歩いて出て行く。その姿はセナにしか見えない。人形を模倣させるなら模倣が人形のようになってしまう真似キンの欠点も欠点じゃなくなるな。
よし、セナの代わりの真似キンもダンジョンへと向かったし他にやり残したことはないよな。じゃあ……
「寝るか」
体を大の字にして床に寝転がる。コアルームの床にはちゃんと絨毯を設置したので寝ても床が硬くて眠れないなんてことは無い。
「女を誘うならそんな露骨な表現は……」
「違えし。俺はずっと寝たかったのに邪魔されて寝れなかったんだよ」
「冗談だ。誰か来たら起こしてやるから存分に寝ておけ」
「お、おう。じゃあ頼むな」
ふっと笑い、俺の手からタブレットを抜き取って俺に背を向けながらぽてっと床に座ったセナの後ろ姿に笑みを向け、そして俺は瞳を閉じた。
本当にこいつが相棒で良かったな、そんな事を思いながら。
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