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1歳。つかのまのチート。

よいしょ、よいしょ、と一生懸命に手足を動かす。


産まれてから、1年。

なんとか歩けるようになったものの、このほにゃほにゃとした小さな手足では、歩くのもまだまだ大変なのだ。


重心に気を付けて、転ばないように一歩一歩、進んでいく。

ゴールは、楽しそうに私を見守っているお母様のところだ。


よいしょっと。


せっせと歩いて、お母様の足元にタッチする。


「まぁ、アンナマリア!上手に歩けるようになったわね!」


私とおそろいの緑の目を輝かせて、お母様がおっしゃる。


「ありがとー」


うふふーと笑って、私は抱っこをせがむように両手をあげた。

すると、お母様の隣に立っていたお父様が、さっと私を抱き上げる。

背の高いお父様に抱き上げられると、一気に視界が高くなって、「きゅぁっ」と声をあげてしまった。


「アンナマリア。しばらくは、お母様は抱っこはできないんだよ」


お父様は、私と視線をあわせて、諭すように言う。


お父様といっても、年齢は20代前半。

繊細に整った美形の男に顔を近づけられるのは、中身が17歳女子高生の記憶持ちとしては、ちょっと緊張する。

体は1歳児だし、実の父親だから、慣れてはいるけど。

額をこっつんとぶつけられると、反射的に「むー」とうなってしまった。


「アンソニーったら。アンナマリアが嫌がっているじゃない」


「あぁ。ほんとうに、この子は賢いな。まだ1歳なのに、私が言っていることをきちんと理解しているみたいだ」


「さすが、私たちの子どもね!」


お母様は微笑んで、私のほっぺたをやさしくつついた。


「アンナマリア。お母様ね、お腹に赤ちゃんがいるのよ。あなたの妹か弟が、もうすぐ生まれてくるの」


「いもうと……?」


「ええ。それか、弟ね」


お母様は幸せそうな笑顔で、自分のお腹を撫でる。

深い紅色のドレスは、お腹のラインがよくわかるデザインだ。

けれど、お母様のお腹はぺたんこに見える。


子どもって、10か月くらいで生まれてくるんだっけ。

そっか、私、もうすぐお姉ちゃんになるんだ……。


一瞬、前世の弟のことを思い出した。


弟は小さいころから乱暴で、よく泣かされた。

おもちゃをとられたり、叩かれたり、学校の教科書を破られたり。

なのにお母さんは「お姉ちゃんなんだから我慢しなさい」「それくらい許してあげなさい」って言ったっけ。

大きくなってからも、私には成績が悪いとか部屋を片付けろとかお手伝いしろとかうるさくいうくせに、弟は追試すっぽかしてバイク乗りまわして遊び歩いても、夜中までコンビニ前で友達と騒いでても「男の子は元気がいちばんだから」って許したり……。

ほんと理不尽で、最悪だった。


小さいときは一緒に遊んだりもしたけど、男の子は遊びも違ってて、あんまり楽しくなかったな。

虫とりとか、なんとかレンジャーとか、恐竜とか。


この国は、女が王統を継ぐ国だ。

今の王様は、お母様のお母様、つまり私のおばあさま。

次の王様は、お母様だ。


前世のお母さんの弟びいきは、「この家は、弟が継ぐんだから」っていうのもあったみたい。

時代錯誤だと思うけど、あの人は、本気でそう言ってた。

お父さんも、そっち系だった。


その理屈でいうと、この国では、男の子より女の子のほうが大切にされるかもしれない。

でも、男の子の反抗期は暴れたりして、ほんと怖かった。

家の壁とか、あちこち壊れてたし。

ああいうの、もう絶対いやだ。


「いもうとがいいなー……」


お父様にあまえながら、ぽつんという。

お父様とお母様は、顔を見合わせて、くすくす笑った。


「そうね。女の子はかわいくていいわね」


「男の子でも、かわいいに決まってる。マリーウェザー、君とお腹の子が元気なら、男でも女でも最高だよ」


「そうね。あなたに似た男の子でも最高だと思うわ」


お母様は、背伸びしてお父様と私の頬にキスをする。

お父様は、右手で私を抱っこしたまま、左手でお母様を抱きしめる。

ふたりの愛情に満ちたまなざしに見守られて、私はうふうふと笑った。


この1年、転生でのアドバンテージを活かすために、私はがんばった。

歩いたりするのは人並みの成長しかできなかったけど、話すのはかなり上手に話せる。

1歳児にしては、超しゃべってる。

ベッドに寝転がりながら、侍女たちの会話に聞き耳をたてて、ヒアリングがんばったんだよね。

泣いたり笑ったりもコントロールできるし、知らない人にも愛想ふりまけるし、扱いやすいチートな赤ちゃんだった自信がある。


それに、前世の両親と違って、今の両親は、私のことをちゃんと愛してくれている。

忙しい公務の合間を縫って、ひんぱんに私の様子を見に来てくれるふたりの眼差しとか、話しかける言葉とか、そういうののひとつひとつに確かな愛情を感じる。

なにがって言われると説明なんてできないけど、なにかが違うんだよね。

眼差しの温度みたいな、なにかが。


だから、妹か弟が生まれるって聞いて、すこし怖くなった気持ちなんて、すぐ忘れた。

それどころか、赤ちゃんが生まれてくるまでにさらにパワーアップして、チート姉として活躍する自分を妄想して、にやついたりしていた。




2か月後。

お母様は、妹を生んだ。


その妹が、17歳の記憶を持つ自分より、ずっとチートな天才児だなんて、その時の私は知らなかったのです……。


(知るわけあるかぁっ!!)



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