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4.ゾンビですが、何か?

「いってええええええええええええ!!」





「ぎゃあああああああああああああ!!」





「いってええええええええええええ!!」





「ぎゃあああああああああああああ!!」





「死ぬっ、これヤバいだろおおおおマジでえええええ!!」



 MPの回復時間をおいて、繰り返すこと10回。


 俺はいちいち死にまくっていた。


 何を言っているのかわからないかもしれないが、正直俺もわけがわからない。

 《不死化》スキルによって俺は死んでいるのだ。意味わかんねぇ。


 このエクストラスキル、どうやら単純に無敵化するという効果じゃないらしく、限定的に使用者を仮死状態に変えることで『歩く屍』にさせるようなのだ。


 端的に言うなら、「ゾンビになれば死なないよねっ、だってもう死んでるから☆」である。

 

 時間限定で仮死状態にするだけなので一応、死亡するというわけでもないのだが。発動する時に『死に値する痛み』に襲われる仕様になっているせいで、俺にとっては毎回死んでいるようにしか思えない。


 で、俺はただ激痛を味わうためにこんなことを繰り返す変態じゃない。

 色々と検証をしてみた。

 その結果、わかったことが幾つかある。


1.ゾンビにはなるが、食欲とかに支配されることはない。


2.体は腐肉みたいになるが臭くはない。


3.ゾンビだけど走れる。


4.MPの消費は40固定。


 だいたい、こんなものか。要はゾンビだけど精神的には何の問題もない。いや、自尊心とかには問題大アリな気がするがもうどうでもいいや。


 痛みを伴うことと見た目が気持ち悪い以外は特に問題のない能力だった。本当にゾンビ状態ならダメージも受けない。何度か剣で腕を斬ってみたが斬ると同時に回復が始まって意味を成さなかった。痛みも感じないらしい。

 燃費もそこまで悪くはない。

 身体強化のおかげで力も素早さも普通の時とは段違いだ。


 ゲームだったら神スキルである。

 ……実際に使う俺にとっちゃ、いちいち痛いのである意味最悪だ。

 それに誰が好き好んでゾンビになりたがるんだよ。せっかく美少女の体になってるんだからこのまま戦いたい。


 でもなぁ。30秒も死ななくなるってのは大きい。普通にこの《不死化》はバランスブレイカーになりうる。


 うん、この際デメリットは無視していこう。この力があればレベルも上げやすいはずだ。間違いなく攻略の助けになってくれる。


 よし、今度こそ出発だ。


 俺はゆっくりと扉を開け、外の世界へ踏み出した。




 ♰ ♰ ♰ ♰ ♰




 何匹ものオークが蹂躙されていた。

 …………ゾンビに。


 ゾンビは走っていた。速い。普通に爆走している。

 跳躍して手に持つ剣で回転斬り。剣を投げてオークの頭に突き刺す。

その光景は実に奇妙であった。歩く屍ゾンビがハイスピードアクションを繰り広げている。新しいB級映画かなにかにしか思えないだろう。


だが新手のオークが湧いてきて、1体しかいないゾンビを取り囲む。それと同時にオークの持つ棍棒が振り下ろされた。

 強烈な打撃が生きる屍を捉える。ボゴッ! と音がして腐った胴体の真ん中に穴が穿たれた。

 しかしゾンビが攻撃を意に介す素振りはない。肉片を撒き散らしながら体を躍らせる。

 ドロップキック。ゾンビが、である。


 その一撃の前にオークは軽々と吹き飛んだ。そのまま大木に打ちつけられて絶命する。丸々としていた腹部は衝撃でへこんでしまっている。


 地面に落ちた棍棒を拾い上げたゾンビは攻撃の目を他のオークらに移した。駆けては棍棒を振り抜く。それだけでオークは次々に肉塊へと変わっていった。




「ふぅ……何匹ぐらい倒した?」


 ゾンビはいつの間にか金髪ツインテの少女になっていた。


 俺は、マイルームを出発してから程なくしてオークの群れを見つけた。それでまぁ、襲いかかってみた。

 強さがどれほどなのか定かじゃなかったので、何度か《不死化》を使用したが正直、要らなかったかなぁ。だって、《ファーヴニル・オンライン》にもオークはいたから攻撃とかのモーションは全部暗記して頭に入ってるし、普通にやっても死ぬことはまずない。まぁ、《不死化》の状態だと攻撃一辺倒で戦えるからいい。でもあの激痛にだけは慣れないな……


 既に絶命して地に伏せるオーク達を見下ろす。ざっと10匹ぐらいか。

 戦っている間に経験値が入ったのか腕力も上がった気がする。


 しかし倒してみたがこいつらどうしよ。

 首を捻りつつもオークの死体を小突く。



【解体しますか? Yes /No 】



おっ!? 何か出てきた。

視界にはメニュー画面と同じ半透明な青色をしたウインドウが表示されている。

俺はYesをタップした。すると、オークの死体が消えて代わりに骨付き肉と牙や布切れが残った。


ドロップアイテムらしい。流石はゲームの異世界。《ファーヴニル・オンライン》じゃ自動的に倒したモンスターは消えて戦利品だけが残る仕様だったが、ここでは解体の手順を踏むようだ。どちらにせよ剥ぎ取りとかを実際にやるわけではないから問題ない。

モンスター裂いて肉を取り出すとか俺は丁重にお断りします。


俺は単調にタップしていく作業を行っていった。

結果、かなり食糧などのアイテムを収集できた。それらを集めて俺は《スキャン》を発動させて鑑定していく。


オークの肉は醜い外見に反して旨いらしい。何故、肉が全て骨付き肉という形で出てくるのかは疑問だったが。

オークが身に着けていた服……と言っても布切れだが、これはあまり役に立たないので捨てる。服はレザータイプの初期防具があるので大丈夫だ。


「で、この剣だな」


 オークからドロップした石剣をスキャンする。



 石剣(中級)

 攻撃力:280

 属性:無

 鉱石で作られた大振りの両手剣。荒っぽい見た目だが丈夫な作りで、攻撃力も高い。



 これはけっこうありがたいな。マイルームにあった下級の剣はオークを2、3匹倒すのに使ったら刃こぼれして斬れなくなった。それに攻撃力も100ちょっとしかないやつだったしこの石剣を新しく使うのが賢明だろう。前の剣より重くて持ち運びにくそうなのが難点だけど。

 

 ちなみにだが、現在俺のスキル《スキャン》のレベルは3だ。植物やアイテム、オークに使ってたら経験値が加算されたのか上がっていった。

 そのおかげか、今は武器の攻撃力、属性、説明なども視界に表示されるようになった。


 

 俺は周囲に意識を集中させる。近づいてくるモンスターの気配がないかの確認だ。


 頭の中で電子音は軽く鳴り、視界の端に『《魔力探知》のレベルが上がりました』と表示された。

《魔力探知》がレベル2になったらしい。


 

スキルのレベルは経験値の積み重ねで上がっていく。どれだけ経験したかにかかっているようだ。つまりはスキルを使用すればするほどレベルは上がりやすい。本にも書いてあったが、自身のレベルとスキルのレベルは関係していない。戦闘の経験を積んでもスキルを使わなければそのスキルに経験値は入らず、レベルも上がらないのだ。


 これは《ファーヴニル・オンライン》にはないシステムだ。ゲームでは自身のレベルが上がれば均等にポイントが振られて、スキルもレベルアップすることが多かった。

 しかしこの世界……『ファーヴニル・ワールズ:closedβ』だっけ? ここではレベル至上主義とはなっていないようなのだ。


 大半のMMORPGというジャンルのゲームはレベルこそが強さの指標である。それはゲームをどの程度やりこんでいるかという証明であり、ステータスの高さに直結した数字でもある。

 それは何故か?

 レベルを上げることが強くなる、ということだからだ。


 レベルが上がった時、それが一番経験値を稼げる場面なのである。

 

 しかし、この世界は違う。

 レベルは総合力を表すものであり、必ずしも強さには直結しない。

 経験の象徴と呼ぶべきだろうか。


 そしてここでは《ファーヴニル・オンライン》のようにどんどん自身のレベルを上げることが難しいようだ。


 レベル100か。

 これは大変なのかもしれん。


 アイテムを回収し終えた俺は再び密林を歩く。

 湿度が高いせいか暑い。さっさと街か村にでも着きたいが、どれくらい進めばいいんだろう。


 はぁ……帰りたい。ゲームみたいな異世界なんて楽しそうだと一瞬でも考えた俺が馬鹿だった。

 先程の戦闘で多少、HPとMPを消耗した俺は木陰に座り込む。空を見ると雲一つなかった。そういえば元の世界も夏だった。と言っても家にこもっていた俺にはあまり季節というのは関係ない。

 でも彼女つくって海とか行ってみたかった。女友達とかいなかったしなぁ。


 ………あれ。

 せっかく異世界に来たんだし、元の世界じゃやれないことやったほうがいいよな。帰るっていっても時間は否応なくかかるんだし。ここにいる間は好きのことをしてみてもいいんじゃないか。


 じゃあ女の子と付き合おう。


 できるならハーレムをつくって、水着回をしよう。


できるなら童貞も卒業しよう。



こうして俺のささやかな(?)願望が決まったのであった。



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