第12話 例えば妖精のような何か
「重大な欠点?」
疑問を返す俺にセナが首を縦に振って答える。
セナに話しているうちにダンジョンの構想が固まっていったので多少の欠点とか矛盾点とかはあったかもしれないが、重大な欠点というほどのものは無かったはずだ。何か見落としがないか思い返してみても全然わからねえし。
しばらく考えてみたが結局俺は両手を上げた。
「わからん。降参だ」
「ふっ、透は所詮、透だという事だな」
「へいへい。じゃあ答えを教えてくださいますかね。セナ様」
「ふふん、良いだろう。それはな……」
皮肉気にセナ様と言ってやったのにあっさりスルーしやがったな、こいつ。得意げな顔をしながら先ほどの俺を真似てか人差し指を立てながらセナが少しためを作る。
「……」
「……」
「……って長いわ!」
「気の短い奴め。きっとお前はソーロ……」
「言わせねぇよ!」
不穏な言葉を強引に止める。記憶がないからわからんがきっと違うはずだ。そもそも気の長さとは関係ねえだろ。
少し荒い息を吐いている俺を見ながらセナがニヤリと笑う。くそっ、からかって楽しみやがって。
「まあ透いじりはこれくらいにしておいて本題だ。お前の案の重大な欠点。それは教官の不在だ」
「教官? 案内役ってことか?」
「まあそうだな。教官のいないブートキャンプなどパイナップルの入っていない酢豚のようなものだ」
「それは別に個人の好みだと思うが」
「ならばうぐいすの入っていないうぐいすパンだ!」
「それはもともと入ってねえよ!」
反射的に突っ込みながらセナに言われたことを考える。
確かにチュートリアルには案内役は必要だ。ダンジョンの作成期限までは7日の猶予があるが、俺は今日のうちにダンジョンを完成させて地上へ出現させるつもりだ。最初に現れなければチュートリアルっぽくないからな。つまり俺のダンジョンが人類にとって初めてのダンジョンになるわけだ。
初めてのダンジョンなのだから現れたダンジョンが何なのかということさえわからないだろうし、何をすればよいのかなんてわかるはずがない。確かに言われてみればその通りだ。
「看板を作ってパペットにでも持たせるか?」
「柔軟な対応なんてパペットには出来んぞ。質問に答えることも出来ないしな」
「あー、確かにな。それに等身大の動くデッサン人形って見た目ホラーだよな」
もし俺が何も知らないでいきなりそんな奴がぎこちない動きで迫ってきたら絶対に逃げる。顔とか書けば多少はましか? いや、意味ねえよな。
話せて意思疎通が出来そうなモンスターはいることはいるがいずれも高いDPが必要だ。10000DPではとても足らない。そもそも案内役のためだけにDPを使いまくったら意味がねえしな。
あー、どうすっかな。俺が出ていって案内役が出来れば話は早いんだが、さすがにそれは避けたい。俺というダンジョンマスターの存在は隠しておきたいし、万が一ってこともあるしな。
初回だけでいいんだ。あとはそいつらが他の奴らに説明すればいいんだから。それこそ2回目以降はパペットに案内板でも持たせておけば十分になるはずだ。
思考を巡らせていると視線を感じた。セナがこちらを見て笑っている。その姿を見て解決策が浮かぶがそれを首を振ってかき消す。セナの笑みが深くなった。
「ふふっ、お前は甘いな。甘すぎる。気付いたんだろう、解決方法に」
「ああ。だが危険が……」
「ある程度のリスクなど承知の上だ。私が教官役をするのが最適だ。見た目も良いしな」
「自分で言うのかよ」
セナが立ち上がり、その場で回るとサイドテールも尻尾のようにくるりと動く。ふふん、とどや顔をするセナは確かに可愛らしい。デフォルメされた人形だけあってむやみに警戒させることはないだろう。
それでもリスクはある。セナ自身に危害を加えられると言うリスクが。
他に方法はないか考えてみるがセナが案内役をする以上にうまくいきそうな案は浮かばない。壁に詳細な説明を書くなんてことも考えたが明らかに怪しまれるだろうし、何より動く人形というセナの存在自体がダンジョンというものの非常識さを強く印象づけることが出来るという点もメリットなのだ。
「気にするな。私は私の出来ることをするだけだ。それに……」
「それに?」
「透は【人形師】だろう。もし私が壊されたとしたらお前の手で直してくれ」
穏やかな笑みを浮かべながらセナが俺を見る。その視線に、その姿に、俺を信頼していることを感じ胸が高鳴る。ここまで言われてしまっては答えは1つしかない。
「わかった。セナに頼む。そして、もしお前が壊されたなら俺が何としてでも直してやるから安心しろ」
「ああ、頼んだ」
差し出された小さな手を握り返す。人形のセナには体温など無いはずなのにその手はとても温かく感じた。
「さてでは透はダンジョンを造れ。私は教官役の練習をしておこう」
「そうだな。時間との勝負でもあるんだ。役割分担は必要だな」
少しもったいなく感じながら手を離し、タブレットでダンジョンを構築していく。そんな俺の背後でセナが案内役の練習を始めた。
「口でクソをたれる前と後にサーと言え! わかったかうじ虫ども!」
「おい、ちょっと待て!」
お読みいただきありがとうございます。
ローファンタジーの日刊に載っていたようです。ありがとうございます。更新頑張っていきます。