第111話 機械人形たち
何とか今日中の約束に間に合いました。遅れてすみません。
初心者ダンジョンのコアルーム。当初はただの1つの通路としか繋がっていなかったその部屋はダンジョンが成長するに従い様々な部屋が作られていった。そしてその中の1つ、最も新しい通路には2つの部屋が出来ていた。そのそれぞれの扉には「調薬室」「武器製作室」という簡単な看板が掲げられている。
もちろんそれぞれの部屋の主はフィールド階層の有効活用と検証のために呼び出されたファムとスミスだ。
それぞれの部屋を与えられた2人は日々フィールド階層の素材を使用した研究に余念がなかった。それこそが自分たちのマスターである透に与えられた役目であることを理解していたし、何より機械人形の本能としてマスターには絶対服従なのだから。
「武器製作室」にある轟々と音を立てながら赤く燃える炉に照らされながらスミスが30センチほどの刃渡りの肉厚な金属製のナイフを研いでいる。金属でも武器が作れるか透に聞かれたので即座に肯定し、そして渡された鉄を使用してスミスが造り上げた渾身の逸品だった。
飾り気のない実用性一辺倒なものではあるが、それゆえにそれを造った職人の腕がはっきりとわかる。乱れも欠けもないその刃を眺めスミスは小さく笑みを浮かべるとそれを布で拭い、用意しておいた鞘へとそのナイフをしまった。
そして立ち上がり部屋のドアを開けて通路へとスミスが出ると、ちょうどその反対側の扉が開くのが見えた。そしてその扉の奥から樽を抱えたファムが姿を現す。
「またポーションですか、妹よ」
「ええ、私は忙しいのです、どこかの弟とは違って」
少し得意げに樽を揺らしてみせるファムに対してスミスは小さく鼻を鳴らした。いつもとは違うその反応にファムがその表情を真顔に戻す。スミスは仰々しい仕草で手に持っていた鞘からナイフを引き抜き、そしてそれをファムへと掲げてみせた。
「私はマスターから直々に依頼された武器の製作を終えたところなのです。いつも同じことばかりしている妹とは違うのです」
「なっ! 私の仕事もマスターから依頼されたものです。そこに貴賎はありません。発言の撤回を求めます」
「却下します。金属製の武器が製作できるとわかれば、木製の武器などは交換所の商品として引渡しが出来るようになるでしょう。妹の天下は終わったも同然です」
「ポーションなどの消耗品は必要不可欠なものです。1度買えばしばらく買われることのない武器などに天下を奪われるはずがありません。そんなこともわからないから弟は弟なのです」
「むー」
「むー」
スミスとファムがにらみ合いながら唸り声をあげる。互いに一歩も引かない姿勢だ。そしてしばらくそのまま動きを止め、そして同時に通路の出口へと体の向きを変えた。
「「マスターに判定していただきましょう」」
そして全く同じ歩調で通路を歩き、コアルームへと繋がる扉を開くとそこでモニターを観察していた透のもとへと2人は歩み寄っていった。
「マスター、ご注文のポーションをお持ちしました」
「マスター、試作を依頼された金属製のナイフの作成が出来ました」
「おっ、おお。ありがとな」
「「それではマスター、どちらがお役に立っているでしょうか?」」
「いや、2人とも頑張ってくれているし役に立ってるぞ。それがどうかしたのか?」
スミスとファムの言葉に少し首をかしげながらも、透が2人の頭をポンポンと叩いて笑みを浮かべる。2人は思わず笑みを浮かべ、そしてお互いの顔を見合わせてすぐに真顔に戻った。
「ナイフか。ちょっと借りるぞ」
3人に近づいてきたセナが鞘からナイフを抜く。そしてしばらく感触を確かめたかと思うとそのナイフを持ったまま腕をしなやかに振った。ヒュン、と音を立てたナイフが回転しながら飛んでいき、そして先程までセナが座っていたすぐそばの壁へとスコンと音を立てながら突き刺さる。
「ふむ。投げることも可能か。良いナイフだ」
「ありがとうございます。広い用途で使用できるようにデザインしました。他の金属でも武器の製造は可能です」
ナイフの感想を述べるセナにスミスが解説する姿を眺めながら、透は壁に刺さったナイフを抜きに行く。そしてナイフのすぐそばで震えていたせんべい丸に小さな声で「大丈夫か?」と問いかけると、せんべい丸はブンブンと首を横に振り訴えかけるような目で透を見つめた。透が無言でこくりと首を縦に振る。
「セナ、お前なぁ。せんべい丸が可哀想だろ」
「んっ? 当てるつもりはなかったし、どちらにせよテストはするのだから当たったとしても問題ないだろう?」
「俺が入ってねえだろうが」
「おっ、そういえばそうだったな」
ガタンと盛大な音がし、立ち上がったせんべい丸がブンブンと手を横に振っていたが、せんべい丸の意味不明な行動に慣れている2人はそれに構わず話を続ける。
「しかし金属製の武器を作れるとなると、木刀とかも交換所の商品にしても良いかもな。もしくは金属製の武器を目玉商品で入れるとか」
「今回は最高品質を目指しましたが、あえて質を落とすことも可能です」
「ふむ、それならば良いかもしれんな」
「ポーション以外の薬品系のアイテムの作成も可能です。そちらを増やしてみては?」
「おっ、それも良いな。回復アイテム系は需要が高いしな」
交換所のアイテムについて話を続ける4人の姿に、がっくりとせんべい丸が肩を落として元の位置へと戻っていく。その背中には哀愁が漂っていたがそれに4人が気づくことはなかった。そして今後の交換所の追加商品についての話し合いがある程度終わり、そして話が途切れた。
パンと透が手を打ち、注目を集める。
「じゃ、そんな感じで。スミスもファムも頼りにしてるぞ」
「「わかりました。お任せ下さい」」
透の言葉に声を合わせて答えた2人が作業を再開すべくそれぞれの部屋のある通路へと戻っていく。その背後で透とセナが2人で話していた。
「機械人形ってやっぱすげえな。スミスもファムも役に立ちすぎだろ」
「交換所も盛況なようだしな。ポイントも順調に溜まっているし本当に料理人型の機械人形も召喚してしまうか?」
「それも良いかもな。食生活も改善するし、お茶会の会場のメニューも増やせそうだ」
「「!!」」
透とセナのそんな会話にスミスとファムは目を見開き、しかしリアクションをしないままコアルームから自分たちの部屋のある通路へと出て行った。そしてそれぞれの部屋の前で立ち止まりお互いに顔を見合わせる。
「とりあえず我々の決着は置いておきましょう。次に呼ばれる弟や妹の手前で争うのは愚の骨頂です」
「そうですね。弟や妹に兄としての威厳を見せつけなくてはなりません。一時休戦しましょう」
「では」
「では」
握手を交わし、そして2人が自分の部屋へと戻っていく。そして通路には誰もいなくなった。
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