解釈の違いという話だろうとは思うが。
感想くれって言われたのでアンサーSS的な。届かなくてもいいし、問題があったら消えると思うけど
学生時代に交流のあった男と久しぶりに顔を合わせ、飲むことになった。お互いをどう思っているかは、まあ野暮なので言わないことにしよう。卒業後はそう連絡を取っていない辺りで察してほしい。まあお互いその程度の仲だ。
彼と飲んだのが初めてということはないと思うが、サシ飲みは初めてかもしれない。なんというか、あまり話が合わないのだ。こっちがそれをあまり口に出さないので、あちらは気付いていないかもしれないが。そもそも、話が合わないということを思っているのがこちらだけなら、説明をするのは骨である。
僕は、己と異なる考えを持つ人間の話を聞くことそれ自体は割と好きだ。己の見識の狭さを自覚できる。聞いて己の考えを改めようと思うことは稀だが、興味深く思う。大抵の人間は、自分と異なる思考の人間を否定し排除しようとする。まあ、短絡的にはその方が平和なのかもしれない。寛容とは、お互いに持ち合わせていなければただの搾取だ。
それはそれとして。酒の席である。
酔いは口を緩ませる、らしい。僕は酔うほど飲んだことはないので、真偽のほどはわからないのだが、まあ、酒の席で口が軽くなるものはちょくちょく見るので、まあまあ信憑性のあることなのだろう。アルコールで思考が鈍ったことすらない僕にはわからない話だが。
元々酒の味はそう好きではないし、酔わないのだから酒を飲む意義などないのだが、酒の席そのものは嫌いではない。妙な絡まれ方をしないのであれば、酔っている人間を見るのは楽しい。そういうわけで、潰さない程度に飲ませたところ、彼の軽くなった口から出てきた話があった。
簡潔に言うと、イキり系の生意気でむかつく後輩を殴って、ボコボコになっている様を撮影して、脅して、退社に追い込んだらしい。普通にドン引きである。本人に罪悪感は全くなさそうだが、訴えられたら普通に負けるし、前科もつくと思う。僕は指摘しないが。首を突っ込みたくない。
とはいえ、まあ…例えば、後々、インタビューを受けたら「いつかやると思った」と返す案件である。俺は正しいからお前も俺と同じように考えるべきだ、と言い出すやつは碌なことをしない。腕っぷしに自信があるやつは猶更である。
彼は、それで後輩が考えを改めるだろう、と思っているようだが…ちゃんちゃらおかしい。彼の話から後輩のパーソナル情報はさっぱりわからなかったが(特に、腕っぷしに自信があって誇示してる割にナメられた理由とか)言われて分からないやつが殴られてわかるわけがない。普通に彼が恨まれるだけだろう。逆恨み…でもない気がする。先輩をナメる後輩に問題がないとは言わないが、何であれ、殴っていい理由はない。どんな理由があっても殴ったのであれば(しかも武道の心得のある人間が)彼が悪い。まとめると、両方とも悪い。
僕がそれを彼に直接指摘してやることはまあ、ないのだが。殴られたくないし。彼は後輩を裸の王様だと称したが、僕は寧ろ、それは彼の方だとすら思う。
…いや、裸の王様は違うかな。裸の王様は、まあ僕の感性でまとめると、権力と見栄で維持されていた虚飾を空気を読まない人が率直に指摘したので保てなくなった話である。現代でいうと多分、オタサーの姫を部外者がブスって言ったら皆冷めてしまった、みたいな話じゃなかろうか。
今回の話を、彼の証言だけの不確かな情報ではあるが、僕が判断すると、うん…まあ、裸の王様ではない。何故なら、後輩君にはその衣は見えているのだ。"馬鹿には見えない服"だとこの男が思っているものが。ロバの耳の王様の方がまだ…違うかなあ。メロスは違うよな…まあ、それはいいか。
いや、本当どういう関係でナメられたんだ、彼は。有名大卒(僕には心当たりのない大学だが)エリート様とやらが、学歴が劣るというだけで明らかに自分より腕っぷしの強い腕力に訴えてきそうな馬鹿を顎で使おうと思うんだろうか。そういう成功体験があったんだろうか。本社からの出向で、本社側の先輩は米つきバッタだとか。
裸の王様だというのなら、王様本人にも衣は見えていないはずである。何故なら、本当には存在しないが、見えていないということは馬鹿だからだろう、と馬鹿にされるのが嫌で、見えていると嘘をついたから発生した喜劇だからである。日本の慣用句で言うなら、亭主が白といやカラスも白い、とかいうやつか。
僕の見解をいうなら、自分が正しいと思っている馬鹿を啓蒙することは不可能なので、後輩君を更生させることは不可能である。行動を改めさせたいなら、それこそ、後輩君が上位者と認識しているものから命令させなければならないのでは考えは改まらないだろうけど。
とまあ、そういう己の諸々の思考を表に出さず、酒で鈍ることのない僕の思考は彼への最適な返答を紡ぎ出す。
「へえ、それは大変だったな。次に来る後輩はまともなやつだといいね」
僕は自分が面倒事に首を突っ込むのは嫌いなのである。やはり、彼には深く関わりたくない。
ちなみに、知人だからへー大変だったねー、って聞かないふりするけど、知らん人だったら酔い潰して通報すると思われる