第106話 交換所始めました
お待たせしました。
お茶会の会場でのアイテム交換に関しては以前からセナとも何度も話し合っていた。最初は招待状の枚数とDPをイコールにでもするかと思っていたんだが、実際のフィールド階層の人形たちの倒され具合を考えて、とりあえずおおよそDPの5倍で交換ってことに落ち着いている。つまり1DP=招待状5枚って訳だ。
はっきり言って暴利だとは思うが、こんなことをしているのは俺のダンジョンだけだし、他のダンジョンでは相変わらず宝箱からアイテムを得ることすらあまりないらしいので大丈夫なはずだ。
まっ、目玉も用意したしな。
そしてついに招待状10万枚を達成したのは衣装が届いた4日後だった。フィールド階層の開放から考えるとおよそ1か月半ってところだ。平均すると1日に2千枚以上の招待状を集めたってわけだ。やっぱそれなりの人数をかけて、しかもそいつらが飽きもせずにやる気で続けられるとやばいってわかる数値だ。収支としては黒字だから問題はねえし、毎日毎日ご苦労様とも思うけどな。
そして招待状10万枚を達成した翌日、いつもどおり昼近くになって自衛隊の奴らがアリスのいるフィールドへと戻ってきた。そしていつも通りドロップアイテムをアリスへと渡し、招待状を受け取った。
いつもならそのままお茶会の会場へと向かう奴らをアリスは見送るだけなのだが、今日は違う。アリスが自衛隊の奴らに、にこっと笑みを浮かべる。
「お茶会の会場でアイテムと招待状を交換できるようになったよ」
「本当か!?」
「本当だよ。おめでとー」
パチパチと笑みを浮かべながら拍手をするアリスを見ながらしばしの間自衛隊の奴らは相談をしていたが、数人の自衛隊員が墓場のフィールドへと向かい、残りはその場で待機してアリスにあれこれと質問をしていた。もちろん交換できるアイテムなどについてだが当然のごとくアリスに「知らなーい」と袖にされていた。まあアイテム交換はアリスの役目じゃねえしな。
しばらくして墓場のフィールドからぞろぞろと自衛隊の奴らと桃山を始めとする警官たちがやってきた。その人数は100名に近い。墓場のフィールドを攻略していた奴ら全員が来ているみてえだな。もしかして全員で行くつもりか? 一応席は100席用意してあるから座れることは座れるんだが、人手がちょっと足らねえな。
そんなことを考えながらどうするのかを見守っているとやってきた奴らが持っていたドロップアイテムをアリスへと渡して招待状に交換し、そしてそれを自衛隊の牧が集めていった。牧に招待状を渡した奴は墓場のフィールドへ戻っていき、最終的に残ったのは牧と杉浦を含む自衛隊が6名、桃山や加藤を含む警官が6名の、合わせて12名だ。
「行くぞ」
杉浦の指示に従ってそいつらがお茶会の会場へと入っていく。桃山は明らかに楽しげに笑っているが、他の奴らの表情もどこか柔らかい。まあ1か月半黙々と戦い続けてきた成果がやっと現れたんだから当たり前かもしれんが。
お茶会の会場に降り立つと、杉浦たちはいつもの食事を取る庭のテーブルではなく、真っ直ぐに家に向かって歩いていった。アイテム交換は家の中で行われるからな。
うさぎの耳の形をした煙突が特徴の赤い屋根のその家の扉を杉浦がノックし、しばらく待っても返事がないことに首をかしげながらそのドアノブをひねる。扉はなんの抵抗もなく開き、そして杉浦たちは警戒しつつも中へと入っていった。
家の中は一言で言えば雑多な印象だ。食器棚や本棚などがいっぱいに並び、あちこちにある木釘に地球のものではない地図や誰が書いたかわからないような絵がぶら下がっている。食器棚の中には壺やらなにやらが入っていて、その中には「オレンジ・マーマレード」と書かれた空っぽの壺ももちろんある。まあこれに気づく奴はあんまりいないかもしれねえけどちょっとした遊び心ってやつだな。
一応この内装はアリスが穴を落ちるときの壁面をイメージして作ったものだ。お茶会の会場である三月うさぎの家の中の描写はないしな。
全員が入ったことでかなり手狭になったその部屋で杉浦たちは正面に設置されたカウンターの方を見つめ固まっていた。うん、完全に困惑してやがるな。まあそれも当たり前かもしれねえけど。
カウンターの向こう側にいたのは、きのこの椅子に座りカウンターにぐてっと体をあずけながら水キセルを咥えて煙を口から吐き出している青虫の着ぐるみを着た人形だ。その表情は眠たげでやる気の欠片さえ見えない、と言うか入ってきた杉浦たちのことを見ようともしてねえし。
やっと招待状を交換できると意気揚々とやってきて、コイツがいたらそりゃあ困惑もするってもんだろ。
「すまない、招待状とアイテムが交換できると聞いてきたのだが……」
杉浦が少し遠慮気味に話しかけると青虫はちらっとそちらへと視線をやり、そしてごそごそとカウンターの下を探るとぺいっと1枚の紙をカウンターに置いた。その場にいた全員の視線がその紙へと集中する。
その紙に書かれているのは現状で交換可能な物の一覧だ。ポーションなどの消耗品を中心として、ウォーターなどの生活魔法のスキルスクロールやスミスが作った木刀もそのリストに入っている。
リストを見ながらざわざわと会話を交わしていく自衛隊の奴らや警官たちをよそに、青虫はただ煙を吐き出しながらだらーんとしている。水キセルはただの小道具だし、そもそも人形に薬や毒の類は効かねえから中毒とかじゃなくて、これは完全にこいつの性格だ。なんでこんな感じになったのかはわかんねえけど。
店員としては明らかに向いていない。現実にいたらなめてんのかってクレームになること間違いなしなんだが、不思議の国って考えるとこれでも些細な問題な気がしてくるからすげえよな。
そんな青虫を無視してしばらく交換するアイテムについて話していた杉浦たちだったが、最終的には1つの交換アイテムに目をつけたようだ。他のアイテムが最低でも150枚はするのに25枚で交換可能だしな。まあ今回の交換アイテムの目玉商品として用意したんだから当たり前なのかもしれねえけど。
「すまない」
再び話しかけてきた杉浦に青虫が視線だけを向ける。そんな姿に少し苦笑しながら杉浦は言葉を続けた。
「この25枚で交換できるポーション(樽生)とはなんだろうか?」
お読みいただきありがとうございます。
滞ってしまっている感想返しは夜にさせていただきますのでもう少々お待ちください。
ブクマ、評価、感想などしていただけるとやる気アップしますのでお気軽にお願いいたします。
既にしていただいた方、ありがとうございます。励みになっています。