6歳
お勉強部屋に入ると、そこにはもうみんなが揃っていた。
みんなっていっても、メンバーは私をあわせて6人。
他の子は、妹のガブリエラと、左大臣子息のリアンと、リアンの妹のマリィ。
内大臣令嬢のクラリス、軍部大臣子息のリチャードだ。
これが最近いっしょにお勉強しているメンバーなんだよね。
ちまみに、ガブリエラが5歳、リアンとクラリスが9歳、リチャードが11歳。
幼児期の1歳違いは大きいはずなのに、11歳と一緒に勉強できるガブリエラが天才すぎる。
リチャードの名誉のためにいうと、彼だって同年代の子と遜色ない程度のレベルではあるのだ。
ただ軍部大事のお家の子だけあって、武ばった方面に秀でていて、お勉強は「そこそこより少し上」レベル。
リアンとクラリスは、「優秀」。
6歳の私は、まれにみるほどの秀才。
ガブリエラはもちろん、稀代の天才だ。
あ、リアンの妹のマリィちゃんは私と同じく6歳ですが、彼女はお勉強はぜんぜんついてこられていない。
ただ左大臣家の跡取り娘なので、私やガブリエラと親しく育てるために呼ばれているって感じ。
お勉強は、家で別にコツコツしているらしい。
それはそれで大変そうなんだけど、にこにこしながら真面目に努力できるマリィちゃんは癒し。
リアンによく似た地味目の容姿なんだけど、前世の私の周りでは、男子にもてるのって意外にこういう子だった。
前世の私は正直、「なんであんな地味な子がもてるの!」って思ってたけど、中身年上でちょっと距離をもって観察しちゃう今世では、あの男子たちの見る目を称賛しちゃう。
私もマリィちゃんがかわいくて大好きです。
私が入室すると、みんなが立ち上がって礼をとる。
「皆様、おはようございます」
「おはようございます、アンナマリア様!」
「おはようございます」
ひとりひとりに声をかけて、ガブリエラの隣の席に座る。
先生は、まだ来られていない。
「アンナマリア様。今日のドレスも素敵です……!菫色のリボンが、アンナマリア様の清楚なかわいらしさをひきたてていて。まるで菫の花の精のよう……!」
「ありがとうございます、クラリス」
鮮やかな赤毛と派手な美貌をもつクラリスは、乙女ゲーム転生ならまちがいなく悪役令嬢役なんだろうなーという感じの気性の激しそうな容姿の女の子だ。
だけど本人はふわふわかわいい系のものが大好きらしい。
初めて会ったのは、私が4歳のころで、ふわふわ金髪のお人形っぽい私の容姿は彼女の理想だったらしい。
毎日のように会っているのに、いつもこのテンションで褒めたおしてくれるからすっかり慣れて、私はさらりとお礼を言って流すことにしている。
嘘です。
毎日言われても、照れるし、恥ずかしい。
いや、今の私が絶世の美少女なのはわかっているんですけど、中身は平凡な女子高生の記憶がばっちり残っているただの人なので。
9歳にしてにおい立つような色気を感じる美人さんに容姿をほめられると、なんかごめんなさいっていう気持ちがひしひしと湧いてきます。
お礼を言いつつ、頬が赤くなるのを感じる。
と、今度はリチャードが、笑いながら言う。
「あーあ。今日もクラリスに先をこされたか。でも、俺も、アンナマリア様は今日もかわいいって思ってる。あなたが菫の精なら、大切に家に持って帰るのにな」
「リチャード。不敬だよ」
「リアンだって、そう思ってるくせに。だろ?」
「アンナマリア様が、今日もおかわいらしいというのは同意するよ。でも、その後の言葉はいただけない」
「お兄様のおっしゃるとおりです、リチャード様。それにもしもアンナマリア様が菫の精でしたら、わたしのお家にご一緒していただきますから!」
マリィがリチャードをにらんで、言う。
一生懸命にらんでいるのに、かわいいとしか思えない。
しかしこの子たち、もうすぐ先生が来るのにこの騒ぎよう……。
「マリィの気持ちは嬉しいけれど、私は菫の精であっても、このお城で咲きたいと思うわ。それに、もうすぐ先生が来てくださるから、静かにお待ちしましょう?」
しーっと指をたてて、諭す。
なおリチャードについては触れません。
同じ年の女の子からの好意は大喜びで受け取れても、異性からの好意には慎重にならざるを得ない。
お姫様ですもの。
まぁ、こんなふうに男子に言われるのって、前世ではなかったから11歳というお子様相手でも大照れしちゃうというのもあるけど。
「しーって。しーって」
「アンナマリア様がかわいすぎる……」
クラリスとリチャードが、なんか悶え始めた。
ああああああ、どうしよう。おさめられない。
パシン、と手を打ちならす音が響く。
小さな手を打ち鳴らす音は大きくないのに、それまでもだえていたクラリスもリチャードも、すっと姿勢を正す。
最初からずっと不機嫌そうに顔をしかめていたガブリエラは、全員の顔を見回して、言う。
「静かに。勉強の準備をなさい」
目を伏せて、みんなが教科書を広げる。
私では、こうはいかない。
「ありがとう、ガブリエラ」
頼りない姉すぎて、申し訳ない。
ほんと、チートどこにいったし。
目をうるませていうと、ガブリエラは冷たい視線で私を見て、言う。
「いつものことでしょう?」
……ほんと、申し訳ない。