第122話 人形の入手先
少し休むつもりだったのだが目が覚めたのはもう日をまたいだ時間だった。それからアスナが持ってきた人形たちに命を吹き込んでいった訳だが……
「カオスだな」
「ああ」
セナの声に相槌を打ちながら目の前の光景を眺める。魔法少女っぽいアニメ顔のソフビの人形がトテトテと歩き、デフォルメされた猫のぬいぐるみがゴロゴロと床を転がっている。かと思えばシャーマンのような姿をした木製の人形とブリキのロボットがピョンピョンとジャンプしながら角突き合わせている。いや、実際に角はねえけどよ。うん、とりあえず放置だ。
「とは言えある程度の傾向は掴めたな」
「まあな。こいつらは……まあ外国語の話せる奴以外はユウのところでいいか。ユウならまとめて面倒見てくれるだろうし」
「地味に着々と戦力強化されているな。闘者の遊技場が」
「まっ、悪いことじゃないし、良いんじゃねえか? 簡単に突破されても面倒だろ」
俺の言葉にセナが肩をすくめて返してきた。ユウのところには俺が手慰みで造った人形だったりも増えているし、こいつらもかかったポイント的にそれなりに強いはずだからな。
まあそれはそれとして今重要なのは外国語を話せる人形の傾向がある程度掴めたことだ。
「心が必要か……」
「抽象的すぎるぞ、透。工業的な生産物よりは手作業による製作物、新品よりは中古の方が話せる可能性が高いと言うのが正しいだろう」
「それを要約すると心が必要ってことだろ」
「まあ言わんとすることはわからんでもないがな」
自由に動き回る人形たちを見るのをやめ、ぽてっと俺のあぐらの上に腰を下ろしたセナの重みを感じ、俺も視線を人形たちからセナへと向ける。俺を見上げるセナの表情は若干柔らかい。言語問題の対策にある程度目途が立ったからだろう。まあ俺自身、もっと検証に時間がかかると思っていたしな。
チッ、新たな人形を手に入れる大義名分が……
「透、何か良からぬことを考えただろう」
「い、いや。特になんでもねえよ」
鋭い視線でこちらを見るセナと視線を合わせないように目を泳がせていると、小さなため息が聞こえてきた。
「まあいい。とりあえず直近の対応としてはアスナに各国に対応する人形を買って来させれば対処可能だな?」
「ああ。傾向的にちょっと値段が張りそうだけど何とかなるはずだ。英語、ロシア語、中国語、EUは英語に加えてフランス語、ドイツ語、イタリア語、スペイン語あたりで問題ないんだよな」
「うむ」
「海外のドールを専門で扱う店もあるからな。まあ色んな店を回ってもらう手間はあるがそのくらいなら何とかなるだろ」
その手間を引き受けるのが俺じゃなくってアスナってところが厄介なんだけどな。一応ギブ&テイクの関係ではあるんだが、ちょっとボーナスをはずんでやらねえとまずいかもな。
とりあえずポーション系の詰め合わせセットで良いか。アスナ自身もDP使えば作れるはずだが自身の強化に使ってばっかでカツカツっぽいし。必需品の上、消え物だから影響もなさそうだしな。
頭の中でそんな算段をしている俺の耳に「だが」というセナの声が届く。視線を向けるとセナが厳しい表情で俺を見ていた。んっ、何か問題でもあったか?
「今回はこれで対処は可能だ。しかしこれからのことも想定しておかねばならない」
「これからって?」
「今後様々な国の者がこのダンジョンに来るようになるだろう。前例が出来るのだから歯止めは出来ないはずだ。今回は大国だから人形を手に入れる算段もつく。だがその門戸が広がって様々な国が入ってくるようになれば、使われる言語に対応する人形を都合よく手に入れられると思うか?」
「あー、そりゃ無理だな。そもそも海外の人形を扱う店自体希少だし、そんな手広くやっても採算とれねえだろうしな」
うーん、可能性があるとしたらネットで海外通販とかか? でも都合よく人形が見つかるかわかんねえし、載ってる写真とか情報が正しいかもわかんねえしな。時間と経費掛けて買った人形が詐欺みたいな出来だったなんて普通にあり得るし。っていうかなんかムカムカしてきたな。
トントンという膝を叩く感触に、ふぅ、と息を吐いて少し心を落ち着かせる。そして少し頭を振り、苦笑を浮かべながらセナを見た。
「なんかもういっそのことこのダンジョンは日本人専用ですって締め出しちまうか? DP的にはもったいねえけど」
「まあそれも1つの手ではあるな。そうすることで発生する問題もあるが……」
「マジかよ」
「うむ」
即座にうなずいたセナを見て大きくため息をつく。とりあえずどんな問題が発生するかは聞かないでおこう。どっちにしろ問題が起きるならDPが増える方がまだましだしな。
片っ端からアスナにそれっぽい人形を買わせて数打ちゃ当たる方式で行くか? いや、流石にそれは行き当たりばったり過ぎるな。俺的にはある意味で得なんだが、問題の解決方法としては下策だ。
確実に、その国の人間に心を込めて作られた、もしくは扱われた人形を手に入れる方法か。俺が実際に見ることが出来ればその人形に心が込められているかは判断がつくんだが、それはさすがに無理だ。
「んっ?」
考えがまとまらず何気なく壁掛けのタブレットの画面へと視線を向け、そこに映し出された光景に目を奪われる。入り口から入って来たのは桃山たち警官グループと自衛隊の奴らの混成チームだ。それだけなら別に普段通りの光景なのだが、その中心に守られるようにして屈強な黒服の男たち、そしてその黒服たちに囲まれた明らかに戦い慣れていないことがわかる背広姿のひょろっとした男がダンジョンへと入ってきていた。黒服やその背広姿の男は容姿からして日本人ではない。
「あれっ、外国人が入ってくるのって来週のはずだよな」
「うむ。まあ事前の視察と言ったところだろう。あの男は軍人ではなさそうだし戦略的ではない、いわゆる政治屋の形式的な視察だろう」
「ふーん。まああれだけ護衛に囲まれてれば危険なことはないだろうしな」
護衛についているのはこのダンジョンに入っている奴らの中でも上位の実力者たちだ。このダンジョンの経験も豊富だし、案内役兼護衛にはうってつけだろう。さすがにユウのところとかには行かねえだろうし。
背広の男が説明を受けながら1階のチュートリアルを進んでいく。パペットのぎこちない動きに表情を歪めていたが、黒服の護衛たちは流石なもので全く怯えることなく視線を振り分けながら注意深く進んでいた。なんて言うか体格も相まって滅茶苦茶強そうに見えるな。SPって奴か?
黒服たちはときおり言葉を交わしながら連携して進んでいる。もちろん日本語ではなく英語だ。早すぎて俺には良く聞き取れねえけど。
うーん、本格的に海外勢が入ってくるとこういう状況になるってことか。やっぱその言語を扱える人形を集めるのは必須だな。特に問題なく進んでいく集団を画面で見つめながら考えを巡らせていく。
人形を集めるのは必須。とは言えそれを手に入れる方法が……
「あるじゃねえか」
頭の中でひらめいたその考えにニヤッと口角が上がっていくのを感じる。
「何がだ?」
「その国の言語を扱える人形を手に入れる方法だよ。考えてみれば簡単なことだったんだ。なんで思いつかなかったんだろうな」
疑わし気に俺を見上げるセナを見つめ返しながら、俺は歯を見せて笑った。
「とりあえず、あの背広の奴にちゃんと視察してもらおうぜ。海外の奴がこの初心者ダンジョンを利用するためのチュートリアルだ」
俺を不思議そうに見続けるセナをあぐらから下ろし、俺は突貫のチュートリアルのために行動を開始した。
お読みいただきありがとうございます。
地道にコツコツ更新していきますのでお付き合い下さい。
ブクマ、評価、感想などしていただけるとやる気アップしますのでお気軽にお願いいたします。
既にしていただいた方、ありがとうございます。励みになっています。