いつか、また、どこかで。(4月15日)
日比谷花壇によれば、タンポポ。
花言葉は『再会の夢』です。
https://www.hibiyakadan.com/hanakotoba/m04.html
タンポポを見る度に、思い出す。
風に舞う綿毛を見ると、脳裏に浮かぶ。
今はもう、どこにいるかも分からない。
生きているのかさえ、分からない。
だけどあの頃、誰よりも大事だった、最初の親友を思い出す。
俺がアイツに出会ったのは、幼稚園の頃だった。
どんな出会い方をしたかは、あまりにも幼かったので覚えていないけど。
いつも一緒で、遊ぶ時も、イタズラする時も、親や先生に怒られる時も、何をするにも一緒だった。
だからずっと男だと思っていて、小学校に上がってランドセルの色が違った時には、びっくりしたもんだった。
それからも、いつも二人で遊んでた。
それぞれに友達はいたけれど、一番楽しかったのはアイツと遊ぶ時だった。一緒にヤンチャする時だった。
いつまでも続く、そう信じて疑わなかったのに。
4年の夏休みが明けてみれば、アイツは何も言わずにいなくなっていた。
親の転勤のせいで転校することになり、別れが辛くなるからと何も言わずに行ってしまった。
俺にくらい、言ってくれても良かっただろ。
そう不貞腐れる俺に、親父は『逆の立場だったら、お前は言う事が出来たか?』と言ったし、お袋は『アンタを大事に思っていたから、最後まで楽しい思い出を作りたかったんじゃないのかい』と言ったけど。
それでも、俺はアイツを許せなかった。
せめて、皆で見送ってやりたかった。
俺のワガママだっていうのは、認めたくなかった。
それから、しばらくの間は手紙でやり取りもしたけれど、次第に間隔が大きくなってしまった。
中学受験の為に塾に行ったりしたし、中学生になれば部活も楽しくなっていったから。
永遠に一番の親友だった筈なのに、ふと気づけば手紙も途絶えて何か月も経っていた。
久しぶりに手紙を書いてみたけれど、『男と女』を意識してしまったからか、今までのようには書けなくて。
恥ずかしくなってしまって、結局、何も送れずじまいだった。
そんな俺も、中三の終わりごろに、彼女が出来た。
部活の後輩で、告白されて付き合いはじめたけれど、あっという間にやられてしまった。
そんで、バレンタインデーのチョコレートで、完全に撃墜された俺は、アイツの事を次第に忘れていった。
あんなに、大事に思っていたって言うのにさ。
高校に入って思うのは、彼女に会える休日が楽しみだという事。
翌年思うのは、追いかけて来た彼女と過ごせる部活の時間が、楽しくて仕方ないという事。
アイツの事なんか完全に忘れてしまっていて、ただただ、今の青春を謳歌していた。
人目を忍んでキスをしたり、お互いの部屋で良い雰囲気になって、まぁ、そういう事をしたり。
いつだって思うのは彼女の事で、いつだって考えるのは彼女との未来で。
そういう日々に満足して、それがいつまでも続くと疑わなかった。
事実、それは思った通りだった。
関係は変われど、今も彼女は隣にいるから。
月日の流れは、俺たちの関係も変えていった。
最初は気軽な恋人だった筈なのに、いつの間にか最愛の人になっていて。
プロポーズして婚約者となり、式を挙げて夫婦になり、子供が出来て父母となった。
彼女譲りの顔立ちと、俺譲りの髪質の、可愛い女の子だった。
可愛い娘も大きくなり、幼稚園でも仲のいい友達ができたと楽しそうだ。
これからもっと大きくなるし、色んな事を経験するだろう。
それが楽しみでしかたなかった。
そんなある日、俺は妻と娘を連れて、十数年ぶりに、ある場所を訪れた。
辺りいっぱいにタンポポが広がる、思い出の場所に。
年月が経っているというのに、変わらずきれいな花畑。
河原ではしゃぐ娘を見て、ふと、アイツの事を思い出す。
ずっと忘れていた、最初の親友を。
あんなに大事に思っていたのに、忘れてしまった幼き日々を。
はしゃぐ娘の隣に、幼い頃の自分の姿が見えたような気がした。
十数年ぶりに書いた手紙は、宛先不明で返ってきたし、同窓会なんかもやっていなかった。
今頃、アイツは何をしているだろう。
どこにいるかも、元気にしているかも、生きているかさえも分からない。
元気にやっていたとしても、きっと、俺の事なんて忘れているに違いなかった。
だって、俺自身がそうだったんだから。
もう二度と会えないし、会ったところで何がある訳でもない。
あの頃のように遊べる訳もなかったし、アイツだって結婚して家庭が有るかも知れない。
だけど、それでも。いいや、だからこそ、なのかも知れない。
もう一度会って、色々と話したかった。色々と話を聞きたかった。
離れてしまってからの事を、知りたかったし、知って欲しかった。
多分、俺は変わりたくなかったんだ。
世界の綺麗さを、ただただ信じていられた、あの日々をずっと続けたかったのだ。優しくて愛しい日々に、ずっと浸っていたかったのだ。
それが許されないことは分かっている。誰だって大人になるし、それぞれが自分なりに、世間の波の中で、ちゃんと立っていかなければいけない。
それに、妻と出会えたことや、娘が生まれたことを、感謝していない訳でもない。俺は幸せ者だという認識はある。
だけど、それとこれとは別なんだ。
あの頃の日々を思って胸が切なくなるのは、別に『今』を否定する事じゃない。
きっと、誰だって俺みたいに思う時はある筈だ。人の心は一面しかない訳ではないから。
俺の中の子供な部分が、『失われた幸せを取り戻したい』と訴えているのだ。
こういうのを、サウダージって言うんだろうか。
タンポポを見る度に、思い出す。
風に舞う綿毛を見ると、脳裏に浮かぶ。
今はもう、どこにいるかも分からない。
生きているのかさえ、分からない。
だけどあの頃、誰よりも大事だった、最初の親友を思い出す。
妻と娘に囲まれて、幸せをかみしめながらも。
それでも、アイツと再会できる日が来たらなんて、夢を抱いてしまうのだ。
いつか、また、どこかで。
広い青空を見上げて、俺はそう呟いた。
あの日のアイツが、ニヤリと笑って。
『そーだね!』と返してくれた。
そんな気がして嬉しくなって、そんな自分に苦笑いしたのだった。
Wikipediaとか見て、ふと浮かんだ話にしました。
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%BF%E3%83%B3%E3%83%9D%E3%83%9D#%E6%96%87%E5%8C%96
また、『愛の信託』『別離』といった花言葉を紹介しているサイトもあります。
https://horti.jp/3711
今回の話は、特に気に入っています。




