第102話 機械人形
やっぱこの召喚の瞬間はワクワクするな。新しい人形との出会いっていうのか。確かに自分で人形を造るという楽しみ方もあるんだが、自分以外の奴が造った人形を見るのもいいもんだしな。造り手によってめちゃくちゃ個性が出るし。
そのうえ今回は機械人形だ。さすがに機械人形を直接造るなんてことは俺には出来そうもないし、さらに言えば1体につき50万DPもつぎ込んだんだからどんな性格の人形なのかも楽しみだしな。
そして片膝をつき顔を伏せていた人形たちがゆっくりと立ち上がりその顔があらわになる。
「……」
「ふむ。どっちが調薬士型でどっちが武器職人型なのだ?」
「私が調薬士型機械人形です」
「私が武器職人型機械人形です」
向かって右の人形が調薬士型で、左の人形が武器職人型らしい。
機械人形ってどんな感じの奴かと思っていたんだが、見た目的には普通の人間に近い。真っ白なつるっとした表面のボディにところどころに入っている切れ目と青のラインがメカチックではあるが体つきは人間そのものだし、その顔も15歳程度の子供のような中性的でどこか幼げな容姿をしている。ちょっと青く光る眼が変わっているっちゃあ変わっているが、それも人形としての個性だと考えれば気にならない。
それは気にならねえんだけどな……
「お前たちを召喚したのは、今私たちがしているフィールド階層の素材を……」
するっと話を進めようとしていたセナの肩をがしっと掴んで止める。止められたセナが俺を見て驚いたような顔をしているが今はそれどころじゃねえ。
話が止まったことで機械人形たちが少し首をかしげながら俺に注目する。全く同じ姿で全く同じ動き。俺にはまるで同じ製造ラインで作られた、個性のないただの機械のように感じられた。
やっぱり俺はこのダンジョンなんてもんを作った奴が大嫌いだ。根本的に人形に対する考え方が合わねえし。
機械人形って言うシリーズものなんだ。ある程度の統一規格があっても良いだろう。それは認める。だがそれぞれの型ごとにそれに似合った姿にしてやる程度の愛情は注いでやれよ。最悪服とかだけでも良いんだ。個性ってもんを出してやれよ!
100種類もいるんだぞ。それが何の変わりもなく同じ姿ってどう考えても手抜き以外考えられねえだろ!
「なあ、お前ら。今の自分の姿にこだわりとかあるか? それか姿が変わると動きづらくなるとかは?」
「「いえ、ありません」」
「そっか……そうか。なあセナ、ちょっと時間をもらえるか?」
「んっ? いいぞ、透の好きにしたら良い。私としてもいちいち名前を確認するのは面倒だと思ったしな」
「悪いな」
一応セナにも確認をとったが、もし否定されてもたぶん俺は我慢できなかっただろうな。まあセナもそんな俺のことをわかっているからこそ同意してくれたんだと思うが。
人手を増やし、効率を上げるためという目的から考えれば俺の行動はそれに逆行しているかもしれねえ。でもこんな姿で働いてもらっても俺が悲しくなるんだ。だから俺は俺のためにこいつらに愛情を注がせてもらう。造った奴が注がなかった分だけ、いやそれ以上にな。
機械人形たちをじっと見つめ、そしてイメージを膨らませていく。
大丈夫だ。名前を見て決めて、どんな奴が来るんだろうかといろいろと妄想していたからな。ある程度の姿は固まっている。後はそれを詳細まで詰めて、愛情を注ぎつつ丁寧に再現していけば良いだけだ。
「じゃあ行くぞ。お前たちにふさわしい姿に生まれ変わらせてやるからな」
「「はい」」
双子のようにそろった返事を聞きつつ、<人形改造>に入る。
調薬士型のイメージカラーはやっぱり緑だ。これからは原料である草とか木の葉をゴリゴリとすり潰していろいろと調べたり作ったりするようになるだろうからな。しかし髪の毛を緑にするとセナとかぶるから木の幹の色のブラウンの方が良いな。あいつは特別だし。
服はやっぱり白衣か。そこにボタンとかベルトとかワンポイントで緑を差し込んでいく感じでまとめるのが良さそうだ。後は帽子を被らせて、うーん何のデザインもないのは寂しいから四つ葉のクローバーをワンポイントに。
武器職人型は赤が妥当か? 攻撃的な色だしやっぱ武器って言うと鍛冶場のイメージがあるしな。将来的には金属製の武器も作ってほしいし、金属を抽出してくれれば新しい人形造りの材料にもできるだろうしな。炎に照らされる紅の髪。良いんじゃねえか。
服はもちろん赤のシャツの上に革をイメージした焦げ茶のオーバーオールだ。で、目を保護する首からかけられるようなゴーグルは必須だな。普段は頭の上でバンダナ代わりか首掛けのネックレス風味にするか? 悩ましいな。
2人共顔が全く一緒ってのはどうかと思うが、せっかくのシリーズものなので似ても似つかないようにするのは勿体ねえな。同シリーズってことは双子みたいなもんだし。
元々の顔の造りは悪くねえしそれを活かして、中性的な顔だしどうせなら男と女に分けると考えると……やっぱ武器職人が兄で調薬士が妹か? 鍛冶馬鹿で良く火傷をする兄を心配して妹が調薬士になったとか。いや、逆も捨てがたいな。くそっ、悩む。
「あの、私達はいつまでこのままなのでしょうか?」
「わからん。人形馬鹿が満足するまでだからな。別に嫌と言う訳ではあるまい?」
「合理性はないと思いますが、嫌ではありません」
「そうか」
セナと調薬士型機械人形が何やら小声で話している横で、俺は武器職人型機械人形の頭をあぐらの上に乗せながら頭を抱えるのだった。
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