第105話 新しい衣装
俺たちがフィールド階層の武器問題の検証をし始めた翌日、予定より早くアスナが人形たちの衣装を持ってきた。これ幸いとセナが検証用の武器の発注をかけた訳だが、とりあえず木刀だけは早めに欲しいと言ったところ1時間もしないうちに10種類以上の木刀を持って帰ってきた。どうやらそんなに遠くない場所に剣道具の店があるそうだ。
まあ警察って剣道の有段者とか多いらしいし、お得意様の近くに店があるってのは当たり前か。
で、さっそく検証してみた結果なんだが、やはり普通の木刀よりフィールド階層の木から削り出したスミス特製の木刀の方がはるかに衝撃があった。フィールド階層に生えている木にはダンジョン産の武器と同じような性質が有り、削り出した程度であればその性質が変わらないことが証明されたって訳だ。
後はそれを外の武器と組み合わせた場合、どの程度の加工までその性質が維持されるのかってことだが、こればっかりは今度アスナが色んな武器を持ってくるまでおあずけにするしかねえ。比較用の物がないと検証しても意味ねえし。まあ、しばらくは武器に適した素材を探したり、武器の種類を増やしたりして過ごすって感じか。
一応フィールド階層で近々に検証しておかないといけないことの目処は立ったので一安心だ。おそらく俺のダンジョンで本格的に使用されるようになるまでにはある程度の検証は出来るだろう。あとはどんな武器を作ってきやがるのかってとこか?
まっ、そんなことより大事なのは人形たちの衣装だ。今回アスナが持ってきたのは5着。注文してから10日ぐらいしか経っていないってことは郵送の時間とかを考えれば実質作業したのは最大でも8日くらいか。明らかに少なすぎる日数にも関わらずその出来はいつもどおり文句のつけようのないほどの物だ。
しかもすげえのが一着一着にちゃんと手書きのメッセージが添えられているんだぜ。しかも同じ内容じゃなくて、その服に関する想いとか、着せ方の注意点とかが達筆な字で書かれているんだ。
普通、人形のオーダーメイドの服なんて言ったら最短でも1か月とかだし、下手すれば半年なんてこともあるんだけどな。これだけの腕を持っているなら絶対に太い顧客がついているはずだから俺の注文だけをこなしているって訳じゃあないと思うんだが、経験の成せる技なのか?
確かに一律で一着5万って言われると普通の服の何着分だよと思うかもしれねえけど、個人でオーダーメイドで請け負っていると考えると高すぎるってわけじゃねえしな。
それにマイ人形があるような奴なら自分の子に良い服を着せてやりたいって思うのは当然だ。おしゃれをさせてやりたいとか季節のイベントにあった衣装を、とか考え始めると一着買って終わりってわけじゃねえしな。そのせいで金策に苦労するわけだが。とは言え今の俺はたった500DPのスクロールをアスナに渡せば、値下がりしたとは言え100万以上は手に入るからな。そこを気にする必要がないってのはありがたいんだが。って……
「おぉー、こう来たか」
「なんだ、それは?」
一着一着手紙を読みつつ丁寧に取り出していき、ついに一番楽しみにしていた衣装を見つけて思わず感嘆の声を上げる。同じく覗き込んでいたセナがなんとも言えない表情をしてそんなことを言うくらいその衣装は異色だった。
「青虫の衣装に決まってんだろ」
「衣装と言えるのか? 寝袋にしか見えんが」
「寝袋ってお前なぁ」
セナの発言にふぅーと息を吐きながら首を横に振る。わかってねえ、わかってねえよ。
確かに今俺が持っている青虫の衣装は、今までのようなドレスじゃない。丸いパーツが連なりつながっていく姿は確かに寝袋に見えないこともないだろう。しかしよく見れば実際の青虫のリアルさを出すために薄い毛など拘りつつ、気持ち悪いどころか可愛いという絶妙なラインをキープしているんだぞ。それがわからねえとはな。
「痛っ、何しやがる!」
「なんとなく馬鹿にされた気がした」
「なんとなくで蹴るなよ」
俺の抗議を全く意に介した様子もなく俺のスネに蹴りを入れたセナがしげしげと青虫の衣装を眺めている。チッ、図星だからこれ以上の反論は出来ねえ。下手したら墓穴を掘っちまうし。
「しかし今回送られてきたのはちょっと今までと毛色が違うんだな」
「まあな」
青虫ほどじゃねえけど今回送られてきた衣装は今までのドレス風のものとは違い、ちょっと尖ったデザインのものが多いから流石にセナでも気づくか。
「そういえば透の造っていた人形たちも今までと比べると少し違ったような……」
「おぉ! そこに気づいたか。セナもようやく人形造りがわかってきたじゃねえか。一緒に造るか? 教えるぞ」
「うざい顔で近づいて来るな。それより何か狙いがあるんだろう?」
自分的には良い笑顔で、人形造りの同士を増やそうとしただけなんだけどな。うざいって、いやまあそうかもしれねえけどばっさり切りすぎだろ。
はぁ。とは言え人形造りは嫌々やっても魂がこもらない駄作になっちまうからな。語りあったりできる同士が増えたら嬉しいんだが、ダンジョンマスターじゃあ広げようもねえんだよな。
あっ、ぐだぐだ考え事してたらセナの視線がかなりきつい感じに。えっと何だったっけ?
「おっ、衣装の狙いだったな。簡単に言えばアリスの世界を表現するならドレスだけじゃ物足りねえからだな」
「アリスの世界か……まぁ確かにな」
俺のその言葉だけでセナはある程度納得できたようだ。俺にアリスの話を詳しく教えてくれたのはセナだし、世界観についてはよっぽど俺より詳しいから当たり前だな。
不思議の国のアリスって登場するキャラクター全てが一癖も二癖もあるような奴ばっかりだし、内容自体も定石って何? って感じだしな。まぁオチから考えると順当かもしれねえけど。
せっかくお茶会の会場をアリスの世界にしたんだからそれを少しでも表現したかったんだよな。普通だと思いきやちょっとずつ狂っていく感じもアリスっぽいし。
「でも何とか10万枚に間に合って良かったな」
「おう、ロウのおかげだな」
実際あともうちょっとロウが出現するのが遅れたら間に合わない可能性もあったし。そう考えると加藤のおかげでもあるか。感謝する気持ちよりいつもお疲れって感じだけどな。
「ファムのポーションも思いのほか量が出来るようだし、いよいよか?」
「そうだな。きりも良いし良いだろ」
「「景品交換所の開店だ」」
声を合わせ、顔を見合わせながら俺とセナはニヤリと笑い、握り拳をぶつけた。
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