Metal Spirit――ソニスフィアの軌跡―― 後篇
「総統! 総統! 下界で大変な事が起こってますぜ! 」
「なんだ? なんだ? どうした? ]
「総統はもうお忘れになっているかも知れませんが、過去に総統がキツネ共を下界へ追いやったのを覚えてますかい? 」
「はて!? キツネ?キツネ、キ、ツ、、ネ、、、、」
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ずっと昔。 もっと昔。 遥か彼方。
銀河系の澄んだ星にメタルの神獣がおりました。
時は戦国。
ある村におじいさんキツネとおばあさんキツネが仲良く暮らしていました。
天気がいい日は、おばあさんは川にせんたくに、おじいさんは働きもせず家に引きこもってジャカジャカうるさい音楽を楽しんでいました。
ジャブジャブ。
「さあ、これでおしまい」
洗い終わって、腰を伸ばしたおばあさんはびっくり。
川の上のほうから、丸くてとても美しい重金属が小船に乗って流れてきました。
「おや、まあ! 」
ずっしりと重い重金属を、おばあさんは川から引き上げたとたん
『グギッ』
ギックリ腰になってしまいました。
まったく動けません。
おばあさんはしかたなく、ここで一夜を過ごすことにしました。
「これを売ったらそうとうなお金になるべさ。おじいさんは働かないからきっと喜びますよ」
おばあさんはそんな状況でもニコニコしながらおじいさんのお迎えを待ちました。
夜もふけて辺りが真っ暗になろうとしたとき、おばあさんは川の中で何やら光っているものを見つけました。
丸い目玉が不気味に光っているではありませんか。
おばあさんはびっくりして腰を抜かしました。
無我夢中でからだを引きずって逃げようとしましたが、ギックリ腰なうえに力も抜けてまったく動けません。
とたんに恐ろしい声が聞こえてきました。それはまるで雷や太鼓の音のように。
「ガラッパ、ガワッパ、ガワワッパ! ガタロウ、ゲータロ、ガータロー! 」
なんと目の前にベースボールキャップをかぶった子供が現れました。
よく見ると体は緑色でウロコで覆われ嘴があり、手足に水かきがあります。
「カ、カッパや! でた―――――――! 」
おばあさんは悲鳴を上げて気絶してしまいました。
「ばあさんだいじょうぶかい? おーい」
「あらじいさんや…わ、わては… 」
「えがった! えがった! やっと気がついたわさ! 」
おじいさんが迎えに来たらおばあさんが倒れており、しばらく声をかけ続けていたようだ。
カッパはおばあさんの悲鳴に驚いて逃げていた。
「じいさんカッパが出たわさ」
「なに! カッパじゃと!よく無事じゃったのう」
「あっ、そうじゃ。じいさん見てけろ! これ」
「おおっ! な、なんじゃこりゃ! 」
山から戻ったおじいさんおばあさんは大喜び。
「こっりゃぁ崩すのが勿体ないくらい美しいのぅ」
「きっと値の張る重金属ですよ」
「んじゃ早速崩して売りに行くべか!」
おじいさんが大きなハンマードリルで穴を開けようとすると、いきなり重金属がポンと割れました。
「オギァア! 」
なんと! 重金属の中から赤ちゃんが出てきたのDEATH!
元気な男の赤ちゃんです。子供のいないおじいさんとおばあさんはとても喜んで『メタ太郎』と名前をつけました。
メタ太郎は元気な男の狐に育ちました。おじいさんとおばあさんは可愛くてたまりません。
メタ太郎は薪を割ったり、重い物を運んだり、働かないおじいさんの代わりにお手伝いをするのでした。
そのころ、カッパ島からカッパがやって来て、町や村を襲いました。何度もMCフリー合戦で敗れていたキツネ達は好き勝手にされます。カッパはキツネ達の楽器を破壊し、少しでも頭に毛を生やしている者を見つけると容赦なく髪の毛を燃やしました。とうとうメタルの象徴ともいえるロングヘアは山里にいるメタ太郎を除いて誰もいなくなったようです。
「俺達のメタルで勝負させろ! 」
そう言ってもカッパはまったく聞く耳を持ちません。
抵抗する者は皆『*尻子玉』を抜かれました。
抜かれた神獣は力を失い腑抜けになって下界の人間に生まれ変わり、運が悪ければポンコツ人間となり色々と苦労するようです。
*【尻子玉】尻の近くにある魂の塊。抜いた尻子玉は食べたり竜王に税金として納めたりする。
我がメタラーが困っているのを見て、メタ太郎はじっとしていられません。
「負けっぱなしな僕らは地獄! そんな日々はここでサラバイ! 悪いカッパを退治してきます! 」
心配するおじいさんとおばあさんに、メタ太郎はにっこり。
「元気に帰って来ますよ」
「では力のつくトマトと揚げパンを持っておいき」
すぐにおばあさんはとびきり美味しい揚げパンを沢山作ってくれて、いつもは働かないおじいさんが庭の畑から一生懸命トマトを摘んできてくれました。
「気をつけて行くんだよ」
おじいさんとおばあさんに見送られて、メタ太郎は元気に出発します。
村外れに来たとき。
「チョ待って! チョ待って! 」
天使が目の前に舞い降りてきました。
「どこへ行くのですか? 」
「カッパ退治にカッパ島へ」
「お供しますから、美味しいトマトを一つちょーだい! ちょーだい! 」
「いいとも。沢山食べなよ」
山道にやってくると、まったく同じような天使が舞い降りてきました。
「Which? ちょっち? ウォッチ 今何時? 」
どうやら連れの天使に時間を聞きに来ているようです。
「ねぇキミ! RAPの才能アリだよ! ぜひ力を貸してもらえないかな? 」
メタ太郎はB-天使をスカウトしようと事情を説明した。
「知らない世界見たい! 見たい! お供しますから、美味しい揚げパンを一つちょーだい! ちょーだい! 」
メタ太郎は喜んでB-天使に揚げパンをあげました。
やがてメタ太郎達は海辺に着きました。
小舟で沖へ向かうと、見張り役のB-天使が叫びました。
「お腹すいたー! もっと揚げパンちょーだい! ちょーだい! 」
「食べ過ぎだよw、もうトマトしか残ってないよ! 」
「じゃあトマトでいいからちょーだい! ちょーだい! 」
B-天使は可愛くプンプン駄々をこねている様子。
「仕方ないなぁ」
メタ太郎は天使の笑顔に騙された。
「大変! 真っ黒い雲がどんどんこっちへ来るよ! 」
A-天使が叫んだ!
嵐が来たのです。小舟は木の葉のように揺れます。
やっと嵐が過ぎました。
みんな残りのトマトを食べて元気いっぱい。メタ太郎達は交代で漕いだので、小舟はぐんぐん進みます。
「島が見えるYO! 」
空を見張っていたB-天使が教えました。
みんな鼻をひくひくさせます。
「カッパの匂いがするぞ! 」
カッパの体臭はとても生臭い。
やがて海の向こうに、岩だらけのカッパ島が見えてきました。
島に上がると、頑丈な黒い門がそびえています。
A-天使がひらりと裏に舞わって、中から門を開けました。
メタ太郎は先頭に立って屋敷に飛び込みました。
「悪いカッパめ! 出てこい! 」
「何だ!? 何だ!? 」
ご馳走を食べていたカッパたちが飛び出してきました。
「さあ、ボスはどこだ! 」
メタ太郎はボスらしきカッパを見つけると駆け寄った。
9個の髑髏のネックレスを首にさげ、手に宝杖を持ち、サングラスをかけている。
「やい! オラと一対一で勝負しろ! 」
「何だ貴様!? 」
周りにいるカッパ達はメタ太郎に一斉に飛びついた。
「まて! そいつに手を出すな。オレはこういう骨のある奴は好きだ。『だがしかーし! 』何だそのロン毛のダサいヘアースタイルは!? 目障りなんだよキツネのくせに! このカマ野郎! 」
「オラはカマ野郎じゃない! メタ太郎だ! 」
「何だと? ますます気に入らねえ。オレ様は河太郎だ! 似たような名前しやがってこのクソが」
「クソもへったくれもねぇ。さっさとお前の得意なフリーバトルで勝負しろ! 」
「ギャハハハハハハハッハハッハw」
カッパ一同大ウケしている。
「おい! みんな聞いたかw? こいつぁ相当な馬鹿だぜ? なぁ? 」
「くっそw オラが勝ったら二度と仲間に手を出すんじゃねーぞ! 」
「ほぅ。じゃあカマが負けたらどうすんだ? 」
「わ、分かっているよ…尻子玉だろ……」
「面白い! やってやるよ。その代りそこのキャンディーちゃん達も参加な! 」
「キャンディー❤? ちょーだい! ちょーだい! 」
A-天使は目を輝かせてカッパにおねだりした。
「バカっ! キャンディーってあたし達のことよ! 」
B-天使は慌ててA-天使を制止する。
「お前ヒップホップ用語も知らずにここまで来るとは相当なバスタードだな! 」
「マスタード?? 辛いのは苦手だおっ! 」
A-天使はふくれっ面でぶんぶん頭を振った。
「ハハハ! このオレ様をここまでコケにするとはいい度胸だ! おいDJ! バトルの準備しろ! 」
メタ太郎達はとりあえず円陣を組んだ。
「力のつくトマトで千人力だ! 」
メタ太郎はそう言って残りのトマトを分け与え全員で食べた。
「さあそれではスースー只今より3人のラッパーがチームを組んでスースー即興のラップを競い合う『3ON3MC BATTLE』を始めまスースー! 私こと司会はダースヘイターが務めさせていただきますのでよろしくスースーお願いしまスースー! 」
「いやこっちはオレ様だけで十分だ! 3ON1でハンデをつけてやろう。それと先行後行好きに選べ」
河太郎は意外といい奴なのかも知れない。
メタ太郎は後行を選択した。
「それではスースー先行青コーナー河太郎総統スースーVS後行赤コーナーメタ太郎とキャンディーちゃんによるスースー8小節一本勝負を行いまスースー! DJデロリアン! スースーBring the Beat! 」
DJのご機嫌なスクラッチ音の後ブレイクビーツが流れる。
ボスはラップを始めた。
「YO♪ YO♪ まずはオレから仕掛けるさ♪ おいらはカッパ♪ そうさラッパー♪ メタルはワック♪ ラップはドープ♪ オレはホープ♪ イケメンラッパー♪ yeahファッキン♪ 分からせてやるぜカマ野郎♪ こいつの挑戦♪ ここで消えるYOざまぁ♪ オレの壁は高けえぜ♪ 超えれるもんなら超えてみろ♪ 」
オーディエンスから大きな歓声が沸いた。
次はメタ太郎達の番だ!
「oh♪ ふざけんな♪ 遊びで来てる訳じゃねぇってことを♪ この場で軽く分からせるだけだ♪ お前のラップはマジありきたり♪ この場でかますぜヤバめなライムを♪ 教えてやるぜ何をしてえか♪ YO♪ 河太郎♪ ドタマぶち抜いてくAK-47♪ お前はビートで一旦停止♪ 」
オーディエンスから互角の歓声が沸いた。いい勝負になっているようだ。
次はA-天使の番だ!
「アタマユラセ♪ メガネハズセ♪ アタママワセ♪ メガネハズセ♪ アタマユラセ♪ メガネハズセ♪ ペンペンクサクサ禿げすぎヘアーはすぐさまカツラ♪ 」
オーディエンスからかなりのブーイングが出ている。これはかなりのマイナス点が付きそうだ…。
ラストはB-天使だ!
「イジメダメダメゼッタイダメ♪ ダメダメゼッタイイジメダメ♪ チェケラッチョ♪ チェケラッチョ♪ チェケチェケラッチョ――♪」
天使はノリノリでフレミングの法則を斜めに出し、パフォーマンスを入れた。
『やめろ――――――――!! 音楽を止めろ! 』
河太郎は割れんばかりの大声で怒鳴った!
「チェケラッチョだと? んなこたぁラッパーは言わねえんだよ!あと何だそのポーズは? お前は絶対にやってはならないタブーをオレ達の前でやってしまったな。覚悟しろ、もう終わりだ! 」
チ――ン。
メタ太郎達の闘いはあっけなく終わった…。
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「ああ! 思い出した! あのカマ野郎どもの事か! 一体それがどうしたんだ? 」
「あやつらいつの間にか下界でメタルとやらを布教し、力を取り戻しているようですぜ! このままでは、いつかこの世界に舞い戻ってくるかも知れませぬ」
「まさか!? 下界でメタルが広まるとは信じがたいな。あそこはメタル嫌いな竜王様の所領だ」
「総統! 今ちょうどカマ野郎がライブをやってますぜ! 」
「観てみるか」
河太郎は下界を覗いた。
『イジメ、ダメ、ゼッタイ Ijime,Dame,Zettai』
静かなピアノの調べとともに英語によるナレーションが場内に響き渡り紙芝居が流れる。
それが何であるかを知っているオーディエンスからは大歓声が沸き起こり,フロアの中央には2つの巨大なWall of Deathができていた。
「おい! あのヘンテコで大きな目玉は何だ? 魔物か? 」
河太郎は生まれて初めて見るWODが奇妙に見えた。
「総統! 調べたとこによりますと、あれはウォール・オブ・デスといって左右に分かれた観客が合図や曲を切っ掛けに真ん中へと突撃するらしいです」
「何だと!? ライブ中に合戦が始まるのか!? 意味が分からん」
再び登場するユキにファンは拳を突き上げエキサイトした。
「何だ? 奴らみんな仲良しに見えねーか? 」
ステージにはユキ一人。ドラムに座った。
「おい! ドラムの子、ありゃ赤ちゃんか? いやペコちゃんか? あのぷにぷにしたほっぺといい、これほどの妖艶さを放つとは下界では珍しいな」
「きっとあそこに置いてある魔方陣が妖力を引き出しているのでしょう」
スゥの歌が始まる。
「ルルル~ルルル~」
静かで透き通った声が情緒溢れるメロディーでピアノに乗せてくる。
「これがメタルなのか? 」
「えっと、、メタルなはずですよ…」
「美しい声だな。しかし何故ステージに出て来ないんだ? 」
「Ahhhhhhhhhh――――――――! 」
スゥのスクリームが来た!
それを合図に三人は上半身裸になり、舞台袖の両端からスゥ・コアが全力で走って出てきた。
同時にWODが砂ぼこりを上げて渦を巻く。
今まで一度も見たことのない裸のパフォーマンスに現地のファンは完全に度肝を抜かれているようだ。
「おい! 激しくぶつかり合ったと思ったら幸せそうな笑顔で駆け回っているじゃないか!? 一体どういう事だ? 」
「おかしいですねえ。『このモッシュは最も危険なものとされており、過去に死者が出たこともある』とウィキペディアに載っていますが…。」
「お前の情報はまったくアテにならんな。しかし、あの美少女達は裸になってるようだが下界ではそんな事が許されるのか? 」
「総統は相当混乱してますねえ。よく見て下さいな! 胸がありませぬ」
「どういうことだ? 」
「奴らは男の娘です! 」
「男の子? どう見ても女の子にしか見えんが…」
「もしかして総統。その目。完全に魅了されてませんか? 忘れちゃいけませんぜ。あの歌っている奴こそがカマ野郎ですよ! 」
「馬鹿な! オレの審美眼は狂っているのか?? 三人ともオレのドストライクなんだが…」
「総統……冗談ですよね」
河太郎は表情が凍ったように動かなくなり、額から汗がにじみ出ている。
親分の威厳が音を立てて崩れていくのが子分の表情に現れていた。
「アハハハ! なかなかメロディカルなツインギターじゃないか! 意外とメタルも捨てたもんじゃないな」
「奴らスリーピースバンドですぜ? 総統しっかりしてくだせぇ」
河太郎の顔に戸惑いの感情を超えた羞恥の感情が現れる。
「オ、オレはどうやらキツネにつままれているかもしれぬ…」
スゥはギターのフレーズに合わせてベース音をエフェクターで歪ませていた。
ベースの六弦をいかしてハイフレットで速弾きしていたのだ。
フロアは狂気と言ってもいい盛り上がりをみせていた。
スゥの鋭い歌声は天空を切り裂く閃光のように、コアの笑顔は漆黒の闇を照らすかのように、ユキの正確無比なドラミングは精密ロボットかのように、メンバーは最後の力を振り絞り全力を出し切った。
観客は曲に合わせてダメジャンプを跳び,4!4!サインを掲げ,ダメダメダメダメと首を振る。
「総統! 涙が流れていますぜ。どうしちまったんですか? 」
「黙れ! 」
河太郎の涙は止まらなかった。自分でもなぜ泣いているのかわからないようだった。どうすることもできず、ただただ泣いていた。河太郎の中で何かが起こり、何かが変わり出していた。
曲が終わり3人がお立ち台に上がった。
ユキとコアはユニオンジャックを模した4!4!METALフラッグを掲げ、会場に4!4!METAL!のコールが巻き起こる。
その後アンコールを求める手拍子が湧き上がり、六万の群衆は「We Want More! 」の大合唱でONEになった。
メンバーは爽やかに「See you ! 」と言い残してステージを去っていく。
スゥは一人全力疾走で引き返してトランポリンに飛び乗り、一度ステージの天井近くまで跳ねて勢いをつけた後、観客へ大ダイブした。
「おい! 今すぐギターとカツラを用意しろ! 」
ソニスフィアの軌跡おわり。