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天使の敵  作者: Rouge
3/3

第3話 前進

  「ジン、お前への返答だ。」

  それを聞いて俺は姿勢を正して仲間に向き合った。

  軽く聞いて良い話ではないと思ったからだ。

  「確かにお前は失敗した。ミスをした。短絡的だった。それは事実だ。」

  やはりか・・・。

  割り切ったつもりだったが改めて指摘されるとキツい。俺は続く罵倒に備えた。

  が、それは必要なかった。

  「今日のお前を見て思い出した。お前の行動はいつも俺たちを考えてのことだった。それは変わっていない。いや・・・」

  「これは逃げだな。

  「正直に言うとまだお前を許せない気持ちはある。

  「だがそれ以上に俺たちは途方に暮れている。

  「こんな状況になって、何をして良いのかわからない。

  「そんな中、お前が指し示す方向は明るいように見える。

  「前に大失敗をしているのに、だ。

  「それは、お前が真剣にこの状況に向き合っている証拠だ。

  「その姿勢は俺たちにとって有り難い。

  「今すぐには無理だがお前を許せるようにしていく。

  「だから・・・」

  「これからまた頼むよ。」

  俺は上を向いた。涙を見られるのが恥づかしかったためだ。

  自分がやったことはわかっている。だがそれでも、その重さを理解した上で許そうとしてくれる人がいる。その存在が有り難かった。嬉しかった。

  それを誤魔化すように

  「こんな俺でも良いかな?」

  と言った。

  俺に全部わかっていると言いたげにニヤニヤしながら仲間たちは答える。

  「当たり前だ。お前程、仲間思いな奴はそういない。」

  幸い、上を向いていて仲間たちのニヤついた顔が見えなかったため、素直に礼を言った。

  「・・・ありがとう。」

  顔を戻すと仲間たちが微妙な表情を浮かべている。

  それを見て、そういえば、普段からあまり礼を言っていなかったなと思い、反省した。

  実際には多少ふざけて言ったのに対し、真面目に返されたからたったが。


  翌日、俺たちは再び捜索作業に戻った。

  これから生きていくために、道具や情報はあるだけあった方が良いだろう。

  「ん?これは・・・」

 そんな時だった。ソレを見つけたのは。

  瓦礫をどかした拍子に、地面についている取手のような物を見つけた。

  周りを片付けると、これは紛れも無い地下室(そもそも場所が地下だが)であった。

  俺はイヤな予感がしたが放置するわけにもいかず、みんなを集めた。

「どう思う?」

「どうっつったって・・・地下室への入り口じゃねえか。」

「いや、そうなんだろうが・・・」

  俺はイヤな予感を共有してもらおうとしたが、

「何であろうと入ってみるしか無いだろ。」

という言葉は否定出来なかった。


そこはとても暗い場所だった。

もともと地下都市は暗い。太陽がないのをランタンでカバーしているためだ。

だがここはその地下空間よりも更に暗い。ランタンが地下空間の半分もない。ギリギリ歩けるというレベルだ。

「全く何でこんな暗くしたんだよ。作った奴しっかり仕事しろ。」

キンがそんな悪態をついた。レイアとリナもそれに同意するように頷いている。

それは不安の裏返しなのか、キンの声には元気がない。

 だが俺とカイトにはそんな余裕はなかった。これから起こるかもしれないことを想像して冷や汗がとまらなかった。この時間が長く続いて欲しいとは思わない。しかし終わらないで欲しいとも願っている。

 だって領主が隠してたものだぜ?領主の良い噂は、聞いたことがない。横暴だという噂なら飽きるほどきいた。そんな領主が今更多少良くないものを人に見られたからと言って気にするだろうか。いや、しない。

 しかし、実際にこの空間は存在している。それはつまり悪徳領主すらも見られてはマズいと感じるもの。

 だがそれはなんだ?それは最も重大で、それを見た者全員が領主を憎むもの。それに、と俺は思考を少し止めて周りをみた。正確な所は分からないがここ数か月に建てられたような物ではないように思える。最低でも数年単位の時間は経っているだろう。だがそうすると・・・

 俺が思考の海に沈みかけたが、キンの

「扉だ。」

という声で我に返った。ふと横を見るとカイトも俺と同じ様な顔をしていた。カイトも考え事をしていたのだろう。


 それにしても、分厚い扉だ。領主がどれ程この先に行ってほしくないか伺える。それでも行くしかない。もうここまできたらとまれない。後戻りはできない。ルビコンはもう、越えたんだ。

 


「ひぃっ!」

 扉を開けた先にあったのは檻だった。中にいるのは天使。

「えっ!」

「まじか!」

 ・・・なぜここに天使がいる。

 俺は数秒して頭を再起動できた。

 だが理解はできない。ただ、今、言えることは一つ。

「進もう。」

皆の視線が俺に問う。なぜ?と。

「なぜここに天使がいるのかは俺も分からない。立ち止まりたくもなる。しかし分からないのなら情報を集める。それ以外ないだろう。立ち止まり動けなくなったとき、それが人生の最後だ。俺はまだ止まりたくない。お前たちは違うのか?」

「でも・・・」

「お前らが立ち止まると判断したならそれでも良い。俺は先に行く。」

そう告げ歩き始める。正直、あいつらに辛い判断をさせる。だがあいつらなら付いてくるはず。そう信じる。


「俺は行く。」

 カイトがそう口火を切った。

「俺らはあいつがリーダーだと決めた。そのリーダーが進もうと言っているんだ。、それが礼儀だろう。」

「でも・・・」

「それに天使がなんだ?俺らのリーダーはそれを倒した人だぜ?恐るるに足りん。」

「それもそうだな。」

 お調子者のキンが言った。ナイスだ、キン。これでみんなの心の流れが変わった。

 カイトは歩いて行く。キンもそれに続く。こうなると置いていかれる恐怖が勝る。レイアとリナも後から追いかけてくる。


 ジンが止まっている。再び、扉だ。扉が開く。この先に何があるかは分からない。けど全員踏み出せたんだ。なら次も大丈夫なはずだ。素直にそう思えた。


 そこは書斎の様な部屋だった。横の壁には本棚が、そして部屋の中央には文机があった。本棚には難しそうな専門的な分厚いやつがびっしりと入っていた。それらは読む気がしなかったから、俺は代わりに文机の引き出しを開けた。それはここで行われていた研究のレポートのようだった。


「新兵器について」


 それがレポートの題名だった。



 心臓が嫌な音をたてた。視界が狭くなる。呼吸が荒い。だが、ここで止まる訳には、いかない。俺は紙一枚分だけ前進した。


『  前述

 戦況は年々悪くなっている。故に我々は人体実験を行う。既存の攻撃手段の全てを無効化する人型兵器。それを開発するために。この兵器が私たちを救う存在になるように「天使」と名付ける。犠牲になった人と後の世の人々に私は責められるだろう。許してくれとは言えないし、言わない。それだけのことをしろと私は命令を下したのだ。だから私への糾弾は甘んじてうけよう。その覚悟はある。だが願わくば我々に勝利を。      ルドルフ=タラント  

      ・・・     』


 タラント、タラントだって?俺はこの名前に嫌というほど覚えがある。俺だけではなく全員が。

 俺らの街の名前は地下都市タラント。都市の領主の名前にちなんで付けられた。

 つまり、このルドルフ=タラントとかいう奴は、領主の先祖だ。

 

 

 ・・・このルドルフ=タラントが領主と同じ名前だからといって領主と血縁があるとは限らない。同性なだけかもしれない。けれどこの空間は領主の館があったところにあった。その存在に気付かなかったってことはまずない。そしてその存在を隠していた。つまりやましいことがあった、ということだ。それはルドルフの血縁関係者だといっていることと同じだ。俺らは領主の一族に苦しめられていた?

その事実に気付き、皆、呆然とした。



沈黙が痛い。何時間経ったかも分からないが、久しぶりに思ったことがそれだった。

「皆、いつまでもこうしていても仕方ない。取り敢えず地上に戻ろう。」

だが皆は立ち上がらない。

「地上に出て、どうする?」

「そりゃもちろん生き残るために。」

抗う理由はいつだってそれだった。今回だって。

「地上には天使がいるのに?これを見ろよ。」

さっきのレポートを出してくる。

「ヤツらの能力、人が敵うものじゃない。こんなのにどうやって勝つんだよ⁈」

レポートには確かにヤバい力が書いてある。

飛行能力、防御無視攻撃、夜目、etc...

「だからって諦めるのか?

「今までやれていた相手に絶望するのか?

「俺は嫌だね、そんなの。

「お前らは違うの?

「今までそんな覚悟しかしてこなかったか?

「そんな訳でないだろ。

「これまでの環境はそんな覚悟で乗り切れる程甘くなかった。

「それなのにお前らは生きてきた。

「その覚悟があった。

「真実を知ったから泣き寝入りする?

「そんなんなら俺はとうの昔にくたばっている。

「俺は諦めない。

「死ぬその最後の一瞬まで。」

みんなは目をそらす。だが次の瞬間、直視する。それを俺は見た。

「行こう。俺たちはまだ、進める。」

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