第104話 機械人形の仕事ぶり
すみません。少し遅れました。
スミスとファムが働き始めたおかげでフィールド階層の調査と検証にはおおよそ目処が立ったと思う。現状ここにある物で何が出来そうかを考えてもらったんだが、それだけでも何種類かは武器が作れそうと言っていたしな。ただやっぱ乾燥していない状態で作ると後で曲がったり割れたりするそうだ。
俺が作った木刀も見てもらったんだが、何と言うか、もにょっとした顔をしながら「頑張りましたね」と微妙な評価をもらった。イコール、ダメってことだな。
スミスとファムは機械人形というモンスターの特性なのかはわからんが、ダンマスの俺に対しては絶対服従みたいな感じがあってそれがちょっと残念なんだよな。いや、今まで召喚した奴らがそうじゃないとは言えねえんだが、サンや先輩たちとかと比較すると個性がないっていうのか? なまじ話すことが出来る分だけそう思っちまうのかもしれねえけど。
まあこれから長い付き合いになるんだし、その途中で性格もわかっていくって期待しておくか。
ファムは実際にどんなものがあるのかを見に森林のフィールド階層へと行っている。もうダンジョンに侵入している奴はいねえし、お付き兼荷物持ちとして何体かのパペットを連れていったから問題はないはずだ。
一方でスミスは残ってとりあえず木刀を作ってみると言っていたので工作用の部屋を用意して見学することにしたんだが……
「おぉー!」
やばい。機械人形の武器作り滅茶苦茶面白いんだけど。
武器作りの道具とかを用意しなくて良いのか聞いたときに、現状では必要ないと返事をされた時点でもしかしてと思っていたんだが、やっぱ内蔵型だったか。
木の板の前に立ったスミスが手を伸ばすと手首から先がいきなり収納されて、その代わりに電動ノコギリが現れた。ウィーンという音を立てながら高速で回転を始めた刃が厚い木の板をあっさりと切り裂いていく。特に線を引いておらず何かで固定していた訳でもねえのにその切り口は真っ直ぐでとても綺麗だ。それを2回繰り返して厚さ4センチほどの木の板を作り上げ、そしてその板から緩やかな曲線を描く木材を電動ノコギリで切り出した。
この時点でもうすでに武器として扱えそうなんだが。
その後も電動ヤスリが出てきたり、物を固定するための万力のついたアームが背中から現れたりと、様々なギミックに驚きながらも眺め続け、結局30分もかからずにスミスは木刀を作り上げちまった。うん、これを見れただけでもスミスを召喚して良かったって思えるな。
しかし武器を作っている時のスミスは真剣で良い表情をしているな。やっぱ機械人形といっても根は職人なんだろう。
「どうぞ」
スミスが持ってきた木刀を受け取る。木刀の良し悪しなんて俺にわかるはずもねえが、手に持ってみるとなぜかよく馴染んだ。持ち上げて軽く振ってみるが俺が作ったもののような違和感はない。その見た目も刃を模したラインは一筋の乱れもなく続き、その表面はニスを塗ったわけでもないのに光沢を放っている気さえするほどの出来だ。文句のつけようもねえな。
「マスターの体型に合わせました。ただ木の乾燥が十分でないため強度に不確実性があります」
「検証するためだけなら十分すぎるだろ。ありがとな、スミス」
「いえ。では私は別の武器の作成に入ります」
「おう、適当に休めよ」
武器作りに戻っていくスミスを見送る。そしてスミスが再びその体から工具を……っていかん。また武器作りに目を奪われちまうところだった。とりあえずここにいても邪魔になるだろうし退室するか。
木刀を持ったまま工作部屋からコアルームへと戻ると、そこではセナがせんべい丸の上に座りながらせんべいを食べているところだった。見慣れた光景ではあるんだが、なんともシュールだよな。せんべいの人形の上に人形が座ってせんべいを食べるんだぜ。
「んっ、もう終わったのか?」
「おう、とりあえず木刀一本だけだけどな。機械人形特有のスミスの武器作りは面白かったぞ」
「それは良かったな。どれ、見せてみろ」
セナに木刀を渡すが、そもそも小さいセナが俺サイズの木刀を持つとかなり違和感が有るな。なんていうか、やじろべえみたいだ。そう思った瞬間、チラッとセナがこちらに鋭い視線を向けてきたので不自然にならない程度の動きで視線をタブレットの方へと移す。
怖っ。俺の思考が筒抜けになってるとかじゃねえよな。
タブレットにいくつか浮かんだ画面の中で一番大きな画面には森林のフィールドが映されており、その中ではファムがせっせと木の葉っぱを採取している最中だった。お付きのパペットたちに背負わせたかごには様々な種類の木の葉や草、実なんかが結構な量入っている。
「ファムも早いな」
「うむ、どうやらポーションなら今ある素材で作れそうだと言っていたぞ」
「えっ、マジで?」
「マジだ。ほらっ、返すぞ。検証だけに使うにはもったいない出来だ」
「だよな」
木刀を受け取りつつ、セナの言葉を反芻する。スミスはこんな武器を30分足らずで作り上げるし、ファムも30分もしないうちにポーションに使える材料を発見した。機械人形有能すぎねえか? いや50万DPすることを考えれば当然なのか。
とは言えセナが言うようにもったいないってのも確かだ。武器だって今は検証用に作ってもらっているから速度優先だが、素材をちゃんと用意すればもっと良いものが出来るはずだ。でもこれでも十分に武器として使用できるんだよな。
「ふむ。ポーションは瓶にでも詰めて宝箱に入れるか。作る手間はあるし瓶のDPはかかるが安上がりだしな」
「作れる量次第だが、良いかもしれねえな」
ポーションを普通に購入しようとすると50DPかかるが、その瓶だけなら5DPで購入可能だ。今の保有しているDPからすれば些細な違いのようにも見えるが毎日結構な数が出るもんだし塵も積もればってやつだな。その分人形造りとかに使えるようになるし。
まあポーション作りにかかる手間があまりに多かったり、出来上がる量が少なかったらダメだけどな。
「では早速検証に入るか?」
「そうだな……」
俺たちの言葉にセナのクッション化しているせんべい丸がビクッと震える。うーん本当に嫌なんだな。この反応を見ちまうと怪我しないってわかっていても攻撃するのをためらっちまうな。
まぁ殴られるのなんて誰だって嫌だから当たり前だし、俺だってやりたくねえけど今後のためにもやらないってのはない。
今までみたいに半ば冗談混じりじゃなくて実際にやるとなると気が重いな。俺が変わってやれれば良かったんだが俺の場合下手したら死ぬし、下手しなくても怪我するし。
手に持った見事な木刀を見る。あぁ、作るのを見るのは楽しかったなぁ。削るときに万力アームが出てきて木刀を固定した時なんて……
「あっ」
「んっ、どうかしたか?」
せんべい丸から降り、着々と検証の準備を進めていたセナが俺を見る。その横でクタッと本当のクッションに擬態しているせんべい丸に向けて俺はニヤリと笑って言った。
「なあ、検証の方法を変えようぜ」
いやー、なんで思いつかなかったんだろうな。別に俺が殴らなくても良いんだよな。要はどのくらい衝撃があるかわかればいいんだし。
「良いぞ、透」
「うし。じゃあ行くか、せんべい丸」
さっきまでとは種類の違う木刀がセナによって狭い通路の両サイドの壁に空いた穴に突っ込まれ、通り抜け禁止の棒のようになっている。そして俺を内蔵したせんべい丸がそこへ突っ込んでいく。
ボキッ
軽い衝撃とともに木刀が真っ二つに折れる。うーん、さっきよりは軽いか?
「ちょっと弱いか?」
俺の問いかけにコクリとせんべい丸もうなずく。うん、やっぱ二人で判断したほうが確実だよな。
いやー、我ながら良い思いつきだったよな。別にわざわざ殴らなくても固定してそこに突っ込んで行けば一緒なんだし。突っ込む速度はせんべい丸に任せれば一定に出来るしな。
せんべい丸も殴られるんじゃなくて自分で突っ込むだけだからそこまで嫌そうじゃない上に、俺も殴らずに済むって言う画期的なアイディアだ。
おっ、スミスが新しい木刀を持ってきたな。んじゃ続きを始めるとするか。せんべい丸の中で軽い足取りを感じながら俺は笑うのだった。
「あの、マスターは何をしているのでしょうか?」
「気にするな。ただ馬鹿なだけだ」
お読みいただきありがとうございます。
地道にコツコツ更新していきますのでお付き合い下さい。
ブクマ、評価、感想などしていただけるとやる気アップしますのでお気軽にお願いいたします。
既にしていただいた方、ありがとうございます。励みになっています。