第112話 必然の限界
お茶会の会場に商品交換所を開いてから2か月が経過した。アイテムが本当に交換できるようになったということで本気になったのかフィールド階層を探索する警官や自衛官の数が3倍くらいにまで増えた。はっきり言ってキャパオーバーだ。
狩り尽くされる勢いで人形たちがやられていくので、フィールド階層を広げて対応したりしてみたのだがその分だけ人数が増えるんだよな。交換所を始める前は5キロ四方×2の広さだったフィールド階層は現在では25キロ四方にまで広がっている。拡張にかなりのDPを使ったが入手できるDPもそれに合わせて増えているのでそのうち元は取れるはずだ。
まあそんな感じでフィールド階層が広がったわけだが、広げていく途中で面白いこともわかった。フィールド階層を広げると変わったオブジェクトが増えることがあるのだ。具体的に言うなら森林フィールドに現れた小さな湖、墓地フィールドに現れた教会、砂漠フィールドに現れたオアシス、湿地に現れた木々の生えた小高い丘なんてものがそれだ。
てっきりコピペみたいな感じで広がっていくんだとばかり思っていたんだがどうやら違うらしい。もしかしたらもっと広げれば別の何かが出てくるのかもしれねえな。
ただちょっと問題なのが先ほど具体的に挙げた4つの場所には人形たちが入ることが出来なかったのだ。いわゆるセーフティゾーンのような扱いなんだろう。タブレットとかで監視する分には問題はないんだが、入るのはどうやっても無理だった。かなり強化されているサンや元々強いスミスやファムでも入ることは出来なかったので、モンスターが入れないような不可思議な力が働いているんだろう。
神様なのかはわからんがあいつの意向なんだろうな。最初に会ったっきりで音沙汰もねえけど。他のダンジョンの奴らからすればいい迷惑なのかもしれんが、俺にとってはちょっと休憩所が増えたようなもんだし問題はねえんだけどな。
もしかしたら9階層までの洞窟タイプのダンジョンも拡張していったらそういうセーフティゾーンが出来たのかもしれないな。
まあ、公開しているフィールド階層についてはそんな感じだ。自衛隊の奴らや警官たちは今日もせっせとフィールド階層で働いてDPを落としていっている。
DP収入が増えたことは嬉しい限りだが、それに伴って問題も発生している。まず第1にお茶会の会場が手狭になってきたことだ。休憩時間を自発的に分散してくれているとは言え人数が増えたから余裕を持って100席用意したはずなのに結構な割合で埋まっちまってるんだよな。
ウエイトレスやウエイターをしている人形は招待状がかなりのペースで集まったのもあって現在では25名まで増えているから人手は足りているんだけどな。今は計画的に時間をずらしてくれているから良いもののお茶会の会場の拡張は視野に入れておいたほうが良いだろう。
うーん、けっこう入ってくるDPが増えてきたから城とかレースをする湖とかを増やそうかと思っていたんだがそっちは後回しにするしかねえか? うーん、悩ましいところだ。
で、もう一方の問題は……
「あー、やっぱ無理だ。時間が足らん!」
「まあそうだろうな」
俺が思わずあげた声に淡々とセナが同意する。さも当然といった顔をしているのがちょっと癪にさわるがまあ現状を考えればその通りという他ないしな。
何が無理かって言えば倒された人形たちの<人形修復>とそれぞれのフィールドにいたパペットたちへの簡易塗装の<人形改造>をすることだ。
「そもそも人数が違うのだから当たり前だろう」
「いや、それはわかっているんだけどよ」
「<人形修復>に関してはタブレットで一括で出来るようになったのだし利用すれば負担も減るぞ」
「それもわかってるんだけどな」
確かにセナの言うことは正論だ。フィールドを広げ、それを攻略する人数が増えたということは倒されるパペットとかの人形の数が増えるということに他ならない。それに対してこちらは俺とセナの2人だけしかおらず、数を増やすことも出来ない。いずれ限界が来るのはわかりきったことだ。
自分の手で修復や改造をしたいってのは完全に俺のわがままだ。でも俺たちのために働いてくれて、そして倒された人形たちくらい自分の手で直してやりたいじゃねえか。でも最近はそれに忙殺されて他の人形造りをする暇もなくなってんだよな。
悩む俺の姿にセナがふふっと笑いを漏らした。
「透の気持ちは十分人形たちに伝わっているはずだ。逆に無理をしてお前が体調を崩す方が駄目だろう」
「うーん……」
「せっかく人形師のレベルが上がって便利になったのだ。有効利用するべきだ」
「まあな」
セナの言うように最近一日中〈人形修復〉や〈人形改造〉していたおかげか人形師のレベルが上がり、一括して修復や改造が出来るようになった。もちろんそれを見つけたのはセナだ。俺は人形関係ではほとんどタブレットを使わねえしな。
確かにそれらを使用すればめちゃくちゃ楽になるはずだ。だけどボタン1つで終わりってのも味気ねえしな……
いや、待てよ。今までのことを考えて見るとタブレットで出来ることって手動でも出来たよな。つまり一括の修理も手動で出来るんじゃあねえか?
「よし、とりあえず一度に複数〈人形修復〉出来ねえか試してみるわ」
「はぁ……まぁ好きにしろ。ダンジョンの監視はしておいてやる」
「悪いな」
「透は紐マスなのだから覚悟は出来ている。気にするな」
「俺的にその紐マスって言葉が気になるんだが?」
俺の問いにセナは答えようとせず、さっさと行けとばかりに手をシッシッと振った。迷惑かけてんのは確かだけど、別に遊んでる訳じゃねえんだけどな。
まあいいや。とりあえずそれは置いておいて複数修復の練習だ。充実した人形造り生活のためにも頑張らねえとな。
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