【百合桜】第12話『こんな時でも』(4月7日)
【島崎 桜】
翌朝目が覚めた時、一瞬、昨日の事が夢だったんじゃないか、そんな不安に襲われた。
だって、あまりにも都合の良い出来事だったから。
好きな人に告白されて、キスして、それから――もっと凄い事までしてしまって。
隣で眠る千歳の寝顔に、安心して、ドキドキして、幸せだなぁって思ったわ。
「おはよー、しまちゃん」
「おはよう、千歳」
眠そうに瞼をこする千歳の姿は、とても可愛くて。
思わず抱きしめてイチャつきたくなったけれど、生憎と今日は学校があるから。
……家がゴタついてるとはいえ、病気でもないのに部のリーダーが休む訳にはいかないから。
そもそも、千歳の方はそういうのは無いのだから。ここで煩悩に負けてはだめだって、自分に言い聞かせた。
朝食が終わると、私は一度、家に戻る事にした。
着替えだって無いし、制服も無ければ学校にも行けないから。
幸い、午前中は仕事で、両親とも家にはいないから。千歳を見送った後に、こっそり部屋を出た。
だって、話せば反対されるに決まっているもの。捕まったらどうするんだって。
確かに、予定の変更が有れば分からない。解決するまで、引きこもってた方が良いのかもしれない。
でも、それじゃ駄目だ。
こんな時でも、いや、こんな時だからこそ、自分の『力』を信じて、正しく使わなければいけない。
逃げたまま引きこもる。それは弱者の論理で、それを悪いとは言わないけれど、私の目指す在り方とは違っていた。
昨日は逃げるべき時だから逃げたけど。今は、攻めるべき時だと思うから。
結局、私は一日だけ休んだ。
家には誰もいなかったけれど、リビングのテーブルには、教科書などの一式とスマホ、後は言伝が置いてあったから。
『今日は、風邪を引いたようだと連絡してあるから、休め。
後、俺と戦うというならば、敵との連絡手段を手放すな。
大方、友人宅のどこかに逃げ込んでいるのだろうが、明日からの学校を休むことは許さん。
まぁ、コレを読んでいるというのなら、分かっているだろうがな。
学校で待ち伏せするような事はしないから、そこは安心しろ。
父より。
追伸。
荷物をまとめたのは、母さんだ。俺は触っていない。』
午前中に制服や教科書類などを取りに来ることまで読まれていた。
それも、荷物をサッと持ち出せば良いようにまでしてあった。
「……敵わないですね。でも、ここは譲れないですよ」
そう呟くと、荷物を持って家を出た。
余談だけど、その日の夕方、私は千歳に怒られた。
もし捕まってたらどうするのって。
そして、その日の夜はその……。えと、『そういう感じ』だったから、翌朝起きるのが大変だったわ。
なのに千歳はツヤツヤしていて、今度は私が起こされる側となりました。
その週はそんな感じだったけど――土曜日の午後、突然、両親が訪れて来たのだった。




