※ガブリエラ 3歳
妹のガブリエラ視点です。
時系列は、前回と同じです。
わたくしの名前は、ガブリエラ。
年齢は、3歳。
家族構成は、女王である母、父、ひとつ年上の姉の四人家族。
グリンフィルドの第二王女。
通称「グリンフィルドの天才王女」あるいは「グリンフィルドのかわいくないほうの王女」。
外見は、人並み。
髪の色は、ブルネット。
瞳の色は、グリーン。
体格は、骨太かつ筋肉質。
健康的だけど、特記してかわいいとは言い難い。
内面は、頭脳は客観的に見て、天才。
性格は、冷静沈着な皮肉屋。
かわいらしさとは、無縁のタイプ。
それが、わたくし。
自分でも、わかっている。
ちなみに、グリンフィルドのかわいいほうの王女は、姉のアンナマリア。
外見は、豪奢な金の髪に、やわらかな新緑のグリーンの瞳。
子どもらしくまろやかなのに華奢な体つき、薔薇色の頬。
内面は、あどけなく、素直で、いつも笑顔。
頭のほうも、わたくしとは比べものにならないとはいえ、一般的には優秀らしい。
グリンフィルドは、女王の国。
王女に求められるのは、かわいらしさよりも有能さ。
その基準で考えれば、評価されるべきは姉よりもわたくし。
実際、次期女王はわたくしではないかという声は、日々大きくなっている。
……だけど。
アンナマリアとおそろいのピンク色のドレスを着せられ、パーティの会場へと向かう。
人の目は、自然とアンナマリアに向けられ、なんてかわいい王女かと口元が微笑む。
そしてその目は次に、後ろを歩くわたくしに向けられる。
がっしりとした体型のわたくしには似合わないふわふわしたピンク色のドレスを着た滑稽な姿。
とりつくろうような笑みを浮かべながら、周囲の大人たちの目に失笑がうかぶのを、わたくしは気づかずにはいられない。
天才と呼ばれる頭の良さは、こんな時、なんの鎧にもなってくれない。
こっそりと彼らがささやく言葉は聞こえない。
けれど、その視線が、今までに何度も聞いてきた陰口を頭の中で再生させる。
「アンナマリア様は、なんておかわいらしいのか」
「ガブリエラ様も、せめて笑顔だけでもあれば、子どもらしくてかわいくはあるだろうにな」
「しかし、まぁ。あれだけ姉と容姿が違えば、ひねくれるのも無理はないだろう」
うんざりする。
笑えというなら、その陰口を、あざけりのこもった視線をなんとかしろといいたい。
周囲のものが何も言わなければ、わたくしは自分と姉を比べても、この優秀な頭脳をもって、自分のほうが優れているとしか思わないというのに。
外見が、どれほどのことかと思う。
けれどアンナマリアがいつも笑顔なのも、素直に人にあまえ頼れる性格なのも、あのかわいらしい外見のおかげではないかとも思う。
あの外見のためにアンナマリアは初めから大人たちに好意的に受け入れられ、だからこそ性格もかわいらしく、ますます好かれるのではないか、と。
今日は、初めて外国の方と一緒のパーティ。
アンナマリアは緊張すると言って、家庭教師のオリビアを頼りにする。
オリビアは、アンナマリアを励ます。とても、嬉しそうに。
馬鹿みたい。
ふたりの仲良しごっこは、いつものことだ。
オリビアは、なんでもすぐに覚え理解するわたくしより、自分の教えがなければ理解できないアンナマリアがお気に入りだ。
さらりとわたくしへの言葉に嫌味を混ぜたり、アンナマリアばかりをかまって、わたくしをさりげなくはじいたりするのもいつものこと。
鈍いアンナマリアも、周囲の大人たちも気づかない巧妙な嫌がらせだ。
「お姉様は、そのおかわいらしいお顔で、にこにこ笑っていればいいんですわ」
うんざりして言えば、アンナマリアがぱっと顔をあげて、わたくしを見る。
「大使へのご挨拶は、わたくしがします。お姉様はただ笑っていてください」
お前の価値は、その顔だけだと嘲る。
どうせ、アンナマリアは気づかない。
「ガブリエラ……!」
なにを想ったのか、アンナマリアはぎゅうとわたくしを抱きしめる。
「だいじょうぶ。わたくし、姉だもの。ご挨拶は、ちゃんとするわ。……でも、ガブリエラはすっごくエルン語も上手だから、ガブリエラも一緒にご挨拶してね」
は?
アンナマリアの手は震え、目はうるんでいる。
とてもだいじょうぶそうには見えない。
姉だから、なんだというのか。
たった1歳の違い。
頭の良さなら、わたくしのほうがずっと上だというのに。
自分よりずっと出来のいい妹に、姉ぶって見せる愚かなアンナマリア。
この姉さえいなければ、わたくしは「かわいくないほう」なんて不快な通称で呼ばれることはなかっただろう。
だけど、彼女だけが、わたくしをいつも守るべき「子ども」扱いする。
他の人間は、父や母でさえ、精神的な面ではわたくしを大人扱いし、甘やかすべき対象から外している時が多々あるというのに。
「お姉様……、わかりましたわ」
呆れて、冷たく顔を背けて言う。
なのに、ちらりと横目で見ると、アンナマリアは嬉しそうにふんわりと笑う。
まるで花が開いたかのような笑顔に、苛立ちと、別の感情が胸にうかぶ。
アンナマリアは、「かわいい王女」。
そして、「かわいい」というのは、とても強く人の心に作用する。
そんなもの無価値だとわかっているわたくしにでさえ。
愚かな姉の、無様な「姉」としての振る舞い。
それがうっとうしくも、なぜだかあまく心を惑わせる。
自分への害にしかならないこの姉を、嫌いだと断言できなくする。
「よっし。女は度胸!プラス愛嬌!行きましょう!」
馬鹿な掛け声でパーティ会場に向かうアンナマリアとともに会場へ入れば、また人々のあの視線を感じるのに。
この姉を、わたくしは、嫌いになりきれない。