蜜。
「ねぇねぇ、キスしてみない?」
それは唐突なお誘いだった。
瞳をかっ開いたまま私は口をつぐむ。
野蛮な癖っ毛。
赤茶けた頬は仄かに朱に染まる。
薔薇も恥じらうようにくねらせ
その花弁ははらはらと散っていたようだ。
時折、足下に顔を覗かせる家畜は可愛らしげに舌を出す。
その飼い主は邪魔をしないようにと
キツく縄をひっ張っていたいたようであった。
私は彼女から目をそらす。
紅色に染まる頬はやがて耳まで染める。
そう。
女性同士。
冷たいベンチに座り、お互いに恥じらうのだ。
つぶさに強ばる態度に
辺りは吐息を桃色に染めつつあった。
留まることなき抑揚。
動悸はまったく季節感を感じさせない。
どちらからともなく
チラリと目があった。
「ねぇ……良いでしょ?」
仕草は自然と合い極まり
重なる唇と零れる涙。
街は夕闇
薔薇は花弁を乱す。
時を忘れて求め合う唇は街灯がひっそりと成り行きを眺めていた。
仄かな擽りが戦慄を奏でる。
慈しむ間もなく、乱れる静寂。
舌と舌とが絡み合い、手と手が重なる。
満月が私たちを照らし出した。
イケナイ恋のカタチ。
傷付いても
二度と離さない。
重なりあう額からは
伝う温度からは
危うい感情だけが混ざりあっていた。
好き。
たった、それだけのこと。
許してください。
神様。