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嫌われ宗谷と冬のゲーム

作者: AS

随分昔に書いた作品です。

今となっては懐かしい。

 北海道の冬のある日に宗谷出は学校の校庭にいた。

 同じように全校生徒が、只々広いだけの校庭に散りばめられているようにいる。

 宗谷の周りには、誰もいない。ドーナッツ化現象みたいに宗谷の周囲半径五mには、人がいない空白の領域ができている。

 宗谷はつまり、大変嫌われ者であった。


「はぁ……だから来たくなかったのに……。引きこもりは来ちゃいけないんだってば」


 別段顔が悪いわけではない。普通の顔立ちではあるものの、それなりに整っており、どちらかといえば美形に入る。

 なのに宗谷は嫌われていた。

 今日が体育祭であってもそれは変わらない。



 そして、今日は体育祭の最終日である。

 体育祭の終わり際になると、必ず"それ"が行われた。


『全校生徒は速やかに決められたチームを作り、今から読み上げるチーム順に右から並んでください。第一チーム"道産子チーム"。第二チーム"YOSAKOI"。第三チーム……』


 放送すぐに生徒たちは動き出す。

 それから宗谷は向こうから声をかけてくれたおかげで、迷わず無事にチームと合流できたのである。


「宗谷ぁ~。宗谷ぁ~」


 そして、合流してすぐに宗谷は抱き着かれた。


「離れてくれ。留萌」

「嫌だい嫌だい! ソウくんの温もりをずっと感じていたいんだい!」


 小学生にしか見えない身長に、大きな目。くせ毛が目立つショートの髪をしており、ハートのヘアピンとハートのネックレスを首にかけているこの少女の名前は、"留萌小春"。

 甘えん坊な性格で、宗谷もとい仲のいい同級生全員にこういう事をする。

 事情が解る宗谷のクラスの同級生なら仕方ないで済ますだろうが、他から見れば、どうっからどう見ても宗谷がロリコンにしか見えないだろう。

 周りの宗谷に対する視線が痛い。


「宗谷! 小春ちゃんに抱き着かれて嬉しそうな顔をするなんて、変態のすることなんだからね!!」


 唐突に指を指して、顔を赤くして宗谷を注意する女子の名は、千歳ゆい。

 得意の裁縫で、常に違うリボンを頭に着けている茶髪のポニーテールの女子である。

 少しぽっちゃり系であるが、可愛いの部類に入る。

 今日は紅白色で作り上げた大きなリボンで、どうやら今日のために制作したようだ。黒の刺繍で『勝利勝利大勝利』という言葉が施されている。


「千歳ちゃん。俺の顔のどこを見たら嬉しそうに見えるんだ」

「見えるよ! だって顔が赤いもん」


 顔が赤いのは、寒さのせいである。

 とりあえず、これに関しては弁明がめんどくさいということでスルースキルを発動させる宗谷出だった。

 こんな感じで宗谷のクラスメイト数人は、宗谷を嫌いではない。むしろ逆。

 そんなこんなでじゃれ合っていると突如として、アナウンスの放送が鳴り。


『これより冬の体育祭、最終競技。"雪合戦"を開始いたします。対戦形式は、チーム対チームとなっております。トーナメント形式で試合は進み、敗者復活戦は時間の都合上行われることはありません。あらかじめご了承ください』


 全員が息を真剣な表情で、ルール解説をする少女を見ている。


『ルールについてです。最初に雪玉を顔に当てる行為は禁止となります。顔以外の体の一部に確実に当てられた人は、失格となり、戦いに参加することはできません。雪玉以外の武器の使用は禁止となっており、雪玉以外の武器を使用してしまった場合は、失格となります。防御に関しては規制はなく、道具の使用も可能ですが、武器に転じた場合は失格となります。陣地は最初から決められておりますが、相手の陣地を奪うという行為は禁止されておりません。敗北条件は、リーダーが失格となるか。リーダー以外の全員が失格してしまった場合か。リーダーが降参した場合のみとなっております』


 雪合戦ごときでなぜこんなにも真剣にと思うだろうが、この雪合戦に勝つと素敵なプレゼントがもらえると同時に、毎年熾烈を極めるこの戦いを勝ち残ったという名誉も貰える。

 それさえあれば、勉強しなくても学校を卒業でき、進学さえもスムーズにできるという噂があり、名誉欲しさに全員が真剣に戦う。


『雪合戦対戦チーム表は、右側にあるボードでチームリーダーが確認してください。それでは……オマエラ!!』


 豹変したアナウンスの女子が、マイクを強くつかみ大声で叫ぶ。

 全員が息を飲み込み、緊迫した雰囲気がこの校庭を包み、これから始まる戦いにワクワクした気持ちが襲い。


『一生懸命! 闘志満満! 獅子奮迅になって雪の戦を行いやがれ!!』


 そして、空高くに打ち上げられた決行花火の破裂音が宗谷たちの心を震わせた。

 開始宣言の後にトーナメント表を見に行ったGAMELINERのリーダーである千歳ゆいは、戻ってくるなり驚いたような顔をし、宗谷達も驚いていた。

 宗谷達のチームが行う試合は、最終戦まで無いのだ。



 時を同じくして、校舎内の校庭を一望できる三階のベランダにて十勝真はイライラしていた。


「なんだよなんだよ、むかつくな」


 とても綺麗な顔立ちをした勝気な美少年は、ベランダの床を何度も何度も蹴っていた。

 イラついている十勝の姿を見て、苦笑いを浮かべるチームメイトたち。

 チーム"生徒会執行部隊"は、ここ校舎内で休憩をとっていた。

 チーム数一五名からなる生徒会執行部隊は、学年など関係なく。現生徒会、次期生徒会、委員会委員長が集まって成り立っている。

 十勝真は体育委員会委員長にして、体育祭実行委員の一人でもある。

 どうしてこんなにイラついているのかと言えば、校庭にいる"誰か"にイラついていた。


「どうして……どうしてあいつには人が集まるんだよ……」


 それを聞いた生徒会執行部隊メンバーは、揃ってベランダに集まり、校庭を眺める。


「あー、あいつ。確かに集まりますわね、あの人には」


 室蘭聖子は溜め息混じりにそう言った。

 生徒会チームの目線の先には、GAMELINERがあった。

 ぼんやりと試合を眺めるチームGAMELINERのする試合は、ずっと後の最終戦。暇を持て余すのは、当たり前だ。


「さて、それじゃ次が私たちの試合です。皆さん、最終戦まで頑張りましょう!」


 「はい!」と全員が大声で返事をし、教室から出て行く。

 十勝は去り行く間際にベランダからGAMELINERを見た。



 時間は進んで最終戦。ようやくGAMELINERの試合が始まろうとしていた。

 とはいえ、最終戦である。この熾烈を極める雪合戦を勝ち抜いて最終戦まで登ってきたチームと、全然戦わず最終戦にいるチームとの戦いであるため、どう考えてもこの試合勝ち目がない。

 だが宗谷達のやる気が十分あった。


『オマエラ、最終戦の準備はいいか!?』


 オオォォォ!!、という大歓声に宗谷達は緊迫してしまう。


『この目に見えた戦い。だが勝負はやってみないと判らない!! 今年の優勝者はどっちに輝くのかぁ!?』


 宗谷はゴクリと硬いツバを呑み込み、チーム全員に目で確認を取る。


『それでは行ってみよぉ!! GAME……STARTだ!!』


 パアンというピストルの破裂音を合図に、一斉に両チームは走り出した。

 この雪合戦の特徴は、後になればなるほど有利に働くというものだ。

 雪玉を回避するために作られた雪の塹壕もそうであり、作っておいてそのまんまの雪玉も使える。

 所々に開けられた穴や雪玉が重なってできた丘は、侵攻しようとしてくる相手の足止めにもなる。

 ゆえに後になればなるほど、互いに有利であり、不利でもあるのだ。しかし、それがこの試合の面白みをあげる要因にもなる。


「腕に自信のある奴は前衛を務めろ! 頭は出さず、軌道を描くように雪玉を投げるんだ! 北広島は軌道予測。前衛のサポートに回ってくれ! 他の連中は例の制作を急げ!」


 さっきとは違った宗谷の指示に賛同して、腕に自信のある連中(この場合は、網走と宗谷)は、雪玉を作る。


「上斜め六五度の高さに調整して、投げて!」


 北広島の言われた通りに雪玉を六五度の高さに投げる。

 少し頭を出して見ると、見事に相手の陣地へ雪玉が落ちて行くのが見えた。


「よし、その角度で全員弾幕を張れ!! 生徒会連中を一歩も近づけさせるな!」


 その時だった。大量の雪玉が上から落下してきたのだ。


「全員防御板で上を隠せ!」


 防御板は、この時のために作り上げた人ひとりを確実に隠せる盾だ。警察が所持している鉄砲の弾から身を守るためのあの盾と思ってくれれば間違いない。

 宗谷は急いで防御板を上に向けて全身を隠す。

 すると雨が降り注ぐかのように雪玉が宗谷に落下し、防御板で身を覆っていても連続で落下してきた雪玉の衝撃によって手を離しそうになる。

 雪玉の雨が止んだ後、すぐに起き上がり、状況を確認する。

 そして、アナウンス。


『GAMELINERチーム、一気に四人が失格だぁああ!! 残りは一一人。さぁどうするGAMELINER!』

「ちぃ、これが生徒会の実力か。だがこっちには、例の制作物と留萌がいるんだぜ」


 そう宗谷がつぶやくと、隣で「ひひひ」という声が聞こえてきた。


「ひゃひゃひゃひゃひゃ!! やっちまうよ。ああ、最高にキマッテルるよ!!」


 そう狂気に満ちた笑いを見せるのは、かの留萌小春である。

 彼女は基本温厚だが、戦いや喧嘩や試合になるとこのように狂気になり……。


「にゃははははははは!!」


 こうして人間を超越した力を発揮する。

 今現在、留萌はそれこそ一秒間に雪玉三個を投げている。

 しかも塹壕から顔出して、ストレートである。

 そして、アナウンス。


『生徒会執行部隊チームも一気に五人が失格! いよいよ勝負が解らなくなってきたぞぉ!!』



 その時、生徒会執行部隊では衝撃が走っていた。


「あいつ人間かよ!!」

「あの娘は確か留萌小春さん。テニスのプレッシャーボールで男子の肋骨を折ったという武勇伝を残す少女です」


 メガネをくいっと上げての解説。その姿が中々様になっているのは全校生徒ただ一人、津軽遼太郎だけだろう。


「流石、津軽さん。調べがついてるなんてかっこいい!」

「女子に褒められても嬉しくありません」


 津軽の言葉に全員が沈黙&ドン引いてしまった。

 だがそうこうしている間にも鉄砲玉のようにすごいスピードで雪玉が飛んでくるのだ。

 遊んでいる暇はない。


「真ちゃん。どうするの?」


 生徒会全員が十勝に視線を向ける。少し考えた後に、十勝真は策略を練った。


 場面変わってGAMELINERチームの陣地。

 実力発射ですごい勢いで雪玉を投げる留萌を余所に準備を整えていた。


「完璧だぜ千歳ちゃん」


 宗谷達の最終兵器"雪玉高出力発射砲台"。ようはバッティングマシンである。

 高さを調節し、雪玉を乗せ。そして、発射した。

 連続で発射される雪玉は、宙を舞って軌道通りに生徒会側の陣地を蹂躙する。

 そして、アナウンス。


『おおっと、これは驚いた! GAMELINERチームが自分たちでバッティングマシンを製作し、それを使って生徒会執行部隊へ攻撃! 五名を撃破したぞ!』


「ふふん、これで俺たちの勝ちは決定。これで……」

「それはどうかな?」


 宗谷が油断した刹那の出来事だった。宗谷の真上に黒髪の少年が一人。

 宗谷は急いで隣を見ると、留萌が倒れていた。つまり……。


「陣地はいただいたぜ」



 数分後、アナウンス。


『最後の最後で生徒会側の追い抜きによってゲームが終了! 生徒会側二人残して生徒会執行部隊チーム勝利だぁ!!』


 大歓声が鳴り響く中。雪の合戦が行われた戦場は沈黙していた。

 GAMELINERチームの陣地だった所では、LINERの大将こと宗谷出と、生徒会執行部隊の参謀こと十勝真が対峙していた。


「ハァハァ……マジかよ……。まさかの特攻とか無いぜ……」

「人を信頼し、人を盾にしてもなお特攻する。犠牲ってのは成功のためにするもんだぜ」


 宗谷は苦笑いを浮かべた。目の前にいる十勝真にしてやられ、特攻という強硬手段で陣地を蹂躙されたのだ。

 悔しそうに宗谷は唇をかんだ。そして、苦言を言う。


「これで俺は退学か」

「あー、それのことだけどさ」


 十勝は照れくさそうに顔を赤くし、キョロキョロと挙動不審に目を動かす。


「いやな。その……この雪合戦の優勝賞品がな。誰か一人になんでもいいからいう事を聞かせられるって賞品なんだ。だからさ……その。早いけどさ……。お、俺と……いや、私と付き合ってください」

「はい?」


 宗谷は困惑気味に十勝を見た。目を伏せて照れくさそうにしているが、それでも宗谷には訳がわからない。

 その前にツッコみを入れなければ。


「お前、男だろ」


 瞬間、怒ったような表情で宗谷を睨み叫ぶ。


「私は女だよ!! 男のように見えるけど女だよ! 忘れたのかよ……。小学校の時にお前が助けてくれたのに……」


 宗谷は記憶の中を詮索した。こんな女性にあったことあったかなと。そして、小学校の時に助けた少女と言えば、一人だけいたことを思い出した。

 小学校の時、男子のような顔立ちをしていながら、女子の体つきをしているために男子女子全員にいじめを受けていた少女を見かねた宗谷が、いじめっ子に反抗したことに。


「あー!! あの時の女子か!」

「そうだよ! 今のいままで忘れてたのかよ」

「すまん忘れてた。でも思い出した。そうかあの女の子なぁ……」

「その……さっきの答えだけど」

「あ? えっとぉ……い、良い―――」


 ここでアナウンス。


『おおっと、ここで先生たちから優勝チームへ先制布告だぁ!! なんでも優勝者の願いは我ら先生たちが許可するものであり、許可を得たいのならば我らを倒せ、だそうだ! ノリノリだぞぉ、先生方々!』

「え?」


 無表情な十勝真は、立ち上がって先生チームを見た。

 そして、宗谷の顔を見てニコリと微笑んで。


「絶対勝ってくるから」


 そう宣言して行ってしまった。宗谷は顔を赤くしたまま、去り行く十勝の後姿をただ茫然と見ているしかなかった。

 宗谷が後になって十勝から聞いた話では、宗谷を手に入れるために学校で悪い噂を流し、嫌われ者に仕立て上げ、孤立させ、宗谷を独占しようとしたのは十勝であったそうだ。


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