ケーキを食べる話
からん、と音が鳴った。
それは喫茶店に誰かが入ってきた合図だったようで、すでに中に居た高校生くらいの少年と少女は気にせずに向き直った。
二人の前には、綺麗に盛り付けられたケーキが二皿、置いてあった。
少女のケーキはすでに手を付けられ、少年のケーキは一口分だけかけていた。
少女がケーキフォークを口元に運びながら、少年に声をかけた。
「ねぇ、ここのケーキ。美味しいと思いませんか?」
「……よくわからない」
「なんですかもう。感想ぶきっちょですね」
「あまり甘いものを食べたことが無いんだ、どうだって聞かれても答えようがない」
「もう、本当にぶきっちょですね。美味しい、でいいんですよ。美味しいで」
「そうか……」
そのまま彼女は拗ねたようにケーキを口に運び、また幸せそうに笑った。
「痴漢から救ってくれたお礼何ですから、ちゃんと食べてくださいね?」
少女が行儀悪く、口から離したフォークを左右に振りながら、少年にそう言った。
行儀が悪い。
「恩着せがましいお返しだな。いらないって言ったのに」
「だめですー。私の気が収まらないので」
そう言って少女はもう一口口に運んで幸せそうに頬を緩めた。
これこそが至上の喜びだとでもいうかのようにケーキを食べて笑っている彼女。
ケーキ一つでここまで笑顔になれる彼女がちょっとうらやましいと思う反面、ようやく痴漢を撃退したことによかったと素直に思うことが出来た。
ふと、少年がそう考えてケーキを見つめる。
少年はなんだか、彼女の笑顔のほうがお礼になっているような気がしたのだった。




