8歳-3
「エンフェハーゼンから、お客様がいらっしゃる?」
「そのおもてなしを、わたくしたちが?」
家族だけが集うパーラールーム。
今は、半分プライベートで、半分は公のお茶の時間。
お母様とお父様が、私とガブリエラに公務の話を家族として教えてくださる時間だ。
重大なことは、公の場で公務として申し伝えられる前に、こうやって事前に教えてくださる。
ガブリエラはともかく、私は急に公の場で難しいことを言われたら、適切な反応を返せるか不安なので、お母様のお気遣いがありがたい。
慣れなくちゃいけないのはわかっているけど、なにぶん8歳なので…。
おいおい慣れていくはず……。
それにしても、エンフェハーゼンかぁ。
確か、すごく大きな国なんだよね。
ここからだと、馬車なら4か月くらいだったかな。
遠路はるばる感がすごい。
遠いからだろう、私の記憶にある限り、この国にエンフェハーゼンからのお客様がいらしたことってなかった。
今回が、初めてじゃないかな。
エンフェハーゼンのほうだと、血脈能力はあまり受け継がれていないらしい。
その代わりというわけでもないのだろうけど、前世でいう科学が発達していて、不思議で便利な道具をつくりだす豊かな国だと聞く。
めったにお会いできない重要な国のお客様を、私とガブリエラがおもてなしする?
いくら私たちがしっかりものとはいえ、まだ子どもだ。
失礼じゃないのかな?
お母様は、私とガブリエラの反応を面白そうに、目を輝かせてみている。
試されているのかもしれないけど、愛情たっぷり、我が子の反応をうかがっている様は、なんだかかわいい。
「もちろん、喜んで努めます。でも、わたくしたちでだいじょうぶなんですか?」
私が言うと、ガブリエラがはきはきと続けた。
「お母様がわたくしたちにとおっしゃるのなら、わたくしたちがお相手するのは問題ないということでしょう? エンフェハーゼンからいらっしゃる方も、子どもなのですか?」
あ。
そうか。
あちらも子どもなら、私たちがおもてなしをするのがいいのかも。
なるほどとガブリエラにうなずいて、お母様の顔を見る。
お母様は緑の目を輝かせて、うなずきかえしてくださった。
「ガブリエラ、正解よ。あちらからいらっしゃるのは、第3王子のエドガー様と第4王子のウィリアム様なの。エドガー様が16歳、ウィリアム様が5歳だそうよ」
「16歳と、5歳ですか。エドガー王子には、わたくしたちでは申し訳ないような……」
わりと年齢の離れた兄弟だな。
王族だし、血脈能力を受け継がない国なら、男子が王位を継いでいく国もある。
側室とか、のち添えとかで、母親が違うのかも。
とか、つい考えちゃったけど、そこは黙る。
そして、もうひとつの懸念を口にした。
お母様は「あら」と眉をあげて、
「アンナマリアは、自信がないのかしら?王女たるもの、おじいさまより年上の方だって上手におもてなしできなければいけないのよ?」
「はい……」
自信は、あるような、ないような。
相手次第だよね。
エドガー王子がよくできた王子様なら、他国の王女かつちびっこな私たちががんばっておもてなししようとしていれば、あまめの対応をしてくれるんじゃないかな。
逆に、めちゃくちゃ暴君っぽい人なら、8歳の幼児には止めようがないよ。
「エドガー王子は、どんなかたなのですか?」
おそるおそる聞けば、お母様はくすくす笑って、私の頭をなでる。
そのお母様に目で促されて、のんびりお茶を飲んでいたお父様が、口を開いた。
「そうだな。私もお会いしたことはないが、エンフェハーゼンの王子たちは非常に評判が高いよ。第1王子カール様と、第2王子リヒャルト様は成人なさっていて、国政や軍事に明るいそうだ。第3王子のエドガー様は、軍で鍛えながら、国政もお手伝いなさっていると聞く。快活で、おおらかな方だそうだよ」
ふーん。
まぁ他国の王子さまの評判なんて、表向きはいいに決まっているけど、お父様がそうおっしゃるなら悪い人ではないんだろう。
「ほっとしましたわ」
胸をなでおろすと、お父様もお母様もふきだして笑う。
「それはよかった」
「心配するようなことはないわよ」
お母様はそういうけど、心配は心配なんですけど。
他国の方の対応は、いまだにどきどきの連続です。
うかつなこと言ったり、うっかりミスしたときの波紋の大きさが、国内貴族相手とはぜんぜん違うんだもん。
まぁ王女なので、できないとは言えませんが。
「がんばります……!」
ひきつりそうな笑みを浮かべていえば、お母様たちもにこにこ笑顔だ。
期待が重い…。
ちらっと優秀な妹を見ると、ガブリエラはなんだか思案気にお母様たちを見ていた。




