表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
36/38

いつか、また、どこかで。(4月15日)

日比谷花壇によれば、タンポポ。


花言葉は『再会の夢』です。


https://www.hibiyakadan.com/hanakotoba/m04.html


 タンポポを見る度に、思い出す。

 風に舞う綿毛を見ると、脳裏に浮かぶ。

 今はもう、どこにいるかも分からない。

 生きているのかさえ、分からない。

 だけどあの頃、誰よりも大事だった、最初の親友を思い出す。




 俺がアイツに出会ったのは、幼稚園の頃だった。

 どんな出会い方をしたかは、あまりにも幼かったので覚えていないけど。

 いつも一緒で、遊ぶ時も、イタズラする時も、親や先生に怒られる時も、何をするにも一緒だった。

 だからずっと男だと思っていて、小学校に上がってランドセルの色が違った時には、びっくりしたもんだった。


 それからも、いつも二人で遊んでた。

 それぞれに友達はいたけれど、一番楽しかったのはアイツと遊ぶ時だった。一緒にヤンチャする時だった。

 いつまでも続く、そう信じて疑わなかったのに。

 4年の夏休みが明けてみれば、アイツは何も言わずにいなくなっていた。

 親の転勤のせいで転校することになり、別れが辛くなるからと何も言わずに行ってしまった。


 俺にくらい、言ってくれても良かっただろ。

 そう不貞腐れる俺に、親父は『逆の立場だったら、お前は言う事が出来たか?』と言ったし、お袋は『アンタを大事に思っていたから、最後まで楽しい思い出を作りたかったんじゃないのかい』と言ったけど。

 それでも、俺はアイツを許せなかった。

 せめて、皆で見送ってやりたかった。

 俺のワガママだっていうのは、認めたくなかった。


 それから、しばらくの間は手紙でやり取りもしたけれど、次第に間隔が大きくなってしまった。

 中学受験の為に塾に行ったりしたし、中学生になれば部活も楽しくなっていったから。

 永遠に一番の親友だった筈なのに、ふと気づけば手紙も途絶えて何か月も経っていた。

 久しぶりに手紙を書いてみたけれど、『男と女』を意識してしまったからか、今までのようには書けなくて。

 恥ずかしくなってしまって、結局、何も送れずじまいだった。


 そんな俺も、中三の終わりごろに、彼女が出来た。

 部活の後輩で、告白されて付き合いはじめたけれど、あっという間にやられてしまった。

 そんで、バレンタインデーのチョコレートで、完全に撃墜された俺は、アイツの事を次第に忘れていった。

 あんなに、大事に思っていたって言うのにさ。


 高校に入って思うのは、彼女に会える休日が楽しみだという事。

 翌年思うのは、追いかけて来た彼女と過ごせる部活の時間が、楽しくて仕方ないという事。

 アイツの事なんか完全に忘れてしまっていて、ただただ、今の青春を謳歌していた。


 人目を忍んでキスをしたり、お互いの部屋で良い雰囲気になって、まぁ、そういう事をしたり。

 いつだって思うのは彼女の事で、いつだって考えるのは彼女との未来で。

 そういう日々に満足して、それがいつまでも続くと疑わなかった。

 事実、それは思った通りだった。

 関係は変われど、今も彼女は隣にいるから。


 月日の流れは、俺たちの関係も変えていった。

 最初は気軽な恋人だった筈なのに、いつの間にか最愛の人になっていて。

 プロポーズして婚約者となり、式を挙げて夫婦になり、子供が出来て父母となった。

 彼女譲りの顔立ちと、俺譲りの髪質の、可愛い女の子だった。


 可愛い娘も大きくなり、幼稚園でも仲のいい友達ができたと楽しそうだ。

 これからもっと大きくなるし、色んな事を経験するだろう。

 それが楽しみでしかたなかった。

 そんなある日、俺は妻と娘を連れて、十数年ぶりに、ある場所を訪れた。

 辺りいっぱいにタンポポが広がる、思い出の場所に。


 年月が経っているというのに、変わらずきれいな花畑。

 河原ではしゃぐ娘を見て、ふと、アイツの事を思い出す。

 ずっと忘れていた、最初の親友を。

 あんなに大事に思っていたのに、忘れてしまった幼き日々を。


 はしゃぐ娘の隣に、幼い頃の自分の姿が見えたような気がした。




 十数年ぶりに書いた手紙は、宛先不明で返ってきたし、同窓会なんかもやっていなかった。

 今頃、アイツは何をしているだろう。

 どこにいるかも、元気にしているかも、生きているかさえも分からない。

 元気にやっていたとしても、きっと、俺の事なんて忘れているに違いなかった。

 だって、俺自身がそうだったんだから。


 もう二度と会えないし、会ったところで何がある訳でもない。

 あの頃のように遊べる訳もなかったし、アイツだって結婚して家庭が有るかも知れない。

 だけど、それでも。いいや、だからこそ、なのかも知れない。

 もう一度会って、色々と話したかった。色々と話を聞きたかった。

 離れてしまってからの事を、知りたかったし、知って欲しかった。


 多分、俺は変わりたくなかったんだ。

 世界の綺麗さを、ただただ信じていられた、あの日々をずっと続けたかったのだ。優しくて愛しい日々に、ずっと浸っていたかったのだ。

 それが許されないことは分かっている。誰だって大人になるし、それぞれが自分なりに、世間の波の中で、ちゃんと立っていかなければいけない。

 それに、妻と出会えたことや、娘が生まれたことを、感謝していない訳でもない。俺は幸せ者だという認識はある。


 だけど、それとこれとは別なんだ。

 あの頃の日々を思って胸が切なくなるのは、別に『今』を否定する事じゃない。

 きっと、誰だって俺みたいに思う時はある筈だ。人の心は一面しかない訳ではないから。

 俺の中の子供な部分が、『失われた幸せを取り戻したい』と訴えているのだ。

 こういうのを、サウダージって言うんだろうか。




 タンポポを見る度に、思い出す。

 風に舞う綿毛を見ると、脳裏に浮かぶ。

 今はもう、どこにいるかも分からない。

 生きているのかさえ、分からない。

 だけどあの頃、誰よりも大事だった、最初の親友を思い出す。


 妻と娘に囲まれて、幸せをかみしめながらも。

 それでも、アイツと再会できる日が来たらなんて、夢を抱いてしまうのだ。


 いつか、また、どこかで。

 広い青空を見上げて、俺はそう呟いた。

 あの日のアイツが、ニヤリと笑って。

 『そーだね!』と返してくれた。

 そんな気がして嬉しくなって、そんな自分に苦笑いしたのだった。

Wikipediaとか見て、ふと浮かんだ話にしました。

https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%BF%E3%83%B3%E3%83%9D%E3%83%9D#%E6%96%87%E5%8C%96


 また、『愛の信託』『別離』といった花言葉を紹介しているサイトもあります。

https://horti.jp/3711


 今回の話は、特に気に入っています。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ