第2話 変化の結果
あれから数ヶ月が経った。
俺たちが天使を狩ったことは瞬く間に地下都市に広まった。
大方小悪党グループが喋りまくったのだろう。
ある事無い事、尾ひれどころか長〜い尻尾をつけて。
それが知れわたった時からずっと都市は大騒ぎである。
何の力も無い、ただの子供が、今まで苦しめられてきた天使を、打ち取ってきたんだから当然っちゃ当然だがよ。
もちろんそれだけでは騒ぎが数ヶ月も続くような事態にはならない。そのあと大人の狩り部隊が編成されて出発した。
今まで騒ぎが続いていることからもわかる通り結果は大成功だよ。
それからはたくさんの天使狩り部隊が天使を狩っていくようになった。報酬がいいからな。
もちろん全員が成功するわけではないが生還率は80%を超えた。
今まではギャラが良くても勝てるわけがないと見向きもされなかった天使の討伐依頼はすぐに奪い合いになった。
まあ、と言っても依頼の数が数だから枯渇することは無いんだけどな。
そんなお祭り騒ぎの中、俺は違和感、もっと言えば危機感を抱いていた。
だってそうだろ?こんなに簡単に、あっさりといくならば人類は今、地下都市なんかには住んでいない。
何かがある。その事を俺はこの嫌な思いとともに心に刻み込んだ。
とは言っても俺だって生活せにゃならんから天使狩りをするしかないんだけどな。俺はそんな自分が好きではなかった。
そんな益体も無いことを考えながら毎日を惰性で生きていた。
もちろん今の生活は楽ではないし、正直1日1日がとても苦しいんだが、後から考えるともっとやれることがあるじゃないか、あれをしておけ、と過去の自分を怒鳴りたくなる。
そうして、何の準備も無いまま、あの日を迎えてしまった。
俺らは最初の狩り以外は身内だけ、つまり俺、キン、カイト、レイア、リナの5人だけでやっている。意外といけるもんなんだよな、5人でも。油断は出来ないが逆に油断しなければ問題はなかった。
「なんか、最近順調だね。」
リナがそんなことを言い出した。キンも
「そうだなぁ。金が入って生活も楽だし。」
「それもだいたいジンのおかげなんだけどね。」
「そういうなって、レイア。俺らも頑張ったろ?」
「そうだね。」
気付けば俺以外全員が肯定していた。俺はそうは思わないけど最近俺は浮き気味だから
「そ、そうだな。」
そう返しておいたが、
「ん?どうした?体調でも悪いのか?」
とあっさりカイトにバレてしまった。
「何でもないよ。うん、何でもない。」
俺はカイトに言うのではなく自分に言い聞かせるようにそういった。
それを聴いたみんなはあからさまにホッとした表情を浮かべた。どうやらかなりみんなに気を使わせたようだ。素直に感謝し
「おいおい、しっかりしろよ。お子ちゃま君?」
よう。ん?
「・・・おい、誰がお子ちゃま君だ?キン?」
「そこでムキになって反論するところだよねー。」
「うん、そうそう。」
「おい、てめぇらなぁ〜」
カイトが俺の肩に手を置き、めっちゃ良い笑顔で
「残念だけど君の味方はゼロだ。」
ふざけんな!
そんな至って平凡な会話をしていた俺ら。
「お前ら、反論するとだなぁ」
「ね、ねぇ。、あれ何?」
リナが切迫詰まったような声で言った。
「んだよもう!」
悪態をつきながらリナが指していた空を見上げた俺は、
天使がこちらをジッと見つめていることを発見してしまった。その数は数100。
俺は全く理解出来なかった。
「えっ。なんで?」
俺は思はず呟いていた。
だが、そんな時天使に動きがあった。
この頃ずっと天使狩りをしていた俺は何の動きかすぐにわかった。
本能がけたましく警鐘をならす。マズい!マズい!
「ふっ、伏せろぉぉぉ!」
その声に仲間達は反応しない。
いや、仲間達だけじゃない。
全員が時が止まったように動きを止めている。
「ちっ!」
俺は仲間達を近くの建物の中に突き飛ばす。
そして俺も中に向けて飛び込んだ、次の瞬間、死の雨が地上に降り注いだ。
外にいる人たちが次々と身体を貫かれていく。そして、
「ぐっ!」
俺の足も1箇所穴が開いていた。
足がギリギリ間に合わなかった。
めっちゃ痛い。
取り敢えず応急処置として布をきつく巻いとくがそれどころでは無い。
どうしてこんな事になったのか。
天使側にこんな事が出来るのならもっと早く起きているはずだ。なにせ人が地下都市に逃げ込んだのは8年も前の話だ。時間は充分にあった。なのに見つかっていなかった。
つまり見つかった理由は何かしらの最近の変化が原因であると考えられる。まあ、見つかったのがたまたまこの時期だったという可能性もあるが。
「っ!」
気づいた。気づいてしまった。
俺はこんな時だけ頭が回る自分が恨めしく思った。しかし、気づいてしまったからにはもう目を逸らせない。
「ねぇ、何でこんな所に天使がいるの⁉︎」
リナがそんな事を叫んだ。半ばパニックになっているのだろう。
「んな事俺らが知るかよ!」
キンも叫び返す。
その場が騒然となっていく。
「俺のせいだ。」
俺はそう呟いた。
そう、俺のせいだ。俺がさっき気づいたこと通りならば。
皆の目が一斉にこっちを向く。
「天使狩りのせいで天使はこの辺りに人間が多いことに気づいたんだろう。そして捜索が行われて今日見つかった。そんな感じだろう。」
俺はそこで一旦言葉を切った。
「ここ最近、みんながみんな天使狩りをしていたのは俺が可能だという事を証明してしまったからだ。俺が余計なことをしなければ、今まで通りにしていればこんな事態にはならなかった。」
そして俺は深々と頭を下げた。
「すまなかった。」
俺は罵倒される覚悟をしていたのだが、いつまで経っても来ないので恐る恐る顔を上げる。
そこには難しい表情を浮かべた仲間たち。
お互いを見合って意見の確認をしたのか、カイトが代表のように俺に言った。
「すまん。大きいこと過ぎてよくわからない。もう少し、考える時間をくれ。」
「・・・わかった。」
天使の攻撃は2日続いた。
生きている人間はいないと判断したのだろう。天使どもは引いていった。
それを確認した俺らはようやく廃墟の下から這い出した。
「ひどい・・・」
地下都市は廃墟になっていた。
血の匂いが天使の苛烈さを示しているようだ。一目でこの中での生存は絶望的だと思える。
「行こう。」
俺たちは都市の中心に向けた歩みを再開させた。
足が痛むが我慢出来ない程ではない。
俺たちは領主の館に向かっている。
なぜって?
地下都市は壊滅した。つまりこれからは自分達だけで生きていかなくてはならない。
だがそれには力が足りない。まず、1番大きな問題は対天使だろう。
生身で立ち向かうのは論外。ならば武器を使うしかない。
天弾は消耗品だ。天銃も使い続ければいつかは壊れる。その時のために製造法、手入れの仕方などの知識を入れておこうというのだ。
今までは領主が独占していた。だから領主の館にそれらの情報があると考えたのだ。
「これは・・・」
今までもかなり破壊されていたが、ここが一番酷い。集中的に攻撃されたことがわかる。
・・・ん?今、物凄く重要なことを考えていたような・・・。
だがその思考はするりと俺の手から抜け、今は影も形も見えない。
それを残念に思いつつも、いつまでもこうしているわけにはいかない為、皆をうながし、瓦礫の探索を始めた。
「はぁ⁈」
俺は思わず叫び声をあげていた。
天弾の製造法は呆気なく見つかった。が、問題はその内容だった。
天弾は天使の羽から毛を落として芯の部分だけにしただけの物だった。要するにほぼ素材のままだ。
こんな物に稼ぎの何割かを払っていたと思うとむしゃくしゃするが、その責任者は既に天使に殺されているだろう。
その後、数時間程探したが天銃についての資料はなかった。
代わりに天弾が大量に見つかった。随分と溜め込んでいたようだ。これで当分は弾切れになることはないだろう。
少し安心したからか、強烈な喉の渇きと空腹を感じた。
飲み水は見つからないだろうが、食料はあるはずだ。飯屋で出されるはずだった。
お金は払う相手がいないからタダだ。
今は冬だから二日程度で腐る心配も無いしな。
瓦礫で雨風をしのげる物を簡単に作って、たき火をして、取り敢えず今日はここまでにしようと思い、夕飯を食べていたとき。仲間達が神妙な顔をして、やはりカイトが代表するように話しを切り出した。
「ジン、お前への返答だ。」