第100話 武器製造の先へ
実験を行うにあたって、まず問題になったのはどうやって武器として加工すんのかってことだ。セナは適当な大きさの木の枝の先端をナイフで削って原始的な槍みたいなもんを作っていた。なんでも即席のブービートラップとして使うことがあるらしくその手際は見事なもんだ。
とは言えそれだけじゃ十分じゃねえんだよな。比較検討するにはいろんな武器が必要だし、いろんな加工をしてみる必要がある。とは言えそんな知識や技術が俺にあるはずもなく、さっそく行き詰まったわけだ。
「うーん」
「どうした?」
「いや、ダンジョンの外の武器とかはアスナに買ってきてもらうまで試せねえし、武器を作るような知識もねえからどうしようかと思ってな」
「透は攻撃役という役割があるだろう」
「気は進まねえけどな」
セナに言われて思い出したが、そういえばその問題もあったな。心がどんよりと重く感じる。
モンスターは基本的に武器とか防具とかを装備できねえんだよな。例外としては<人形改造>で体を武器のように加工するか、もしくは武器を持った状態で<人形創造>をするしかない。だがそのどちらもDPが必要だ。
別にDPが切迫している状態じゃねえけど、成果が上がるのかもわからん実験に使っちまうのは気が引けた。だって俺なら別にその制限はないんだしな。ただ人形を攻撃するってのが嫌だっていう問題はあるんだけどな。
いや、自分でもわかっている。攻撃を受けるせんべい丸は10万DPもかけたかなり強い人形だ。鍛えてすらいないもやしの俺が攻撃したところでせんべい丸がどうにかなるようなことはない。
でもなぁ、気分の問題なんだよな。傷つくことがないってわかっていても簡単には割り切れねえし。
「いっそ振り子みたいなもんを作って……いや、人形を傷つけるってのは変わんねえし、そもそもどうやって振り子を作るんだよ」
「木を使って振り子のように丸太とかを当てるトラップなら作ることが出来るぞ。設置するのが多少大変だがそれでも良いならな」
「それはそれですげえけど、そこに労力を使うのは違うだろ」
ちょっと残念そうにするセナには悪いが、さすがにそれは本来の目的から外れすぎだと思うしな。と言うかそのリアクションからしてやりたかったのか? よくわからんな。
うーん、やっぱ覚悟を決めるしかねえか。
しかしどっちにしろ加工して作った武器の種類が少なすぎるって問題は解決してねえんだよな。アスナにいろいろもってきてもらえば実験のしようもあるんだが次に来るのはたぶん1週間くらい後のはずだ。そこで依頼して、持ってくるのは次の時だから結構時間がかかる。それまで何もしないってのもダメだよな。
うーん、セナを見習って俺も木でも削ってみるか。一応木製の人形なんかもあるから作業自体は専門外って訳でもねえし。ただ普通は乾燥させた木を使うから切り倒したばっかの木は勝手が違う可能性もあるけど。
それからしばらく黙々と切り出した木を削ったりやすりがけしたりした訳だが、出来上がったのはちょっといびつな木刀もどきだった。いや、形としてはまあまあうまくできていると思うんだが、なんというか持ちづらいんだよな。
作った木刀を握って少し振ってみる。うーん、なんか振りづらいな。バランスが悪いってのか。やっぱ見た目重視の人形の武器と実際に使う武器じゃあ違うよな。
はぁ、と息を吐き、そのままゴロンと後ろ向きに倒れる。
「なんだ、もう飽きたのか?」
5本目のお手製武器を作っていたセナがチラッとこちらを見る。セナの作っている武器は完全に見た目を捨てた荒々しいものだ。枝とかの余分な部分を払って先端を尖らせただけの物で違いはその木の種類くらいか。
「飽きたって訳じゃねえよ。ただなぁ、なんで自分で自分の人形を攻撃するもんを造ってんだって考えちまうんだよな。もちろん必要なことだとはわかってるんだけどな。でもやっぱこのダンジョンの人形たちは俺にとって子供みたいなもんだし、やる気は出ねえよ」
ちょっと愚痴っぽくなっちまったがこれが偽らざる俺の気持ちなんだよな。って言うか自分の子供を攻撃する武器を喜々として造ってたら完全におかしい奴だろ。せんべい丸を選んだのだってセナの意見だからとか暇そうだからってだけじゃなくてこいつなら攻撃されても大丈夫だって思えたからだしな。
セナはやる気なく寝そべる俺のことをしばらく見つめた後、ふふっと笑いを漏らした。
「なんだよ、悪いかよ」
「いや、いかにも透らしいと思ってな。しかしそんなに嫌なら発想を変えてみたらどうだ?」
「発想?」
「うむ。人形たちに装備させるための武器を造ると考えれば良いのだ。パペットやサンドゴーレムは現状無手だしな。〈人形改造〉を使えば造った武器と同じような形に出来るのだろう?」
「おぉー、そういやそうだな」
セナの意見に目からウロコが落ちた。そうだよな、別に侵入者対策のためだけじゃなくて俺たちがフィールド階層の物を有効利用しても良いんだ。相手だってやってんだし当然の権利だよな。
て言うか、もしかして……
ある考えが浮かびガバッと体を跳ね起こしてセナの元に向かう。
「なぁセナ。俺、重大な事実に気づいちまったんだが」
「なんだ?」
「もしかしてフィールド階層に人形造りに使える材料があるんじゃねえか? この木だけじゃなくて粘土とか金属とか、草だって染色に使えるやつもきっとあるよな」
「いや、ないとは言い切れんがちょっと落ち着け。目がやばい感じになってるぞ。それと近い、ちょっと離れろ!」
セナの小さな両肩を掴んで顔を覗き込みながら真剣にこの発見の重要性を伝えたんだが、なぜかセナはアワアワしていた。セナの言葉が早口過ぎてあんまり聞き取れなかったがまあ良い。それよりもこれからのことを考えるのが先だ。
「とりあえず粘土が第一目標だな。俺が最も使いやすい素材だし。粘土があるのは山の麓とか川とか湖とかの水の集まる場所だったはず。あれっ、てことは湿地にもあるんじゃねえか? どう思う?」
「そんなことよりいい加減に離れろ、この人形馬鹿が!」
「ぐえっ」
腹を突き抜けるような衝撃にたまらず地面を転がる。こいつ、マジでぶん殴りやがった。一瞬呼吸が出来なくなるくらいって絶対にやばいやつだろ。
転がったまま恨めしく見上げていると、セナがこちらを機嫌悪そうに見ながらフンッと鼻を鳴らす。
「喜ぶのは良いがやることをやってからにしろよ」
「お、おう」
俺に背を向けて再び黙々と木を削り始めたセナを眺めながら、俺は未知なる可能性に心弾ませるのだった。倒れたままで。
お読みいただきありがとうございます。
地道にコツコツ更新で100話達成できました。ここまでお付き合いありがとうございました。そしてこれからもよろしくお願いします。
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