表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
33/38

折り紙ひとつ(4月12日)

日比谷花壇によれば、カタクリ。


花言葉は『初恋』です。


https://www.hibiyakadan.com/hanakotoba/m04.html


 私が春野(はるの)香子(きょうこ)と出会ったのは、町の病院の大部屋でだった。

 事故で右足を骨折してしまい、しばらく入院する事になったのだけど……同室の彼女の美しさに、私は胸が高鳴るのを感じた。

 一目ぼれだった。だから、人見知りな私だけど、自分から『佐野(さの)ゆかりです。少しの間ですが、仲良くして欲しいです』と積極的に話しかける事にした。

 その甲斐が有ったのか、『香子ちゃん』『ゆかりちゃん』と呼び合うようにはなれたけど、未だに告白するどころか、連絡先さえ聞けていなかった。

 私はもう、今日で退院するっていうのに。


 こんな事を幸いといってはいけないけれど、彼女はまだ入院が続くみたいだった。

 病状は聞いてないし、お互いに気軽に動ける状態じゃなかったから、それぞれのベッドの上で話す位だったけど。

 それでも、近い内にお見舞いに来ると約束して、私は病院を後にした。




 退院後、2週間が経った。

 本当はもっと早く行きたかったけれど、入院中に溜まっていた用事の関係で、どうしてもこの日になってしまったのだ。

 久しぶりに香子ちゃんに会える。そう思ってドキドキしながら、私は病棟を訪れた。

 だけど……そこにはもう、彼女はいなかった。



「転院……ですか?」

「そうよぉ。状態が悪化したらしくて、もっと大きな病院に移ったそうなの。まだ若いのに、可哀そうにねぇ」


 そんな話を、私の後に入ったらしいお婆さんが教えてくれても、私は何も返せなくて。

 ただ、空っぽになったベッドを、眺めることしかできなくて。


 ――もう、香子ちゃんには会えないんだ。

 ――私には、彼女を励ますことさえ出来ないんだ。


 この広い世界で、偶然再会できる可能性なんて、無いに等しくて。

 大きい病院と言ってもいくらでもあるし、探して回る事も出来ないから。

 認識が追い付いてくるにつれて、あふれ出てくるものを、抑える事が出来なかった。


「あらあら、泣かなくても大丈夫よ。きっと、元気になって戻ってきてくれるから。今はそう信じて、祈ってあげましょう?」

「……知らないんです」

「何をかしら?」

「どんな病気なのか、だとか。いつから入院してたのか、だとか。入院前はどこに住んでたか、だとか。……連絡先も、聞けてなくて」


 お婆さんからすれば、迷惑でしかないと思うのに。

 それでも、想いを吐き出さずにはいられなかった。

 彼女は、自分も大変な状態の筈なのに、優しく相槌を打ちながら、私の話を聞いてくれた。

 それを有り難く思うと同時に、申し訳なくもなった。


 あの時、勇気を出して聞いてみれば良かった。

 そうしたら、また会えた筈なのに。

 想いを伝えたかった。彼女の気持ちが知りたかった。

 そんなことまで、つい話してしまう。

 本当に、迷惑極まりないと思うけれど、それでもお婆さんの表情は優しかった。


「ねぇ、あなたの名前を聞いても良いかしら?」

「……? 佐野ゆかり、です」


 そして、私の名前を聞くと、お婆さんはにっこりと笑って、こう言った。


「実はあの子とは知り合いでね、親友のお孫さんなのよ。それで、もし『佐野ゆかり』という女の子が来たら、渡して欲しいと頼まれているものが有るの」

「渡して欲しいもの、ですか?」


 思わず、じっと彼女の瞳を見つめてしまう。

 そんな私に、彼女は手招きをすると、ベッドのそばのロッカーを指さして、こう続けた。


「そのロッカーを開けてちょうだい。上から三段目の棚にある、封筒の中に、それはあるわ」




 家に帰って、封筒の中身を再度見つめる。

 それは、台紙に貼られた一つの折り紙だった。

 カタクリの花……私が好きだと話したことのある、紫の花の折り紙ひとつ。

 その花言葉は、『初恋』。

 好きな花なのは本当だけど、ヘタレな私に出来る、精一杯の告白だった。


 だからこそ、分かる。これが彼女の『答え』なんだって。

 届くかも分からないのに、知人のお婆さんに頼んでまで、伝えたいと思った気持ち。


 ――私も、貴女が初恋の人でした。――


 そんな言葉が、風に乗って聞こえて来たような気がした。

Wikipediaとか見て、ふと浮かんだ話にしました。

https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%AB%E3%82%BF%E3%82%AF%E3%83%AA


 尚、僕は骨折した事が無いので、どれくらいの期間を入院するのかは分かりません。

 2週間位かなと思っているのですが、まぁSSですし気にしないで頂ければな、と。


 ちなみに、最終的にはハッピーエンドになります。

 いつか、中編とかで書けたら良いですねぇ(そんなのばっかり)。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ