第8話 勉強と新たなる大地
翔side2話目です。
そろそろストックがやばい。。。
side:翔
ルシナに案内されたのは持ち帰られた書物や文献がすべて保管されている図書館のような場所だった。
「さすがに私の中の知識だけじゃお答えできないものもあるかもしれないので、まずは何でもそろうといわれる書庫に来てみました!」
確かにこれだけの本があれば、欲しい情報は何でもそろうかもしれない。
大量にある本をみて、この中から1冊ずつ中を見て読んでいかなければならないのかと思うと、いつまでたってもここから出られないのではと思ってしまう。
「なぁルシナさんや、もしかしてここにある本を一冊ずつ読まなければならないんでしょかね?」
恐る恐るルシナにそう問いかけると、
「え?1冊ずつに決まってるじゃないですか。
おかしなこと言いますね?
まぁ、1冊3分もあれば終わりますよ。
必要なのだけ検索してあげますからちょっと待ってくださいね」
さらっと恐ろしいことを言い出した。
なんだろう天使という種族はみんなスキルに速読のスキルとかを持っているのだろうか?
だとしても解説書のようなものが3分で読めるとは思わない。
ルシナに手を引かれるままに進むと図書館などにある検索端末のようなものの前で止まり、
「さてショウさん、何から調べますか?」
と聞いてきた。
調べたいものは多いがどう考えても数種類一気に持ってこられても今日一日で読めるとは思えなかったので、まず一番最初に知りたい情報から知っていくことにした。
「じゃ、じゃあ各大陸に書かれた本が見たいな。伝記でも地図でも種類は問わないから」
ひとまず駿と合流するために必要な情報かつ、読むのに時間がかからないものからチョイスしていく。
大陸の伝記なんかはかなりの厚さがあるだろうが、俺がほしいのは各大陸に存在する村や国、特産や人口などの情報だ。
それだけなら3分は無理でも1時間あれば1冊ぐらい行けるだろう。
それを聞いたルシナは、
「わかりました、大陸の情報について書かれた本ですね。
えっとジャンルはすべてで、キーワードは『大陸の情報』と『地図』にしておきますか。
よっし検索完了っと。
シュンさんこっちきてここに魔力注いでください」
検索が終わったから本を取りに行くのかと思ったら、端末に魔力を流すように指示された。
端末に魔力を流したら該当する本が手元に転送されるとか飛んでくるとかいうようなシステムなのだろうか?
いわれるがままに端末に近づき、端末を見てみると、半透明なパネルが一枚あり、そのパネルの前にメータが0から100まで10ずつ刻まれていた。
「えっと、これは?」
疑問に思ってルシナに聞いてみると、
「ここに手を当てて魔力を流すんです。
そして流した魔力がこのメータで100になると完了です」
何が完了するのかはわからなかったけど、とりあえず言われたとおりにするしかなく、パネルに手を当て、先ほど飛んだ時のイメージを今度は手のひらから放出するイメージで流してみた。
すると、端末のメモリがゆっくり上昇していくにつれ、俺の頭の中に何かが流れ込んでくる感覚があった。
頭の中に何が流れてきているのをうすうす感じながら魔力を流し終えた。
体感にして2分くらいだろうか?
すると急にルシナが、
「ではショウさん、テストです。
シヴァニア大陸に存在する種族で一番人口が多い種族はなんでしょう?」
一瞬、
(知るか!)
と思ったが、知らないはずのシヴァニア大陸の形や存在する国家、そして種族が頭の中に浮かんできた。
「えっと、大陸全土でみると一番多い種族は鋼鉄毛かな?多分次いで人間が多いぐらいだと思うけど」
浮かんできた情報をもとにルシナに告げると、
「正解です!
無事読み終えたみたいですね。
他に何か欲しい情報はないですか?」
と聞いてきた。
どうやら正解だったらしいが、どうやらこちらで『本を読む』という行為はこうやって情報を脳に流して登録することを指すらしい。
なるほど確かにこれなら必要な情報も時間をかけず覚えられそうだ。
そうなると覚えておいておかなければならない情報は多いので片っ端から情報を詰め込むとしよう。
ルシナには悪いがしばらく付き合ってもらおう。
1時間後。
「よっし、欲しい情報はあらかた覚えられたかな。
ルシナありがとうな。
何かお礼をしたいところだけど、あいにくお礼になりそうなものがないんだ。
また今度この借りは返すよ。
それか俺にできることがあったら何でも言ってくれ」
「いえ、そんなお礼だなんて。
あ、じゃあショウさんにお願いがあるんですが、いいですか?」
「ん?俺にできることならな。
なにをお願いしたいんだ?」
正直俺にお願いなんぞしたところでできることなどたかが知れていると思う。
この世界に来てまだ数時間しかたっていないうえに、知識は今さっき手に入れたばっかりで技術が追い付いていない状態。
こんな状態でルシナはいったい俺に何を頼もうというのだろうか?
「えっとですね、私たち今回の地上行きのメンバーに選ばれたじゃないですか。
だけど、いざ地上に行こうかなと思ったら一人では不安で……。
地上に行ったきり戻ってこない人たちが何人もいるんですけど、それっていままでは地上が楽しくてこっちに帰ってきてないとばかり思ってたんです。
だけど、ショウさんが先ほどまで一生懸命いろいろな情報を真剣な顔で調べているのを見てて、それって違うんじゃないかって思ってきてしまって……。
本当は戻ってきたかったけど、何かしらのアクシデントが起きて戻れない状態とか、指輪が使えずに自力で戻ろうと思ったけど、この場所がわからなくて帰るに帰れない状態な人たちが多いんじゃないかって思ってしまったら、急に一人で地上に降りるのが怖くなってしまって。
だからショウさんには一緒に地上に降りて旅をしてもらえないかなって。
ダメでしょうか?」
なるほど旅の同行か。
まぁ、無理な問題ではないな。
問題としては、俺が転生者であることがどこまでルシナと差が出てしまうかなんだけども……。
まぁ、そこは実際に旅をしてみないとわからないことだし、転生者だっていうのもばれたとしても今のところ何か問題があるわけではなさそうなので大丈夫か。
それにしても、ルシナの頭の中は大丈夫だろうか?
心配事の中に仲間の消失、すなわち『死』という考えがなかった。
もしかしたら種族的な特徴で死んでも大丈夫とかがあるのだろうか?
いろいろ情報は頭に詰め込んだが、肝心の天使に関する情報がほとんどといってなかった。
あった情報としては、『空を自由に飛べる』、『魔素量が多く魔法戦では不利』といったものしかなく、自分の種族のことなのに何一つ有益な情報はなかった。
ちなみに詰め込んだ情報は以下の通り。
・大陸情報
・各種族特徴
・伝統料理や各国や集落で作られている料理のレシピ
・食べれる植物や魚などの知識
・スキルについて
・魔法について
・魔物について
他にも何か必要な情報がないかいろいろ検索してもらったりしたが、検索にひっかからなかったり、書いてある内容が創作であったりとあまり役に立ちそうではなかったため、覚えることはしなかった。
考え込んで無言でいたせいか、ルシナがどんどん絶望したような顔になっていき、
「や、やっぱり迷惑ですよね。
あのあの、やっぱりご迷惑なら……。」
と同行の取り消しを申し出ようとしてたので、慌てて、
「あぁ!いや、旅の同行は構わないよ。
俺もルシナに一緒に旅についてきてもらえないか考えてたところだから。
むしろ俺でいいのっていうのはあるんだけど。
ほら俺男だし、ルシナも同性のほうが気が楽なんじゃない?」
同行の許可を出すと、先ほどの表情とは一変し嬉しそうに顔を輝かせたが、同性といったあたりでルシナの顔が苦いものに変わっていった。
「えっと、お恥ずかしながら私友人と呼べる人がいなくてですね……。
同期の子たちは2年前に地上に行ったので全員なのでもう知ってる人もいない状態で……」
なかなかに悲しい子だった。
まぁそういうことならこちらも無碍にすることもないので、改めてルシナに旅の同行をお願いし、外へ行く前に自分の体の動かし方を確認するため、広い場所に案内してもらうことにした。
「さて、体を動かそうと思ったけど、さすがに走り込みとかしたところでわかるのは今の体力上限ぐらいだろうし、とりあえずは体の魔素の循環だけでもスムーズにしておかないとな」
そう呟きながら体に流れる魔素(本の知識で言えば魔力)を全身をめぐるように循環させるのを意識させつつ、先ほど脳に取り込まれた魔法について確認する。
まず、魔素とは空気に含まれる魔力の素を指すらしい。
その魔素を体内に取り入れ、体内で使えるエネルギーに変えることで魔力となるらしい。
そういえば、取り入れた知識の中には魔法しかなく、魔術に関して書かれているのはなかったな。
魔法も属性が『風』『水』『火』『土』『光』『闇』『素』の7つあると、転生前に聞いていたが、本にあったのは『風』『水』『火』の3つだけだった。
発見されていないのか、何かしらの制約があって使える人が少ないかいなくて発見されていないんだろう。
他に属性とはまた違うが、生活魔法というジャンルがあった。
確認してみると各属性を素質がないものでも扱えるように改良した、攻撃力などは皆無だが文字通り生活には役立つ魔法というものがあるらしい。
どうやら、習得するのに練習は要らず、詠唱だけ知っていれば誰でも使えるとのことであった。
魔法は詠唱が必要とあったが、本にあったのはどうやら初級までらしく、中級は文字の一部が抜けていたり、存在していなかった。
おそらく、初級は素質さえあればだれでも使えるし失敗したときの被害が小さいが、中級以上になると失敗したときの反動が大きかったりして危険だから書くに書けなかったんだろうな。
魔力循環にも慣れてきたし、素質があるかはわからないが、発動したときに結果がわかりやすそうな『火』の魔法を試してみよう。
「ルシナ、発動するかはわからないけどちょっと魔法を試したい。下級の魔法を試すとはいえどんなことが起こるかわからないから少し離れててもらってもいいか?」
「え?あ、はい。
が、がんばってください」
励ましを受けつつ、俺は手のひらに魔力を集中させつつ詠唱に入った。
「猛々しきその業火にて焼き尽くせ!ファイアボール!」
ソフトボール大の火球が手のひらの先に現れ、技名を言った瞬間に狙っていた着弾地点にまっすぐ飛んで行った。
詠唱の割にはかわいらしい大きさの火球だったが、その威力は申し分なく、一抱えはありそうだった大きな岩を粉々に砕いて見せた。
魔力をどの程度注げばいいのか不明だったが、詠唱中にこれ以上流したら失敗する気配とでもいうようなものを感じがあったので、おそらく暴発のストッパー的なものがあるのだろう。
その予感以降の詠唱では、注ぐ魔力を大気中に溶けて行ってしまった分の魔力を注ぐにととどめていた。
暴発を起こした人たちは、このストッパーに気付かなかったか、気付いていてあえて魔力をさらに注いでみたかのどちらかなのだろう。
それはそうと、『火』の魔法が発動したということは俺の適性には『火』があることが判明した。
本の知識では、必ずしも適性があるとは限らず、あったとしても普通は1つ、英雄や上位の実力者が稀に2属性持っており、いまだ3つの属性を持ったものは見たことがないという。
なので、俺の属性は本の通りであれば、『火』が使えて、運が良ければ他の属性が一つ使えるということになるのだが、転生前に言われた7属性が頭によぎり、もしかしたら書かれていなかった残りの4属性がほかに使える可能性がほかの者にもあったのではないかと思った。
かといって他の属性を試そうにも詠唱がわからないうえに、この場で2属性以上のものが使えてしまったら大変なことになるのは目に見えているので、他の魔法に関してはこっそりと確認しておこう。
最悪ルシナにはばれてもいいが、それは使える確認が取れて、自在に使えるようになってからだ。
それまでは、もしできたとしても自分の胸の内に秘めておこう。
「ショウさんの魔法の威力すごい……。
これが初めて……?
すごいきれいな魔力の流れで、それにあんなに威力が高くて……」
ルシナが勢い良く近づいてきて、先ほどの火の魔法について興奮した様子で、
「私、適性がないから火の魔法は使えないですけど、風であんな威力出したことありません。
それに、たぶんですけど、込める魔力も暴発ギリギリまで高めてましたよね?
ふつう、皆暴発を恐れて詠唱が完了するまでに注ぐ魔力量は発動ギリギリになるんです。
それなのにショウさんは詠唱開始あたりで莫大な魔力を注いで、詠唱の途中で注いでた魔力がピタッと止まったあと全然魔力に揺らぎがないんですもん。
異常ですよ、異常。
そのレベルを使える人はもしかしたら地上に行けばいっぱいいるのかもしれないですけど、少なくともこの飛空城アルヴァスでは見たことがないです」
さらっと告げられたここが飛空城であり、名前がアルヴァスという事実にかなり驚いた。
この場所を含めて4大陸かと思っていたら、大陸に属さない物だとは……。
こういう情報こそ図書館に保存しておいてほしい。
自分の種族のことが書かれた本がなさすぎるのは問題なんじゃないのか?
それよりも、ルシナからみたら今行った魔法は普通レベルではないらしい。
確かに爆発の恐れがあるなんて知ってるなら、無意識にでも暴発を恐れて魔力がうまく注がれないのかもしれない。
まぁ、俺としてはまず自分がどの属性が扱えるのかもわからない状態で、しかもどのくらい魔力を注いだら魔法が発動するのかなんかまったくわからない状態だったのだ。
失敗も成功の基ということわざもある通り、失敗してから初めて覚えることだってあるのだからどっちに転んでも俺的には良かったので、暴発の恐れなどはなかった。
まぁ、魔法の詠唱をしたタイミングで、成功する予感があったのでちょっと強気に出れたということもあるかもしれない。
さて、あとは武器の使い方か……。
この腕輪での訓練をここでやっても大丈夫だろうか?
さっきの魔法のせいか、この広い場所にいたもののほかに何やら野次馬的なのが集まってきていたので、ここで武器の形状変化を試すのは今度にしよう。
まぁ、地上に降りて朝方とかにでも確かめてみればいいか。
「ルシナ、俺の魔法がすごいことはわかった。
けど、失敗してもいいっていうつもりである意味全力で魔力を注いで行った結果だから、次やる時には同じ威力になるとは限らないし、他にも同じ気持ちでやれば同じ結果になるやつらはいっぱいいると思うぞ?
それよりも、ここで試したいことは大体できたからいよいよ地上に行こうと思うんだけど、何か用意しておきたいものはあるか?」
ものすごく先ほどの魔法について聞きたそうにしているルシナを半ば無視しつつ、この場をさっさと離れたかった俺は入ってきた方向に向かって歩き出し、旅に必要なもののリストアップを始めることにした。
先ほどの広場を抜けてふと気づいた。
俺、お金なくね?
いや、この飛空城でお金を使たやり取りがあるのかすらわからないが、地上に降りて宿をとったり、もしくはギルドとかがあるのであればそれの登録料だったりで、なんだかんだでお金が必要になるはずだ。
登録前に狩った魔物が換金できるとも限らない……。
いや、魔物であれば魔物の心臓とでもいうべき魔結晶と呼ばれる物が地上でお金の代わりに使えるらしい。(本の情報が今も有効であればだけどな……。)
さて、となるとこの飛空城ではどのように物資を調達するかということになるのだが……。
「あの!ショウさん。
待ってください!
なんか魔法に関してはあまり言いたくなさそうなので今は聞きたい気持ちをこらえますけど、準備って何ですか?
なにか地上に必要なんですか?」
思わず歩いていた足を止めて、ルシナを凝視ししてしまった。
今この子はなんて言ったのだろうか?
"準備って何ですか?"と聞いたのか?
もしかしてこの天使という種族は、総じて危険意識が足りないのではないだろうか?
日本もまぁ平和ボケした国ではあるが、それでも旅行もしくは旅をするとなったら、それなりに準備していく人がほとんどだろう。
たまに変な人がいて自転車と着ているものだけで旅行をするとかいう酔狂なのもいたりはするが、そんなのは例外中の例外だろう。
これはこの飛空城にまず物があるのかを確認する必要があるなと感じた。
「ルシナ、旅について口にしたところでおそらく実感しなければ、言葉を理解することも難しいだろう。
なのでとりあえずここで準備できるものがあるかどうかわからないけど、雑貨屋みたいなところってあるかな?
それと食料品を扱ってる店」
「えっと、よくわからないですけど、旅するのに何か物が必要なんですね?
じゃあいろいろなもの取り扱ってる施設に行きましょう!」
ふむ、デパート的な場所があるらしい。
先ほどの広場につくまで視界に入ったのは石材で作られたような家屋と自販機みたいな形をした何か(中身までは見れなかった)。
もしかしたら俺以外の天使はおなかが空かないとかいう不思議生物なのかと思ってた。
先ほど広場にいた人?たちの服装も、作り自体はほとんど同じだったが、それぞれのおしゃれというか色やちょっとしたパーツが違ったりしたので、服を作る文化辺りはあるのかなと感じていたが、ようやっと天使の文化レベル触れられそうだ。
ルシナに先行してもらう形で、広場での練習のおかげでスムーズに飛べるようになった羽を使い、空を飛ぶ感覚を楽しみつつ目的地へと飛んだ。
「とーちゃくです。 ここに来ればある程度は何でもそろうはずです。
ショウさんが何を欲しがっているのか見当がつかないのでここに必要なものがあるかわかりませんが」
「ありがとうなルシナ。 とりあえず中に入ってみてみようと思うんだが、その前に一つ確認しておきたいことがある」
「なんでしょう?」
「大変言いづらいことではあるんだが、俺一文無しなんだ。
だからここで買い物したいと言ったが、支払いはルシナに任せてしまうことになる。
もちろん地上にいって稼いで借りた分はしっかり返す。
それを踏まえたうえで、もしルシナが払うのが嫌だったり、持ち合わせがないとかであるなら、なんとか地上で頑張ってみる。
どうだろうか?」
「??? えっとお金がないのはわかりました。
でも多分お金がなくても問題ありませんよ?」
お金がなくても問題ないというのはどういうことだろうか?
まさか売り物が全部タダということはないだろうし、道具に選ばれないと持ち出せないとかそんな制約があったりするのだろうか?
考えたところでわからないので、素直にルシナに聞くことにした。
「えっと、お金が必要ないってどういことだ?」
「ここでの買い物は、登録払いなんです。
なので、お金がある場合は自動で引かれますが、ない場合は入金したときに差し引かれるようになってます」
何を言ってるのか一瞬わからなかったが、流し込んだ知識の中に該当するものがあった。
本に書いてあった内容をふまえるとこういうことらしい。
・文明の発達に伴い、金銭管理の統一運動があり、全大陸で共通の通貨及び生態認証でのカードを作成
・経済状況などで各国や大陸で物の価値は多少差が出るが、取り扱うお金の単位は同一の為、為替を行う必要なく取引が可能
・カードの利用はローンの様にも使え、ある一定の額まではお金がなくても買い物ができる
・ただし、返済までの期限があり、購入物にもよるがおよそ7か月以内に返せない場合、本人が最も信頼する人に請求が行く
・カードへの入金は銀行もしくはギルドと呼ばれる魔物の討伐斡旋所でのみ行える
それ以外にも細かいことが書かれていたが、めったなことでは抵触しない内容だったので、ここでの説明は省こう。
なら一安心だなと思って安堵のため息をつこうとしたがあることに気付いた。
俺、カードすら持ってないけどどこで発行するの?
「あーえっとルシナさん。 俺カードすら持ってないけどそれって大丈夫なのかな?」
「え?持ってないんですか?
今までどうやって生活してきたのかがものすごく気になりますけど、カードの発行所も中にあったはずなので大丈夫だと思います」
「はは、どうやって生きてきたんだろうね……。
中で作ってもらえるかは5分5分だけど、いくしかないか」
そんなことをつぶやきながら、最悪ルシナに土下座してでも買ってもらおうと心に決めて、施設へと入った。
結論から言えば、無事カードは作れ、旅に必要なものも一通りそろった。
かなりな大荷物になったが、こちらの世界では割と一般的な拡張空間の機能が付いた背嚢が売られており、そちらにほとんどの荷物がしまい込めた。
いくら拡張空間がついているといっても、流石に一つの背嚢だけでは収まらなかったので、結局ルシナの分と合わせると3つ買ってしまった。
建物の内部は、生活魔法の光球を使って明るくしており、元の世界のデパートと何ら遜色のない構造だった。
魔法のせいで電気が発達しなかった為か、テレビのような映像を映し出す機械や、ゲーム機といったようなものは見受けられなかった。
それでも洗濯機とか魔法で再現できてるものはいろいろあったので、電気がなくても何とかなるんだなと思った。
食材も一部知らない物はあったけど、共通言語が影響してるのかは不明だが、野菜なども見た目や名前は日本と同じものだった。
そのおかげで料理も問題なくできそうだ。
かかった費用は、金貨7枚と銀貨6枚、銅貨が9枚で、日本円で7万6千900円であった。
この費用にはルシナ分の道具の費用は含まれていない。
また、1つあれば十分な鍋などの調理器具などについては、すべて俺持ちということで支払いを行った。
寝袋やテントなどの野営用の物を買ったにしてはそこまで高くないなと思ったが、そもそも日本などでこの手の物を買うのは道楽方面の要素が強いため、供給に対しての需要が少ないので、必然的に一つ一つの単価を高めなければならなかったのだろうが、こちらはどちらかというと需要の方が高いから、高級品とかでなければ安くしないと誰も買わないなのだろう。
それでも天使としてはあまりなじみのないものであるのか、地上と比べたら高く設定してありそうだったが。
ちなみにこの世界での通貨を日本円に直した場合、
白金貨:100万
金貨:1万
銀貨:1000円
銅貨:100円
鉄貨:10円
だそうだ。
1円単位の貨幣がないのと、白金貨だけ桁がおかしいことを除けば、慣れ親しんだ金額計算なのでお金の計算が楽でよい。
「んじゃ、準備もできたことですし、地上に向かってみようかルシナ」
「はいっ! これからよろしくお願いしますねショウさん」
個人的には魔法や武器の出し入れなどを飛空城で一通り試してから向かうつもりだったが、広場での一件がどうやらここの奴らには刺激が強いみたいなので、それらの練習などは地上に降りてからこっそりとやっていく方針に切り替えたため、この場から早く立ち去りたかった。
地上行きのメンバーの発表があった部屋に戻り、地上へと向かうゲートのある部屋に行き、キーパーといわれる天使に指輪を見せ、いざくぐろうと思ったが、これはどこにつながっているのかふと疑問に思い、キーパーに聞いてみることにした。」
「すいません。 このゲートってどこにつながってるかって教えてもらえますか?」
「む? なるほど君は慎重な性格の持ち主のようだ。 毎回旅立つ者の中から一人二人は聞いてから旅立つが、今年はそのようなものがいなかったからちょっと心配していたんだ。
えっと、ゲートの先についてだったな、このゲートはネーラ大陸につながっている。
どういう原理かは過去の遺産なのでわからないが、ネーラ大陸のどこかに飛ばされるらしい。
今のところ、海の中や土の中といった場所に転移した者はいないから安心してほしい」
ふむ、固定座標じゃなくて、ランダム座標なのか。
だとすると何故海とかに転移してないと断言できるのか確認したいな。
「なるほど、ネーラ大陸に行けるんですね。
ではあと一つだけお聞きしたいんですが、何故過去に転移した者たちが海の中などに転移していないと断言できるのですか?
必ずこの場所に出るというのであれば、納得するんですが」
「あぁ、いやなに。 君たちがつけている指輪の力だよ。
一回限りではあるが、指輪を装備しているものの座標をこちらで確認できるんだ。
今のところ街の中やどこかの集落の中にも移動したことがないから、なにかしら法則がありそうなんだが、まだ解析できていないというのが現状だね。
そんなわけで、ゲートをくぐったら、くぐったものがどこに飛ばされたのかを確認するまでが私の仕事なんだ。
だから海の中などの生息できそうにない場所には飛んで行ってないと断言できるんだ。
こんな回答でよかったかな?」
キーパーの人が視線を向けた先には大陸の地図らしきものが立体で投影されており、その地上部分に今日ゲートをくぐったであろう者たちの座標が赤い点で示されていた。
なるほど、転移での事故で死ぬことがないというのはありがたい。
では、疑問も解消したことだし、さっさとゲートをくぐって駿との合流を目指しますか。
「詳しく説明していただきありがとうございました。
ゲートも安心だとわかりましたので、そろそろ出発します。
それではまた」
「あぁ、楽しんで来なさい。 そして無事また会えることを祈っているよ」
笑顔で送り出してくれたキーパーにお辞儀をしてから、ゲートをくぐった。
いつもお読みくださりありがとうございます。
誤字脱字報告、評価などお待ちしております。