第1話 誘拐されました。
時刻は5時半頃だった。と思う。
いきなりなのだが、何というか、突拍子もないことなので、曖昧な説明になってしまうのだが、むしろ説明しろと言われても恐らく出来ないと思うのだが、一言で言うなら、、、
「誘拐された、、、、のか?」
いきなり過ぎて自分でも混乱しているのだが、本当に何言ってるのか自分でもイマイチよく理解出来ないのだが、恐らく誘拐されたのだと思う。
学校帰り、帰り道を歩いていたらいきなり手を掴まれて、すんごい力で引っ張られた挙句、後頭部辺りに強い衝撃を感じた瞬間に、目の前が真っ暗になって意識が飛んだ。叫び声の1つも挙げさせない程に迅速な手際だった。
誘拐にあうとか人生の中で一体何人が体験しているんだよ。少なくとも俺の知り合いで誘拐されたやつはいない。と言うよりそれが当たり前だろう。せいぜいテレビに映るやつらくらいだろう。
「、、、、嘘だろ、、、、。」
当たり前の感想が口からこぼれた。
両手、両足をロープみたいな暇っぽいもので縛られている。
口こそ塞がれていないが、とても狭い場所に閉じ込められて、、、いや、入れられているのか、、、?
とてもじゃないけれどほぼ全く身動きが取れない。
空気も悪く、息もしずらい。
これは間違いなく箱だかなんだかに入れられている。
「おいっ、、、誰かっ誰かいないのかよっ!!」
暑い、動けない、息苦しい、気分が悪い。
このままじゃマジでやばい!本当にシャレにならねぇぞ!
無駄に暴れてはいけない。そう分かっていても体がそれを分かってくれない。完璧に頭の思考が停止している。
「はぁ、、、はぁ、、、、ぁ、、ぁぁ」
自分の息が小さくなって行くのが分かる。
まじかよ、俺ここで死ぬのかよ。
一体何時間この中にいたのだろうか。専門家ではないが確実に二酸化炭素が充満しているのが分かった。
いや、、、これはガチで死ぬわ、、、。
苦しぃ、苦しぃ、苦しぃ、苦しぃ、苦しぃ、苦しぃ、苦しぃ、苦しぃ、苦しぃ、苦しぃっ!
「、、、、、、、、、、、、、、ぁぁ」
そうか、溺死が最も苦しい死に方なんて誰かが言っていたけど、そりゃ嘘だ。
まじで馬鹿みたいだよな。俺を誘拐したやつの顔すら拝めずに、特になんの人生も歩まずに、本当馬鹿みたいだよ。
はぁ、、、、、。
「っざけんじゃねぇぞっ、出しやがれっここから今すぐに出しやがれぇっ!」
クソクソクソクソクソクソクソクソクソクソがっ!
死にたくねぇ、死にたくねぇよっ!
なんで俺なんだよっ、なんで別のやつにしなかったんだよっ、ふざけんなっ!
人間は他にも腐る程いるだろうがっ!!!
「死にたくねぇよ。」
どうせ出られたとしても殺されるだろうな。どうせ人身売買的な扱いを受けて、弄ばれた挙句殺されるだろうな。
なんだそれ。なんなんだよその人生、まじでクズみたいじゃねぇかよ。
「、、、どうせ死ぬならいっそ、、、、自分で死んだほうがよか____。」
「待ってて、今すぐにそこから出すから。」
暗く狭く苦しいだけの、小さな世界に光が射したかのような気分だ。ただの言葉。そう、それは本当にたかが数文字程度の言葉だ。
それでも俺には、この暗く狭い空間に光が射したかのように感じた。
「待て、待てよっ、お前が俺をここに閉じ込めたのかよっ!?」
落ち着かない。落ち着けるはずがない。今思えばこの人が俺をここに閉じ込めた人物かもしれないのだ。
確証はないし、話し方からみて、そう断言するにはまだ早すぎるかもしれない。
しかし、あんな目にあったんだ。少しくらい誰かを疑ってもいいだろうが。
「お前かっ、お前なのか俺をこんな目に合わせたやつは、早く出せっ、ぶっ殺してやるから早くここから出せっ!」
「大丈夫だから、後ほんの少しだけ待ってて」
落ち着いていた、彼女、声だけで判断したが美しい透き通るような凜とした声、その声はおそらく女性のものだっただろう。
そして彼女(おそらく女性)は最も俺が欲しかった言葉を投げかけた。
「必ずそこから出してあげるから!」