第7話 ようこそオロへ
翔サイドのお話となります。
side:翔
「っつ」
転送前の光のせいで未だ目がちかちかしてて何も見渡せないが、どうやら"オロ"への転移が完了したらしい。
先ほどまで感じられなかった風や、身に覚えのない感覚が肌や翼を通して感じられるため先ほどの空間とは別だと確信した。
ようやく目が慣れ始め、周りの景色を見ることが出来そうだったのでゆくっりと目を開き周りを確認する。
「おうふ。覚悟はしてたが天使か?・・・もしかして?」
自身の背中でわさわさ動いているものが視界の端に映り、そして視界の大部分を占める|天使の見た目をした何か≪・・・・・・・・・・≫と同じものが自分についていることを見て種族を推測する。
相方の駿の姿がないか探そうとして、ふと違和感に気づく。
|視界の端に羽が映る≪・・・・・・・・≫?
羽が見えるということはさっきまで来てた服はどうなったんだ?
それに、見た目が変わってしまってないか?
1つ目に関しては、ちょっとばかし首を回せば確認できた。
そこにあったのは転送前までに着てた服装ではなく、白を基調とした背中部分がばっさリ開いた、全身タイツのような服装であった。
よく見れば男性の姿をした天使らしきはみな同じ格好をしていたため、故野津方がこの場、もしくはこの種族にとって普通の服装なのかもしれない。
男の全身タイツなんて誰得だよと思いつつ、男性がタイツなら女性もタイツなのではと思い直し情勢を探し始める。
「ッチ」
女性の姿を見つけ服装見た瞬間思わず舌打ちをしてしまった。
服装は男性がタイツなのに対して、女性はワンピース姿だった。
期待してた分思わず舌打ちをしてしまったが、これこれでなかなか良い姿だった。
男性も女性も美形が多いのか、それともこの一角だけ容姿が整っているのがそろっているのかはわからないが、かなりの割合で美形がそろっていた。
「つーことは、俺の顔もあんな感じに整えられてんのか?
駿と会った時にお互いわからなかったら意味ないよな?
うーむ、どうにかして早めに顔だけは確認したい……」
きょろきょろと辺りを見回し、鏡になりそうなものなどがないかを探していると、何かが近づいてきた。
「あの……?何かお探しですか?」
あまりにも挙動が不審だったのだろう。
ちょっと腰の引けた感じで俺に声をかけてきたのは、金色の髪をポニーテールにしている女性だった。
ちょっと年下のように感じられるが、そもそも天使という種族の年齢がどのくらいなのかがわからないため、一見年下に見えるこの女性ももしかしたらウン千歳とかもあり得るかもしれない。
「あー……えっと、鏡とか自分の姿を見れる何かがないかなと思ってね。
何か心当たりはあるかい?」
言葉遣いをどうしたものか一瞬悩んだが、見た目が年下ななのでちょっと砕けた感じで話すことに決めた。
目の前の女性は、ちょっと悩むと、
「"水面の精よ、我ルシナの名のもとにその力をお貸ししたまえ"≪ミラージュ≫」
突然詠唱らしきものを唱え始めたと思ったら、目の前に鏡のようなものが突如現れた。
「えっと、これで姿が確認できると思うんですけどどうですか?」
目の前の女性から声をかけられて、目の前で起こった現象に理解ができずフリーズしていた脳がようやく動き出し、鏡のようなものに映る自分を見ることに意識を向けた。
「……ふむ。
若干若返った感じか?
これなら大丈夫そうだな」
「若返った?
えっとお役に立てたならよかったです。
ところでこんなところでぼーっとしてどうしたんですか?
この後あっちの大広間で地上へ許可証が発行されるメンバーの発表があるんですよ?
早くしないと自分の名前聞き逃して失効になっちゃいますよ?」
よくわからないが、地上の許可証というものの発表がるらしい。
とはいえ、転生させられたばっかりで何の情報もない状態な自分がその許可証に選ばれることはないと思うが、人が集まっているというのならそこに集まった人たちから情報を集められるかもしれないので、おとなしくついていこう。
「あ、ありがとう。
俺の名前は|天音翔≪あまね しょう≫。
こっちだと、ショウ・アマネになるのかな?
ショウって呼んでくれ。
とりあえず会場まで案内お願いできるかな?
何分こっちに来て日が浅くてね、まだ全然把握できてないんだ」
「??
そーなんですね。
私はルシナって言います。
えっとショウさんとりあえず通達まで時間がないので飛んでいきましょう!」
は??
飛ぶ??
あ!この翼でか!
って飛べるか!
こちとらこっちにきてまだ1時間もたってないぺーぺーだぞ?
「えっと、俺飛び方がわからないんだけどどうすればいいんだ?」
すっげぇ恥ずかしい!
多分天使としては当たり前のことを聞くとか、お前何者だよって感じだよ……。
「えっと……。
そ、そんな人もたまにはいますよねっ!
えっとですね、翼に魔力を流しながら腕をこうパタパタする感じで、翼を動かすんです」
フォローが痛い。
そしていきなりわからない。
魔力なんてなかった世界から急に魔力で同行しろと言われても……。
……ん?魔力ってもしかしてこっちに来てから感じてる妙なもののことでいいのかな?
それを背中に集中させて、腕が羽ばたく動作をするのと同じような感じで……。
パサ。
パサパサ。
「お?これでいいのかな?」
「あ、そうですそうです!
でその状態で、魔力を翼の下側から放出すると……。
ほらっ!
こんな感じで飛べるようになります」
そういってルシナは目の前でみごとなホバリングをして見せてくれた。
背中に集中させてた意識を、背中をつたって翼へ流し、そして翼の先にへ流れる意識をすると、ゆっくりとだが浮かび上がることに成功した。
「わっ、すごい上手です!
私なんて慣れるまでよく地面にぶつかったりしたのに……。
じゃあ、その放出量を少し多めにしてあそこに行きましょう!」
あそこと差された先には、扉があり、ここからだとおそらく1kmくらい離れてるのではないだろうか?
徒歩でいったら10分はかかりそうな距離である。
「じゃあ、私があとついていきますからショウさん思いっきり行ってみましょう!」
その掛け声とともに俺はジェット機を思い浮かべながら背中から放出する魔力の出力を上げた。
ヒュンッ!
その場から発射したと思ったらもう目の前に扉が近づいていた。
とっさに魔力の放出を逆向きにし、慣性を殺しにかかる。
無事扉に衝突することなく目の前で止まることができた。
「ひー、ショウさん早すぎです!
初めてって言ってたのにものすごいスピードで飛んでいちゃうし、扉にぶつかると思ったらきれいに静止しちゃうし、もしかして初めてって嘘だったんですか?」
ちょっと疲れた様子でルシナが遅れて到着し、ジト目でこちらをみながら近づいてくる。
「いや、ほんとに初めてだって。
ただ飛ぶ原理の知識があったから、試してみたらあんな結果になっただけであって、飛行自体は今回が初めてだよ。」
なおも疑いのまなざしのままルシナは見つめてきたが、とりあえず信じてくれたのか、
「通達が始まってるかもしれないので早く入っちゃいましょう」
といって扉を開けて中に入って行ってしまった。
中に入ると東京ドームよりも広いのではないかというくらい広い空間が広がっていた。
かなりな人数がいるようだが、各々が空に浮いていたりしているのでスペース的にはまだまだ余裕がありそうだった。
「よかったまだ発表されていなかったみたいですね。
さ、ショウさん入り口に立ってたら皆さんの迷惑になりますから端に移動しましょう!」
ルシナが俺の手を引き、壁側に引っ張っていくのに抵抗せずついていった。
壁についてしばらくお互いに無言が続き、通達とやらが発表されるまでの間に少しでも情報を得ようかと口を開いたとき、
「お集りの諸君ようこそ。
すでに通達の内容は知っていると思うが、なんとなくできたものがいないとも限らないため念のため説明を行う。
本日集まってもらったのはほかでもない、毎月恒例の地上行き許可証の発行通達の対象者発表である。
許可証の発行の該当者はこの場に残り諸注意事項の説明を受けてもらう。
また、許可証の発行の非該当者もできれば説明を受けいずれ来るであろう地上行きに備えて知識を得ていってほしい」
運転免許センターでの免許交付みたいな流れだな。
今回は選ばれないだろうから、早くて来月かな?
まぁ体の使い方だったり、技の練習のための機関と思えばいいか。
さて、駿も同じ種族ならこの会場にいると思うんだが、なんとなくだけどここに駿はいない気がする。
翼の色くらいあっちで確認しとけばよかったなと思ったが、どのみち違う種族になってた場合は中央で落ち合う約束なので現在の場所とかがわかればどうにでもなるかと考えとりあえずいったん置いておくことにした。
「ではこれより対象者の名前を発表する。
レギン。
カイウス。
ギルダ……」
どんどん呼ばれていく名前を聞いていると、隣にいるルシナが小声で、
「あたりますように。
あたりますように」
とつぶやいていたのをみて、なんとなく天使という種族にとって地上に行くのは名誉なことなのかななんて思ったりもした。
そんなことを思っていると、
「ノーン。
アシラ。
ルシナ。
……」
彼女の名前が呼ばれ、彼女を伺いみると呼ばれたのがよほどうれしかったのか、きらきらとした目でこちらを見ていた。
さすがにまだ通達の途中なため、俺に声をかけることはしてこなかったがその目を見ただけで彼女の喜びようがわかるくらいだった。
そろそろ50人くらい呼ばれたかなと思っていると、
「ヨーダ。
シュン。
ケージ。
……」
んん?
今、俺の名前が呼ばれたか?
どういう基準で呼ばれているのかはわからないが、転生1日目で故郷を出る許可が得られるというのはどうなのだろうか?
まぁ、許可証というだけで、もらってすぐ地上に行かなければならないというわけでもないだろうし、もらえるものはもらっておこう。
俺のことなのに、隣のルシナからものすごく喜んでる雰囲気が伝わってきており、直視するのがまぶしいくらいに目を輝かせていた。
「さて、今回は以上の57名へ通達許可が下りた。
5分後に諸注意事項のアナウンスを行う。
今回惜しくも該当しなかったもので、諸注意事項を受けないものは退出を許可する。
それ以外の者はこの場でしばし待つように」
アナウンスが終わると、話しかけたくてうずうずしていたルシナが待ての状態からよしをくらった犬のごとき勢いで話しかけてきた。
「シュンさん!私もシュンさんも地上に行けるみたいですよ!
あぁ~やっと待ちに待った地上です。
18歳から発行されるとはいえ、5年も待たされてようやく念願の地上へ行くことができます!」
許可証にも対象年齢とかがあるらしい。
しかし、18歳から5年だとこの子23歳か。
年上じゃなくてよかった。
これで年上だったら言葉遣いをどうにかしないといけないところだった。
「おう、よかったな。
俺も地上に行けるみたいだけど、地上がどんなんところなのかほとんどわからなくてな、ルシナが楽しみにしていることを教えてくれよ。
それと、できればでいいんだけど、諸注意事項が終わったらちょっといろいろ教えてほしいことがあるんだが時間もらえるかな?」
ナンパみたいで気が引けるが、わざわざほかの人に声をかけて教えてもらうよりはルシナに教えてもらうほうが教えてもらう側としては楽である。
この世界で覚えたことが、魔力の操作と飛ぶことのみだからな。
他にもいろいろと学ばなければいけないことがあるのに、何も知らない状態で地上へGOでは赤子を外に放り出すのと変わりない。
せめて魔法だったり生態について確認しておきたい。
「私も地上については地上帰りの先輩やお土産として寄贈された本とかの知識しか知らないのでお力になれるか分かりませんよ?
それでもいいならお教えしますけど」
「全然それで構わないよ。
正直さっきの飛行とか知らなきゃいけないことが多くてね、とりあえずいろいろな知識がほしいんだ」
「ふふっ、いろいろな知識がほしいだなんて地上の転生者みたいな言い方ですね。
分かりました、どこまでお力添えできるかわかりませんが私が知ってることを後でお教えします」
転生者という概念はあるらしいけど、この子の言い方だとこの種族には転生者は現れたことがないということなのか。
あまり目立って俺が転生者だとばれるとややこしくなる可能性があるな。
何れはばれるんだろうけど、できるだけ俺の存在を知る人数は少ない方がいいな、特にここでは。
そんな話をしていると粗方残る者と帰る者が分かれ終わったようで、部屋から退出する動きが収まっていた。
「さて、これから諸注意事項の説明を行う。
まず対象者への地上での使命をお伝えしよう。
きみたちにしてもらいたいことは2つ。
ひとつは各種族たちとの交流だ。
かつての大戦により、私たち天使と他種族の交流が絶たれ、かつての繁栄期とは比べられないほど交流が少ない。
先に地上に赴いた者たちも頑張っているのだろうが、状況は芳しくない。
きみたちにも先遣者と同じく各種族と交流をし、種族間での交流ができるよう頑張っていただきたい。
もうひとつは、悪魔の痕跡を探ることだ。
若い者は書物等でしか知らないだろうが、やつらのせいで各種族間へ被害は増え、いくつかの貴重な技術がオーバーテクノロジーと化してしまった。
それは我々天使も同様であり、そのせいで各種族との交流も絶ってしまったといっても過言ではない。
やつらへも大きなダメージを与えたと思うが、今度はかつての大戦の様に痛み分けではなく、種族の根絶を目的とし、痕跡を見つけ次第報告もしくは、職滅をしていただきたい。
過去を繰り返さないよう皆には頑張っていただきたい」
ずいぶんと過激だな。
こういう場合ってどっちが悪いとかじゃなくて、両方が悪い場合の方が多いがはてさて真相はどうなのか。
大戦ていうのが何年前の物なのかもいまいちぱっとしないし、天使の主観だけじゃまだ何とも言えないな。
大戦が起きたのが何年前なのかと、長寿な種族がほかにいないかっていうのは確認しておかないとまずいな。
それにしても、周りの天使はみんなうなずいているってことは、洗脳といっては悪いが悪魔が悪の意識が根付いているってことだよな。
この問題に関してはルシナに聞く際は細心の注意を払わないとだな。
「次に地上についての説明を行う。
先に出発した者たちのおかげで様々な書物からすでに知識を得ているものも多いと思うが、現在確認されているのは、
『ウィンレム大陸』『ネーラ大陸』『』『シヴァニア大陸』の3大陸の確認が取れている。
他に大陸があると思われるが、同胞からもたらされた情報では他の大陸の情報はまだ見つかっていない。
悪魔が住んでいるはずの大陸もまだ見つかっていないことから、先ほど述べた大陸にはまだやつらが攻め入っていないため、比較的安心であることが確認できている。
この3大陸にすんでいる種族は主に人間が多く、特に『ウィンレム大陸』は人間が主体となった国がいくつもある。
他にも獣人や小人や鋼鉄毛なども確認されているが、大戦時には20種族はいた種族のほとんどが未だ確認ができていないうえに住処を見つけることが出来ていない」
派遣から日が浅いのか探し方が悪いのか判断はつかないが、いまだほとんどの種族とコンタクトが取れてないのか。
ふーむ転生前に聞かされていた残りの4大陸もまだと……。
いや、3大陸が見つかったということは今俺がいる大陸を含めて4つはわかっているのか。
この大陸と位置、そして見つかっているほかの大陸の位置も確認しておきたいな。
駿と合流するにしても、どこの大陸が中心になりえるかがわからないと合流できないからな……。
問題は各大陸で持っている地図が自分の大陸を中心に書いていた場合だけども、その場合は一番大きい大陸になるのかな?
まぁ全大陸がわかってから考えればいいか……。
1年じゃ終わりそうにない規模になりそうだし、長くなるかもしれない心構えだけしておかなきゃな。
大戦時にいた種族がなにかも調べておかないと、俺や駿のように羽をもった種族が何種族存在しているかもわからない状態で探し回るわけにはいかないしな。
「君たちには使命を与えているが、1年に1度報告に戻って来いというような制約はない。
できる限り何かを見つけた際は報告のため戻ってきてほしいが、種族間の交流は慎重に行わなければならないことでもある。
そのため、互いに信頼ができ、情報をお互いに共有してもよいとならなければ報告は無理にしなくてもよい。
我らは悪魔とは違い、武力によって種族の抑制は行わない!
そのことを心に刻み、新しい世界へと旅立ってくれると嬉しい。
以上で説明は以上となる」
「最後に、君たちに餞別としてこの指輪を渡しておこう。 この指輪は1度限りではあるが、この部屋まで転移することができる。
もし命に危険が迫ったり、調査がつらくなったら遠慮なくこの指輪を使い戻ってきなさい。
ただし戻ってこれるのは君たちのその体のみだ。 残念ながら荷物などは一緒に持ってこられない。 持ち帰られるとしたら『魔力収納』という魔法が存在するらしいのでそれを習得すれば可能だ。
ただし、魔力収納については君たちも知っての通り、文献に存在していたという記載があるのみで、我々が知っている属性のどれにも当てはまらないことから架空の魔法である可能性が高い。
なので荷物の持ち帰りに関しては、すまないが極力あきらめてほしい。
それでは準備ができたものから奥の部屋にいるキーパーに指輪を見せ、地上行きのゲートから旅立つといい。
諸君の旅が実りあるものになることを期待している」
その言葉を最後に話をしていたものは部屋を去っていった。
とりあえず配られた指輪をポケットにしまおうと思ったが、今着ている服にポケットが見つからなかったので左手の中指に通しておくことにした。
みんな普通に受け取ってたけど、これどうやって使うんだろう?
旅立つ前から知らなきゃ行けないことが多すぎることにため息をつき、ルシナに落ち着いて話ができるところに案内してもらおうとルキナを連れて部屋から退出した。
読んでいただきありがとうございます。