表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

5/5

5.奴隷エルフ

タイトル一部回収。

前半はヤケクソ気味です。一番発狂しているのは作者だった……?

 

俺は三日三晩、歩き続けた。



 食糧は十分にあったし、眠気もたいしたことなかった。疲労でHPが削られていくこともないようだ。


 でも―—―—



「うわああああああああああああああああああああああああああああああ帰りたいよおおおおおおおおおおおおおおおおお俺おうちかえるうううううううぅぅぅぅぅぅぅ!!」


 発狂した。



 よく考えれば、引きこもりが三日もジャングルみたいなとこ歩き続けるとか無理だわ。こんなのクソゲーどころか無理ゲーだよ。

 てか密林広すぎね? かなり歩いたのに街とかに着かない。密林から出ることさえ叶っていない状況だし。


「はぁぁ、もう死にたい……」


 これじゃ帰るどころか本気で生活がヤバい。地図とかあれば話は変わってくるのだが、



『ヴオオオオオオオオオンッ!!』


「あー邪魔だからアイテム落として死ね」


 後ろから迫り来ていたゴリラに石剣を突き刺す。もう相手の方すら向かない。ゴリラ型モンスターは土煙を上げて地に伏せ、絶命した。

 最初はモンスターを狩るのも楽しかった。最初のほうは。

 ただひっきりなしに襲ってくるもんだから、密林から出られないストレスと相まって、今はただの作業と化している。


 石剣があるおかげか密林で俺が苦戦するモンスターはいない。それに、モンスターの行動パターンとかゲームで散々学んでるからぶっちゃけ見てれば次の攻撃が読める。

 そうともなってしまえばもう作業と変わりない。


「《野獣の体毛》とかいらねぇ……」


 俺はドロップアイテムを拾うことなく、先へ進む。


 暑い、キツイ。 


 あはは……異世界冒険したって面接でアピールすれば採用されるかな……


 気力的には限界が近づいている。もう現実逃避の挙句にわけのわからないことを考えだしていた。


 あ、やばい、


 と、思った時には遅かった。既に俺の体は傾いている。

 受け身もとれないでそのまま倒れてしまう。


 ドサッ、と音を立てて今度は俺が地に伏せた。このままじゃモンスターに襲われても対処できない。どうしたものかなぁ、と俺は半ば意識を失いかけた状態で考えて……


 考えて……かんが…………


 俺の意識はここで途切れた。



 【状態異常《気絶》が発動しました】




 ♰ ♰ ♰ ♰ ♰


 


 ん―—―—俺は何を……?


 確か俺は気絶して……

 目を開けるが視界が歪む。疲労感はなくなっているが体はまだ回復しきってはいないようだ。


「へへ……お目覚めかい」


「え!?」


 目の前にはおっさんが3人いた。どうりでこの部屋が暑苦しく感じるわけだ。

 俺を助けてくれたのか。なら礼をしないと。そう思ったところで異変に気付いた。俺の体は縄で縛られていて身動きがとれない。俺は両手を縛られたまま壁にもたれかかっている体勢なのだ。

 俺は目の前のおっさん達を睨む。


「そう怖い顔するなよ。いや~それにしてもいい体してんなぁ」


 は? このおっさん、ホモかよ。

 しかしよく考えてみると、今俺の体は女の子だった。声も美少女らしい萌えボイスで設定してあったからそれが反映されている。

 となると状況は変わってくるな。

 

「あ、あなたたちは……?」


 おっさんらは俺を女子だと勘違いしているようなので、それに合わせて俺も少女らしい演技をして喋ってみる。


「ああ、俺らは冒険者のパーティだ。モンスターを討伐しに出かけたら嬢ちゃんが倒れてたんでなぁ、街まで運んできたわけよ」


 街!? ようやく俺は街に辿り着けたってことか! マジでおっさんに感謝だわ。


「ここは俺らパーティの隠れ家。だから誰も邪魔は入らなぇぜ。へへ……なあ嬢ちゃん、俺達と楽しいことしねえかい?」


 どうやら善意で助けてくれたわけじゃなさそうだ。まぁこいつら変態っぽいしな。助けた女の子縛るとかこいつらドSか。


 おっさんは鼻息を荒くしながら顔を近づけてくる。そして体を舐めまわすかのようにジロジロといやらしい視線を浴びせてきた。


「や、やめてくださいっ」


 マジやめろ。汚い、臭い、気持ち悪い。

 異世界来て最初に会う人間がこんな変質者とか俺運なさすぎだろ……


「おっと、声を上げたらただじゃすまないぜ」


 と言って、傍らにある剣を引き抜いて銀に光る刃をちらつかせてくる。


「俺はこの間もオークを3匹も殺したんだ。観念しな嬢ちゃん。おとなしくしててくれば、怪我させねぇからよ」


 オーク3匹で自慢とかなめてるの? 俺、前にオーク100匹連続討伐クエストやったんだぞ。闘技場で100匹倒すとか、あまりに多すぎて死ぬかと思ったわ。



「あ、そうなんだ~」


 なんか腹が立った俺は腕に力をこめた。すると俺を縛っていた縄は耐えきれなくなったのか簡単にはじけ飛んだ。


「何!? それは魔力で強化された特別製の拘束具なのに!」


「へぇ、そうなんですね~」


 腕が動かせるようになったので俺はうっとおしくて邪魔なおっさんをどかせようと、肩を押した。それだけで、おっさんは部屋の反対側まで吹き飛んでいった。


「くそっこのアマ! よくも兄貴をっ!」


 他の二人も構うことなく剣で斬りかかってくる。俺はその斬撃をひょいひょいと躱してみせた。


「は、速い!」


 何言ってんだ。このくらいの挙動が出来ないと高レベルのボス戦じゃ即死だ。相手の攻撃見切って、このスピードで動くことぐらいは基本テクニックに過ぎない。


 俺は相手の一人から剣を奪う。そのまま体ごと回転、遠心力を利用して全方向を切り払った。


 高加速円月斬り。


《ファーヴニル・オンライン》では火力と速度を持ち合わせた優秀な剣士アクションの一つだった。ここでも問題なく振るえるようである。


 斬ったのは服だけだ。おっさんの裸とか全然見たくないが、傷つけずに相手を脅かすにはちょうどいい。


「斬撃が見えねぇだと!?」

「こいつは化け物かっ!!」


 散々喚きながらも去っていってくれた。さっき吹き飛ばしたおっさんも無事だったみたいだ。無闇に人間を殺すのはよくないしな。出来るだけ平和的にやっていきたいものだ。


 さて、ここが街、ということは俺の異世界生活にも希望が差し込んだってわけだ。

 俺は部屋を見回す。俺の荷物は無事だった。金とか持ってないからたいして盗むものもないとは思うが。

 寧ろ―—


「金貨がいっぱいだぁ」


 大きめの白い袋には金銀のコインが大量に入っていた。あのパーティが稼いだか盗んだお金なのだろう。

 うーん、どうしよ……

 これ持っていくのも気が引けるのだが、生活する以上はお金は必要不可欠。


 長考。


 

 結果……


 持っていくことにした、

 あいつらも俺の……この体の場合は童貞じゃなくて処女を奪おうとしてたしね。慰謝料として頂くってことでいいだろう。


 階段を上って、1階の部屋に入る。先程俺が縛られていた部屋は地下だったらしい。一階にも人はおらず、パーティは本当に家から逃げ出したと考えていいだろう。


 ドアを開けて、外へと出た。


 日当たりのあまりよくない通りだった。スラム街……とまでは行かないが治安もよくはなさそう。大通りから離れた場所だろうか。建物が密集して路地が入り組んでいる。


「裏通りってわけか。中心部を目指すとしよう」


 人通りの少ない道を歩く。

 そこで俺は何か言い争うような声を聴いた。

 気になり、声の方向へと脚を進めていくと―—


「さっさと歩きやがれ!!」

「…………」


 いたのは一組の男女。男は無造作に髭を伸ばした荒っぽい見た目。女はまだ若い。少女と呼ぶべきだろうか。

 男が少女の手を引っ張り、歩かせようとする。対して少女はそれを拒んでいる様子だ。


「どうしたんですか?」


 俺は声をかけた。


「ああ? なんだガキの娘か。……ん、その身なりは冒険者だな。なら見りゃわかるはずだ、こいつを市場に連れて行くんだよ」


 男はそう言って少女を指差す。遠目にはわからなかったが少女は人間ではない。

 エルフだ。耳が尖っている。服装もボロい布で作られていて、あまり豊かな暮らしをしているようには見えない。


「市場ってどこの……?」


「お前は馬鹿か? こんなみすぼらしいエルフ風情ふぜいを連れていくったら、奴隷市場に決まってんだろ」


 そういえばそんなことが本にも載ってたな。この世界は貧困層の身売りもよくあることらしい。特に亜人種はその傾向があるようだ。


「でも嫌がってるみたいですよ」


「盗みを働いたんだよ。当然の報いってやつだ。それに家族もいないらしい。どっちにしろ野垂れ死にする運命なんだよ。なら奴隷として使われる方がいいだろ。幸い、顔はいいからそれなりの値がつく。今月一の儲けになって俺を潤わすことが償いってもんだ」


 そう言ってニタニタと笑う男。こいつは奴隷商人らしい。

 少女のほうを窺う。少女エルフは無表情のまま俺を見ていた。

 だが、俺はその目に少女の願いを見た。


 ――助けて、と。


 はぁ、しょうがない。


 

「じゃあその娘買います」


「は? ハハ、悪いがこいつは商品としちゃ上物だからな。ガキが支払えるような金じゃ無理――――」


「これでいい?」


 俺は袋からジャラジャラと金貨を地面に落とした。ざっと10枚ぐらいか。

それを見た奴隷商人の男は目を丸くして金貨を貪るように拾い集めた。

 

「あ、ああ……お買い上げありがとうございます……」


「うん。それじゃあこの娘は貰ってくねー」


「ち、ちょっと待て! その前に契約しないとダメだろ!」


 男が呼び止める。

契約? 俺が疑問に思っていると、男が一本の針を取り出した。


「これで娘の腕輪にお前の血を垂らすんだ」


 俺は言われた通りに、少女エルフの右腕にはめられた腕輪の水晶部分へ血を一滴垂らす。

 その途端に、水晶が輝き、紫の光で綴られた文字が幾つか浮かぶ。そして少女の腕の周りを回転していく。

 その現象は5秒ほど続いてから終わった。


「隷属契約は完了だ。あとはお前の好きにしな」


 奴隷商人は去っていった。残されたのは俺(見た目金髪ツインテ)と少女エルフ。


「なんか結局奴隷になっちゃったけど……よろしく」


 俺は少女に笑いかける。確かエルフって寿命がめちゃくちゃ長いんだっけ。この娘は何歳ぐらいなんだろう。でも見た目には俺のアバター体と変わらない程度だしなぁ。

 なんにせよ、変な貴族とかに貰われるよりはマシだっただろう。俺もこの世界じゃ女の子に見られるわけだし、仲良くできるかもしれない。


 しかしエルフといっても人間の女の子と変わらないな。

そう思うと何か緊張してきた。


 だが、次に少女エルフが放った言葉は俺の緊張を微塵もなく吹き飛ばすほどに衝撃的だった。


「お腹が空きました。何か食べさせるです、異世界人のクソマスター」



 えぇ……なんでばれた?



 



 


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ