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5歳-2 図書室

「シュベナ語ですか?すごいな」


リアンは、私の手元の本を見て、言う。


「シュベナ語ですけど、たのしみに読む旅行記なんです。むかしのラーファンの王子と王子妃の」


「ああ、もしかすると『ガスティア紀行』ですか?」


「ええ。リアン様も、お読みになったことがおありですか?」


「はい。ガスティア王子の魔物退治が痛快でした」


リアンが熱っぽく言う。

いつも穏やかに笑っているイメージだったけど、リアンも男の子なんだな。

魔物退治に興味津々なんだ。


「そうなんですか。わたくしは、まだ読み始めたばかりですけれども、ガスティア王子のご活躍を楽しみに読みますね」


ほほえましく思って言うと、リアンは少し照れくさそうに笑った。


「はい。きっとアンナマリア様もお楽しみいただけると思います。旅行記としても、興味深いですし」


「そうですね。わたくしは、ついつい食べ物の描写に興味をひかれてしまいますの」


「ああ!それも、美味しそうでしたよね。アンナマリア様のお気に入りは、なんですか?」


「下町で食べられている、じゃが芋をあげたものでしょうか。じゃが芋はよく食べるのに、下町では違う食べ方をしているというのが面白いと思います。ラーファンでだけなのかもしれませんが……」


「グランフィルドでも、下町ではよく食べられていますよ。熱々は、外側はかりっとしていて、中はホクホクで、なかなか美味しいです」


「まぁ。リアン様は、召し上がったことがおありなんですか?」


思いがけない言葉に、思わず前のめりになって聞く。

リアンは、私の勢いに目を見開き、


「はい。父と、下町を散策したときに。実は、かなり好きなんで、ときどき食べています」


いつもどおり穏やかに笑うリアンだけど、その表情はちょっとだけ自慢そう。


「素敵ですわね。わたくしも、食べてみたいです」


つい口を滑らせると、リアンは「しまった」という顔をした。

王女である私は、そうそう下町にでかけて、そこのもの食する機会なんてない。


「フライドポテトは、揚げたてじゃないたと味が落ちますので……」


へにゃんと眉を下げて、申し訳なさそうに、リアンは言う。


「そうよね。ごめんなさい、つい口が滑ってしまったの」


謝ると、リアンはますます恐縮する。

困ったな。


「あのね、リアン様。わたくしは王女だから、あれが欲しいとか、こうしたいとか軽々しく口にするのはよくないことなの。なのに、リアン様のおっしゃるフライドポテトがとっても美味しそうで、口が滑ってしまったわ。だから、ね?」


私は、口に指をあてて、笑いかける。


「二人だけの秘密にしてくださる?」


リアンは、一瞬、息を飲んだ。

そして、無言でこくこくと頷く。


「よかった。じゃあ、指切りね」


小指をたてて、リアンに差し出す。

リアンはおずおずと指をからめた。


「約束よ」


まぁ、サラも護衛もいるから、二人だけの秘密なわけないんだけどね。

うかつな言葉でしょんぼりさせてしまったリアン少年の気がそれたみたいで、よかった。


リアンは、いつもは他の人のおしゃべりを優先して、自分のことを語らない。

そんな彼がしたささやかな自慢話が、後味悪く終わったら気まずいもの。

私が口を滑らせたのが、悪いんだしね。


あー、でも、フライドポテト食べたかったなぁ。


「リアン・クラウム。お姉様。なにをなさっているんですか?」


「指切り拳万」と心の中で歌いながら、リアンの指と絡めた指を上下に動かしていると、帰ってきたガブリエラに怪訝な顔で見られた。


「おかえりなさい、ガブリエラ。良い本が見つかって?」


絡めた指をほどいて、ガブリエラのほうへ顔を向けた。

ガブリエラは厳しい目で私を見て、


「ええ。古典詩の本を2冊借りました。現代でもよく引用される詩が、多く掲載されているそうです」


「そう。それも有用そうね」


「アンナマリア様も、ご覧になられますか?」


司書さんが言うと、ガブリエラ付の侍女が本を開いてくれた。

さらりと目を通すけれど、今では使われない古い言葉がたくさんある上、修飾語が多すぎて、大意すらわからない。


「わたくしには、難しいみたい」


最近は、ガブリエラに敗北するのにも慣れてきて、張り合うこともなくなった。

しょんぼりと言うと、ガブリエラはフンと鼻をならした。


「周囲に媚を売ってばかりいるからです」


媚……?

リアン少年にか!


落ち込んだっぽいリアンの気をそらすつもりだったんだけど、確かに馴れ馴れしなったわ。


「ごめんなさい。リアン様も」


8歳のリアンは、前世の記憶のある私から見れば、子どもだ。

でも現在の私にとっては、すこし年上の男の子で。


改めて指摘されると、なんだか恥ずかしい。

顔が赤くなるのを自覚しながら、リアンに謝る。

リアンは憮然としていた顔を赤らめて、


「いいえ。こちらこそ」


リアンの落ち着いたブラウンの目と、目が合う。

なんだかなー。

なんか照れる。

テレテレと見つめ合ったまま、笑い合う。


今の「アンナマリア」の5歳の体が、照れ臭さでむずむずした。





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