第114話 新たな挑戦者
3体同時の<人形修復>に成功してからは意外とすんなりと<人形修復>出来る人形の数を増やすことができた。まあ想像の中のモールドを増やしていくだけだったしな。ただ滅茶苦茶疲れる。まだ慣れてないからってのもあるんだろうが、疲労が半端ない。ファム特製のポーションを間に何度も飲むことになっちまったし。
まあ時間をかけてやっていた作業を一度に行おうとしているんだから疲労が溜まるのは当たり前なのかもしれねえけど、ちょっとポーション中毒になったりしないかが心配だな。おいおい慣れるのかもしれねえけど。
試行錯誤した時間があったとは言えいつもよりかなり早く<人形修復>を終えることが出来たな。そんなことを考えながら背骨をゴキゴキと鳴らして背を伸ばすとお腹から空腹を告げる音が聞こえてきた。時間を確認すると12時を既に回っている。
「一旦戻るか」
綺麗に列になって体育座りで並んでいる人形たちを見ながらゆっくりと立ち上がる。セナに任せたから問題はないはずだが、だからって手伝わなくて良いって訳じゃねえしな。
人形たちの待機部屋からコアルームへと戻ると、いつもどおりせんべい丸の上に座りながらセナが壁掛けのタブレットの画面を注視していた。
「セナ、終わったぞ。昼飯まだなら用意するけど食べたいものあるか?」
「んっ? 透か。特に希望はないが……」
「食後のアレだろ。わかってるって」
続けようとしたセナの言葉を遮り、食事の準備を始める。食後のアレはいつも通りなので後で用意すれば良いしな。
料理人型機械人形を召喚しようと思ってはいるんだが、最近までフィールド階層の拡張だったり追加の人形の召喚なんかでDPの出入りが激しかったし、<人形修復>なんかに時間を取られて考える暇がなくってずるずると来ちまったんだよな。やっと色々と目処がついたしそろそろ召喚しても良いかもしれねえけど。
「ほいよ、お待たせ」
「ステーキか。うまくいったようだな」
「まあな」
せんべい丸からぴょんと飛び降りたセナがテーブルの席へとつき手を合わせる。その目の前には鉄板の上で良い音を響かせながら湯気を上げる分厚いステーキ肉が置かれている。ちょっとDPを奮発したのに気づかれたか。まあお祝いみたいなもんだしこの程度なら全然問題はない。
「「いただきます」」
2人で手を合わせて食事を始める。分厚いステーキ肉をちまちまとナイフで切り、豪快に口に放り込んでいくセナのギャップに少し笑いそうになりながら俺自身もステーキを切って口に放り込んでいく。疲労のせいか、それともかけたDPが普段の食事の3倍という違いのせいかわからんがかなりうまい。セナも心なしかいつもより満足気だしな。
ちらちらと壁掛けのタブレットも確認するが、今日もお茶会の会場は盛況のようだ。そして死にそうな顔をしながらレーションを食べる奴らがいるのもいつも通りだな。
うーん、周りが食っている飯がさらに美味くなればレーションに当たった奴から入ってくるDPがさらに増えるかもしれねえな。やっぱ料理人型機械人形を早々に増やすか?
「ふぅ、ごちそうさま」
「相変わらず早いな。ちょっと待ってろよ」
「うむ。私も片付けをしておこう」
「頼んだ」
俺の食事が3分の1終わるかどうかといったところでセナはもう完食しやがった。まあコイツの早食いには慣れたつもりだったが今日は特に早かったな。美味かったからか?
美味いならむしろ味わって食うから遅くなるんじゃねえのか? とも思うがまあそれは人それぞれだしな。わざわざそれに口出しをすることもねえだろ。
そう結論づけて、綺麗に片付けられたセナの前のテーブルに用意した緑茶とせんべいを置く。今日はザラメせんべいだ。せんべいの醤油の風味とザラメの甘さが絶妙なバランスでマッチしていると以前セナに太鼓判を押された一品だ。ニッとセナの口角が上がり、その目が柔らかくなった。本当にせんべい好きだよな。
幸せそうな顔をしながらセナがせんべいにかぶりつき、ポリポリと音をたてながら咀嚼を始める。そして全て食べ終えると一口緑茶を口に含み、ふぅと満足げに息を漏らした。
セナが手を合わせ小さな声で「ごちそうさま」と呟き、そして俺の方を見つめた。
「それで<人形修復>はどの程度モノになったのだ?」
「んっ? まあ同時に100体程度は出来るようになったぞ。まだ慣れてないからかなり疲れるけどな」
「ふむ、ではそちらは問題ないようだな」
微妙にアクセントのおかしいその話し様に引っ掛かりを覚える。壁掛けのタブレットへとチラッと視線をやってみたが見たところ問題があるようには見えなかった。普段通りの俺たちのダンジョンだ。
「何か問題でもあったか?」
「いや、問題というほどのことではない。先日聞いた外国の軍人が入ってくる日程がわかっただけだ。直近では再来週の火曜と木曜らしいぞ」
「ついにか。で、どこが来るんだ?」
「火曜がアメリカとEUの合同軍、木曜にロシアと中国が来るそうだ。午前と午後に分けて各国ごとにブリーフィングなどを行うようだぞ。それ以降は1週ごとにローテーションしながら各フィールド階層を回るようだ」
ってことは今公開しているフィールド階層は4つだからおおよそ1か月かけて一回りって感じか。それにしても国単位で入れるフィールドをバラバラにするなんて、慎重だな。
「さすがに一緒のフィールドにはしねえか。揉めそうだし」
「そうだな。それにそもそも軍の訓練自体秘匿されるべき事項が多いからな。公開用の訓練などでもない限り他国に見せるはずがあるまい」
「そういうもんか」
「そういうものだ」
セナが自信満々に言い切るところを見るとその通りなんだろうな。ダンジョンの対応に関しては世界共通の課題なんだから協調すれば良いんじゃねえかとも思うが、そうもいかないってのが今の世界情勢ってところか。ダンジョン対応が一国の手に余るようになるまで変わらねえのかもな。
「まあ、世界情勢なんて俺達が考えることでもねえしな」
「ある程度の知識は必要だと思うがな。とは言え直近で問題なのはそれじゃない」
「んっ、何か問題でもあったか?」
「うむ。単純かつ致命的になるかもしれない問題が存在する」
重々しくうなずくセナの姿からはいつもの冗談ではなく、それが事実だと言うことがはっきりと感じ取れた。頭をひねって考えてみたが特に思いつかねえな。細かい点で問題は起こるだろうとは思うが致命的とまでは言えねえし。
「わからん、降参だ」
両手を上げて態度で示すと、ふぅとセナがため息をつき残念なものを見るような目で俺を見つめてきた。ちょっと心に刺さるやつだ。いや、仕方ねえだろ。思いつかねえんだから。
冷たい視線にしばらく耐えていると、セナが再び息を吐き、そして話し始めた。
「透は外国語が話せるのか? そして人形たちは外国語を理解できるのか?」
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