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ワタシだけのプリンセス (4月1日)

日比谷花壇によれば、黄色のクロッカス。

花言葉は『切望』です。

https://www.hibiyakadan.com/hanakotoba/m04.html

 神久呂(かくろ)アヤメは、その日一人の幼女を拾った。雨の日に自宅の前で、倒れていたからだった。

 お風呂に入れて洗ってあげた後に、消化の良さそうなモノを適当に作り、一緒のベッドで眠る。何も言わない彼女は、無造作に伸びた金髪を揺らし、不安げな青い瞳を泳がせ、小さな身体を震えさせていた。

 特に外傷などは見当たらなかったが、彼女の様子から、アヤメには思い当たるところがあった。それは、アヤメ自身も幼少の時代、虐待されていたという過去が有ったからでも有った。

 翌日、会社に休みの連絡を入れると、その幼女を病院に連れて行き、その後に警察署にも相談した。まずは警察に相談するべきだったのかも知れないが、それよりも不憫で他人とは思えない幼子を、安心させてあげたかったのだ。

 結局、日常的に怒鳴られたり、育児放棄されるなどの虐待を受けていた事が分かり、アヤメは彼女を養女として引き取ることにした。手続きは色々と大変だったが、無事に家族となった時、アヤメは彼女に美琴と名付けた。幼いながらに美しい容姿をしていたのもあるが、生きて欲しいと、生まれに負けずに生き抜いて欲しいと、『(みこと)』とかけたネーミングで有った。


 それから何年か経ち、アヤメと美琴は本当の親子のように、仲良く暮らしていた。

 最初の数か月はロクにしゃべらなかったし、それからの数か月も雄弁とは言えなかった。何年かかけて、ようやく年頃の少女として、『お母さん』と気兼ねなく話せるようになったのだ。

 だけど、美琴に友達はいなかった。否、作らせてもらえなかったのだ。門限が厳しく、中学に入っても部活にも入れないありさまだった。

 それは自らの過去から心配症なアヤメが、美琴を守ろうと必死になった結果では有ったし、美琴も束縛しすぎる程に『自分を必要としてくれている』養母の愛し方に、安堵し甘えてもいたのだった。

 共依存。それがその親子の在り方で、愛し方で、幸せな日常でも有ったのだ。


「アヤメ、彼氏とか作らないの? こんなに美人なのに」


 いつしか名前で養母を呼ぶようになっていた美琴は、ある日アヤメにそう問いかけてみた。それは美琴自身が告白されたことから疑問に思った事だった。その告白自体は断ったものの、自分を拾って大切に育ててくれているアヤメが、こんなに美人で優しいアヤメが、モテないとは思えなかったのだ。

 それは、もしかしたら『お父さん』が出来るのかも知れない。そんな不安から洩れた言葉でも有った。

 けれどそれは、ある意味では間違いで、ある意味では正解だったと言えた。『今の日常が続くことを強く願っていた』という意味では間違いであったし、『ずっとアヤメと二人きりでいたいと切望していた』という意味では正解で有った。


「美琴、どうしたの突然。……まさか、彼氏が出来たとか言うんじゃないでしょうね」

「いないよ、そんなの。告白はされたけど、断っ――」


 いつものように『愛して』くれているアヤメの言葉に、笑いながら答えようとした美琴。それは、『まさか、そんな訳ないじゃん』というだけの言葉で有った。

 しかし、美琴を奪われると強迫観念に襲われつつあったアヤメに取って、それは最後の均衡を崩す決定打となったのだった。美琴を引き寄せカーペットの上に押し倒すと、頭を固定し強引に口付ける。最初はついばむようなキスだったが、次第に舌を絡めるディープなキスへとエスカレートしていった。

 もちろん、保護者が子供に強引に口づけをするなど、虐待と言われてもおかしくない行為である。というよりも、子供が訴えれば、まず確実に虐待と言われるのではないだろうか。

 けれど、二人の関係は普通ではなかったが故に、美琴も戸惑いこそはすれ、驚きこそはすれ、不快だったり苦痛だったりには思わなかった。それどころか、その行為を嬉しく思っていて、それが更に彼女を混乱させることとなった。

 その口づけの連鎖は、美琴が落ち着いて受け入れて、自分から積極的に求めていくところまで続いた。


「駄目よ。あなたは、美琴は、ワタシだけのプリンセスなんだから」


 唇を話すと、アヤメは美琴にそういった。その言葉に、美琴は思わず笑ってしまった。

 あぁ、なんでこの人は、こんなに可愛いのだろう、と。


「いいえ、それは私のセリフよ。アヤメが誰かのモノになるんじゃないかって心配だったけど――アヤメが私のプリンセスで、私はアヤメのプリンセスで、安心した」


 その日から、二人の関係は少しだけ、そして決定的に変わっていったのだった。


 そして。美琴が、かつてアヤメが彼女を拾ったのと、同じ年齢になった頃に。

 反対意見も押し切って、結婚式を挙げた上で、『ふーふ』を名乗るようになったのだった。


Wikipediaとか見て、ふと浮かんだ話にしました。

https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%AF%E3%83%AD%E3%83%83%E3%82%AB%E3%82%B9

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