第127話 少しの違和感
前回投稿時に誤って編集途中で投稿してしまいました。
2/22に見た方は話が繋がらないかもしれませんので追加した前話の最後の方を読んでください。
申し訳ありませんがよろしくお願いいたします。
「どうかしたのか?」
「いや、ここなんだけどな」
「んっ、どこだ?」
「だからここだって」
おかしい部分を見せているのにも関わらず首をひねっているセナのためにその人形の服の右脇下にある服の縫い目を指さす。セナがしげしげと俺の指の先を見つめるが、しばらくして再び首をひねった。
「何かおかしいか?」
「いや、おかしいだろ。だって縫い目の間隔がここだけ違うし、糸もよく似ちゃいるがよりをかけた糸の細さが微妙に違うだろ」
「そう……か?」
セナは半信半疑のようだが明らかに別もんだ。念のために反対側も確認してみるがやっぱりおかしい。これが中古の人形だってんなら補修したんだろうで済む話なんだが、これは使用感など全くない明らかに新品の人形だ。持ってくる途中で破れちまって慌てて直したとかか? いや、だったら普通この人形を外すよな。他の人形、マトリョーシカとかもあるわけだし。
俺が人形を見つめながらそんな疑問に頭を悩ませていると、ふと視線を感じて視線を落とす。そこには渋い表情をしたセナがいた。
「そこがおかしいという確証があるんだな」
「んっ、まあな」
「透、すまんがその人形を少し傷つけるぞ」
「いやいやいや、何言って……」
人形を故意に傷つけるなんて、ありえないとセナの発言に反射的に拒否しようとしたが、その断固とした意志の宿った瞳に言葉が詰まる。
俺が人形好きなことはセナだって十分に知っているし、理解しているはずだ。そんなセナが俺が最も嫌がるであろうことをすると言っているんだからそれなりの理由があるんだろう。
「絶対に、だな?」
「ああ」
「わかった。でも人形にハサミを入れるのは俺がやる。服の脇の部分を切ればいいんだな」
「そうだ。すまんな」
「いや、理由があるんだろ。ちょっと待ってろよ」
席を立ち、部屋に常備してある裁縫セットの中から糸切りハサミを持ってくる。そして一度大きく息を吐いて気持ちを落ち着けると、慎重に、糸以外の部分を傷つけないように人形へと刃を入れていく。
チャキ、チャキ
たった2か所。しかしだからこそ神経を使う。糸以外に傷つけた場所はない。これならすぐに修復は可能だ。
糸がなくなり少しだけ開いた服の隙間からは体をつかさどる藁が顔をのぞかせている。
ふぅ、ともう一度息を吐き、そして人形をセナへと手渡す。
「これで良いか?」
「ああ。悪いが少し手を突っ込むぞ」
俺がこくりとうなずくのを確認し、セナがその服の隙間から自身の小さな手を人形の藁の体の中へと入れていく。俺に配慮してくれているのだろう。その動きはかなり慎重だ。
手を突っ込んだままごそごそとしていたセナだったが、しばらくしてその動きを止める。そして苦虫をかみつぶしたかのような顔をしながら人形の中から手を引っこ抜いた。その手には見慣れない1円玉くらいの大きさの金属の丸い板が握られていた。
「なんだ、それ?」
「おそらく発信機だろうな。専用の受信機で位置を特定できるものだ」
「なっ!」
「可能性はあると思っていたが……まさか透が見つけるとはな」
信じられないセナの言葉に、思わずまじまじとその手の金属の板を見つめる。ふつふつとした怒りが沸き上がってくるのを感じていると、セナが奥の部屋へと駆けていき、そして自分の体の大きさほどのトランシーバーのような物を持って戻って来た。なぜかアンテナが2本あるが。
「透。怒っているのはわかるが先に他の人形を調べるぞ」
「ああ。それは何だ?」
「電波や磁力を感知できる探知機だ。万が一のため、アスナに用意させたんだが、本当に役立つとはな」
「そっか」
言葉少なに返事をし、セナに言われるままに人形を運んでその探知機に近づけていく。探知機の中央にあるライン状のライトが伸びて音が鳴ると何かしらを探知したってことらしい。
たまたま俺が見つけた1個だけなんてことはもちろんなく、その後全ての人形を調べた段階で疑わしい人形たちは中国製の人形で3つ、ロシアが先ほどの人形に加えて1つの合計2つだった。
「ふむ、アメリカもあると思ったのだが、アリスの件で警戒したのだろうな。EUは合意が取れなかったのかもしれん。真相はわからんがな」
「そうか」
疑惑の人形たちを手に取り、1体ずつ眺めていく。さすがに国が選んだだけはあって、どの人形にも味がある。その国を代表する人形師による作品なんだろう。俺には作れない人形たちだ。そんな人形たちを……
「くそっ、ロシアの奴ら覚えてやがれよ」
「なぜロシアだけなのだ?」
思わず言葉として出てしまった俺の怒りに反応して、セナが不思議そうな顔をしてこちらを見る。
「いや、中国も余計なことしやがってとは思っているぞ」
「うん? どういうことだ?」
「人形を見ればわかるだろ。中国の人形には不自然な点がねえんだよ。つまり人形の作者自身が事前に何らかのモノを入れることを依頼されて納得したうえでそれを入れて造った人形ってことだ。逆にロシアは後から細工している。つまり人形の作者は細工されることを知らされてねえんだ」
ロシアのもう1つの人形の足先の縫い目を指さしながら解説する。セナがなんとも言えない顔で俺を見ているが、これだけは譲れないラインだからな。
「逆に言えば中国の人形はその発信機とかも込みで完成品とも言えるんだ。諜報用人形って感じか? 一方でロシアは完成品に余計なことをしやがったからな。どちらの罪が重いかは明白だろ」
俺たちだって諜報部のために人形を集めたんだし、相手にだってその権利はあるだろう。でも人形を傷つけるような外道な方法をとるなんて許せるかってんだ! やるなら正々堂々と諜報用の人形を完成させやがれ。
セナは微妙な顔をしているがこれは不変の真理だからな!
「透の言い分はわかった。で、どうするつもりなのだ?」
「何らかの罰は必要だよな。2度とこんなことしねえって考えるくらいのやつが」
「まあ、そうだな。1度でも許せば後はずるずると拡大していくだろう」
「うーん、何が良いか……」
許可を出さずに締め出すってのが、最もわかりやすい方法だと思うんだが、そうなったらそうなったで手に入るDPが減るんだよな。他の国がいるし、日本の奴らもいるから問題ないとも言えるんだが、こんなことをされたんだから少しでも貢献してもらわねえと。
それに人形を傷つけたのは許せねえが、ロシアも12体もの人形たちを奉納している。その人形たちの出来はすばらしいもんだし、その点では感謝してるしな。
気づかれないように考えたのか人形を傷つけたのも最小限だったし情状酌量も踏まえて……
「よし、とりあえずロシアには反省の意を示してもらおうぜ。中国はきつい警告くらいで良いだろ」
「どうするつもりだ?」
「あぁ、2日後にあいつらがやって来たら……」
「ふむ、ならばいっそ……」
「おっ、それも良いな。でもスペースが……」
俺の計画を聞いたセナがニヤリとした笑みを浮かべ、そして改良点を上げていく。それに対して俺も問題点を指摘したりして2人で計画を練り上げていく。その白熱した作戦会議が終わったのは1時間以上経過した後だった。
俺とセナは互いに顔を見合わせて悪い笑みを浮かべる。いや、これは天誅だから天使の微笑みと言っても過言じゃねえだろ。
「じゃ、計画通りに」
「始めるぞ」
俺とセナはそれぞれの役目を果たすために動き始めたのだった。
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