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3歳。栴檀は双葉より芳しいにもほどがあると思います。

わりと説明回です。

前世の記憶を保ったまま、新たな人生を始めること。


それは、チートだと思っていた。

だって、ごく普通の女子高生だったとはいえ、17歳の人格を持ったまま赤ちゃんになったら、めちゃくちゃ賢い子どもになれるって思うじゃない?


だけど、そんな自分のあまえた気持ちは、3歳にして吹き飛んだ。

1歳年下の妹、ガブリエラの天才っぷりによってな……!




この世界の人間は、地球の人間と見た目は変わらないけど、いくつか大きな違いがある。

お母様が、たった2か月の妊娠で妹を産んだのも、そのひとつだ。

でも、子どもの成長は、地球とそう変わらない。普通は。


私は、前世の記憶があるから例外中の例外。

でも妹のガブリエラは、私のお仲間ってわけでもないのに、私なんかよりずっと頭がいいのだ……!

いわゆる本物のチートっていうのは、ガブリエラみたいな子のためにある言葉なんだと思う。


「では、昨日の復習からはじめますね」


すみれ色のドレスに身を包んだオリビア先生が、私たちの前で大きな本を開く。

私とガブリエラは、オリビア先生の両隣に座って、その本を覗き込んだ。


「わたくしたち女性と男性との大きな差は、子を産むか産まないかということです。母親は、子どもを産むまで自分の体内で育てるので、母と子の結びつきは深くなります。ことに母親と娘の間には大きな結びつきが生まれます。つまり、"血脈能力"が受け継がれるのです。……ここまでは、よいですね」


「はい、オリビア先生」


私とガブリエラは、小さくうなずく。

"血脈能力"も、この世界の人間と地球の人間の体の違うところだ。

それは、母の胎内で娘に受け継がれる特殊な能力だという。

つまり、私とガブリエラは、母から、このグランフィルドの女王たちが連綿と受け継いできた"血脈能力"を受け継いでいるらしい。


オリビア先生は「結構」とうなずいて、ほっそりとした指で、本の図を指さした。

女王らしき女性から出た光が、女王をとりまく2つの扉を開けている絵だ。

開いた扉の向こうには、ふたつの違う世界が描かれている。


オリビア先生の指は、花と妖精が描かれた扉を示していた。


「グランフィルドの女王が"血脈能力"によって受け継ぐのは、これらの2つの異世界の扉を開ける能力です。まず、こちらの異世界の名前を……、アンナマリア様?」


「常春の国、フロレンティーアです」


「結構。その扉を開けるのは、いつですか?」


「春待月の満月の夜です。その日から3日間、お祭があります」


去年のお祭を思い出しながら、答える。


グランフィルドは、物作りと観光に力をいれている。

フロレンティーアの扉が開く3日間は、国中のいたるところに花が咲き乱れ、妖精たちが異世界から遊びに来るため、それが目当ての観光客も周辺諸国から詰めかける。

フロレンティーアの扉が開く春待祭のグランフィルドといえば、死ぬまでに見るべき絶景として常に挙げられる。

すっごく華やかで、すっごく楽しいお祭なのだ。


思い出すだけで、顔がにやける。

ガラスでできてるみたいな透明の羽でとびまわる、手のひらサイズの妖精さん。

初めて見た時の感動ったら、ハンパなかった。

妖精さんたちは、話したりはしなくて、ふっと現れては消える幻みたいな存在だけど、あちらにひらり、こちらにひらりとあらわれる様子は、ほんとテーマパークを100倍すごくしたみたいな感動。


うふうふ笑っていると、オリビア先生もふっと笑みをうかべた。


「アンナマリア様は、春待祭がお好きなようですね」


「はい!だって、すっごく綺麗だし、楽しかったです!妖精さんも、お花もいっぱいで、街の人たちもすごく楽しそうで、おいしいお菓子もいっぱいいただきました!」


「そう、それはよかったですね」


「先生も、春待祭がお好きですか?」


「ええ、もちろん。毎年、楽しみにしているわ」


「私もです!」


オリビア先生は、王女の教師役を抜擢されるくらい頭のいい女性だ。

おまけに控えめながら存在感を放つ、はんなりした美人。

そんな先生が、お祭りが楽しみって言いながら嬉しそうにするから、私も力いっぱい「同じです!」って主張した。


オリビア先生は私の力の入りように、クスクスと笑った。


「もうひとつの扉は、勇者の国、アポロガルテンの扉」


私と先生の笑い声を遮るように、まだあどけない声音のガブリエラが割って入る。


「扉を開けるのは、この世界の人間では解決できない異変があったときだけ。アポロガルテンの人間は、この世界の人間とは比べ物にならない力を持つ"勇者"で、彼らを招くことはこの世界を乗っ取られる危険と隣り合わせだから」


「え、えぇ。そうね、ガブリエラ様。その通りですわ」


かってに授業を進めるガブリエラに一瞬目をひそめて、オリビア先生がうなずいた。

するとガブリエラは、私と同じ緑の目を冷ややかに光らせて、言った。


「このくらい、一度聞けば覚えます。……授業をすすめていただけますか?私はお姉様と違って、無駄話は好きじゃないんです」


おい、2歳児。

それが2歳児の言うことかっ……!



ふつうさぁ、2歳の子どもって、ママに甘えることと食べることと遊ぶことしか頭にないものじゃない?

前世の自分がどうだったかなんて覚えてないし、身近に小さい子もいなかったから違うかもだけど。

でも電車とかで見る子どもって、小学生くらいまではそんな感じに見えてた。


少なくっても、そんな滑舌よく小難しいお勉強の答えを口にしたりはしてなかった……!


っていうか、中身17歳の私が必死で勉強してコレなのに、さらりと凌駕する2歳児ってなんだよ……!

声は子どもらしく甲高くてきゃわきゃわしてるのに、口調といい、話す内容と言い、ガブリエラにはちびっこらしさがぜんぜんない。

そのポジションは、私が狙ってたやつなんだけど、気づいたら妹のガブリエラのポジションになってる。

チート乗っ取りである。

天然チート王女、うらやましすぎる。

嫉妬・嫉妬・嫉妬、めちゃくちゃ嫉妬である。


でも、それはそれとして。


「ガブリエラ!先生に対して、そんな言い方は失礼だよ!」


お姉ちゃん面して、ガブリエラをたしなめる。

確かにお勉強の時間に無駄話していたのは、私が悪かった。

でも、先生に対して、上からものを言うのは失礼すぎる。


この世界、知識を持つ人間はすごく尊ばれる。

豊富な知識を持つ人間に、教えを乞う人間が指示するなんて、例え王女でも許されないマナー違反だ。


けれど、オリビア先生はガブリエラを叱らず、そっと私を止めた。


「かまいませんわ、アンナマリア様。ガブリエラ様は、とても覚えが良い方ですもの。退屈なさったのでしょう。……授業をすすめましょうか」


ガブリエラは、先生を一瞥すると、満足そうにうなずいた。


……ガブリエラ、ほんとに転生者じゃないんだよね?

2歳児の概念が崩壊しそうなんですけどっ……!

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