第6話
「お邪魔します」
「……どうぞ」
窓からは夕焼けの赤い光が差し込んできている。
家族以外ではじめての女性の来客に真の声は震えているようだ。
蒼空は気にもせず普通に入ってきたのだが。
部屋に入ってすぐに料理に取り掛かろうとする蒼空。買って来た食材を袋から取り出し準備をしていく。
「真。ボウルはある?」
「一通りの調理器具は流しの下の棚に入ってるから自由に使ってくれ。後、レンジは見えてると思うけど左のところにあるから」
「わかった」
棚から必要なものを取り出し調理を始める蒼空。
テキパキと段取り良く進めていく姿はかなりの腕前のように見える。
手持ち無沙汰になった真はとりあえず買ってきた物をしまうことにした。
と、言ってもほとんどは冷蔵庫や冷凍庫にしまうものがほとんどなので今はしまうことができない。
なぜなら冷蔵庫は蒼空の奥、台所の一番奥にあるのだ。通路はあまり広くはないのですれ違おうもんならその場で気絶してしまうのは目に見えてる。
言ってどいてもらうという選択肢もない事はないのだが、真剣に作っているところに水を差してしまうのも悪いと躊躇っている真。
ただ、このままでは買ってきたものが夏の暑さで駄目になってしまう可能性もあるので悩みどころではあろう。
それに、すれ違うだけの通路はあるのにどいてもらうのは普通に考えればおかしな事で、蒼空にその疑問を持たれて聞かれるのは流石に話したくない事柄に触れるのでできれば避けたいところではある。
結局、邪魔するのも悪いので後回しにしてしまう真。
スマホを取り出し時間つぶすことにした。
――今何してる?
LI〇Eを慧に送ったのだがすぐに返事は来なかった。
まめな慧はいつもであればすぐに返事を返してくるのだが、今は返事が返せない状況にあるようだ。ベットの上にスマホを置く。
結局はやることがないので仕方なく食品をしまうことにする真。
「……蒼空さん?」
「どうしたの?」
振り向いた蒼空の手には包丁が握られており一瞬躊躇してしまう真。
「あ、あの食品しまいたいからちょっと場所空けてくれる?」
「真の部屋なんだから断らなくてもいい」
「いやー、真剣に作業してるのに邪魔したら悪いかなって……」
「そう……」
そう言うと蒼空は移動して場所を空けてくれた。
それを見てそそくさと食品を冷蔵庫にしまっていく真。
五分程整理しながら片付けて終りそうなときにスマホが鳴り、着信を知らせる。冷蔵庫に最後の食品を入れてスマホが置いてあるベットに向かう。
画面を確認すると慧からの返事だった。
――どうした真?
――おまえが返事遅れるなんて珍しいな
――マナーにしてて気がつくの遅れただけだ
――そうか
――で? どうしたんだ?
――今日俺の家に来るって言ってたけど日にち変えない?
――なんで?
――ちょっとした事情があって……
――バイトか?
――違うんだけど……
――じゃあなんでよ?
――今、家に人が来ててそれでな。できれば明日とかにして欲しいんだが
――誰? 荻野ってやつか?
――違う
――じゃあ誰?
慧の質問にどうやって答えようか考えてしまい手が止まってしまう。
素直の答えれば慧の事だ、一にも二にも俺の家に来るのは目に見えてる。しかし、このままはぐらかしていても埒があかない。だが、慧には嘘はつきたくないのも心情だろう。
三分ほど考えた末、真が出した答えは……
――今、家に蒼空さんがいるんだわ
素直に答えることを選んだ。
――はぁ!?
普通に真の事を知っている慧の反応としては、おおむね予想の範疇であった。
まあ、驚いてそれ次の事を聞いてこないところは予想外なところではあったが。その言葉を最後に慧から何もこなくなった。
待てどもこないので仕方なくスマホを置きのんびりすることに。
十分程たっただろうかスマホが鳴り出した。それもメールとかではなく電話のほうだ。
「もしもし」
「お、おい!! 言っている意味が全くわかんないんだけど、ど、どういう事だ?」
電話越しでもわかるくらい慧は興奮しているようだ。
「ちょっと落ち着けって」
「落ち着けるわけないだろ!? いいから話せよ!!」
あまりの慧の取り乱しぶりに笑みがこぼれてしまう真。ここまで取り乱している慧は初めてだった。
「わかったから本当に落ち着いてくれ」
「そ、そうだな……」
電話越しから深呼吸している音が聞こえてくる。
「落ち着いたか?」
「ああ」
「話すけど別にたいした事はないぞ」
「いいから話せって……」
「簡単に話すと、絡まれていた蒼空さんを助けてお礼にご飯作ってもらうことになって、家に来て作ってもらってるって状況なんだが……」
「俺が問題にしてるのはそこじゃねえ!!」
また興奮してきたのか語調が強くなる。先ほどの深呼吸が台無しだろう。
実際のところ何を問題にしているのかは真はわかっている。
しかし、あえて聞いてみることに。
「じゃあ、何が問題なのよ?」
「お、おま、おまえ、わかってて聞いてるだろ? はっきり言ってやろうか! なんで女と二人で狭い空間にいるんだよ!!」
「まあ、そうだよな……」
そこについては真も疑問に思っているところでもある。
昔から狭い空間で女性と二人きりなったことはない。例外があるとすれば家族だけだが、それ以外は今までなかったのである。
それを知っている慧は、今までにないくらいの驚きようで、そのことを理解してる真もわかってはいるが、自分でも何で大丈夫なのかわかっていないのだ。
「そうだよなって……。とりあえず大丈夫なのか?」
本気で心配しているようで、すぐに真確認してくる。
「とりあえずは大丈夫だけど……おまえの言いたいこともわかるんだけど、俺にもよくわかってないんだよ……」
「マジか……」
若干、声色は震えているように聞こえる。
「話しは戻すけど、とりあえず今日は遠慮してもらっていいか?」
「……」
慧からの返事がない。返事を待っていると電話の外から声がかけられた。
「何かあった真?」
通話口を塞ぎ蒼空のほうに顔を向ける。
「い、いやなんでもないよ」
「なんでもない様には見えない」
蒼空の鋭さに目を細めてしまい睨むような目つきになってしまった。
そんなことなど気にしてないようで真の答えを待っているようだ。
そう答えようか考えていると電話越しから慧が話し出す。
「真。逆に行くことにするわ。何かあったらまずいしな」
「……わかった。じゃあ待ってるわ」
「ああ。じゃあ後でな」
そう言うと電話を切ってしまう慧。話しの口調としてはふざけてるような感じもなかったので真は肯定の返事をしてしまった。
本当のところは来て欲しいのか来て欲しくないのかは半々といったところなのだが。
「で、どうしたの?」
「申し訳ないけど慧が来ることになったから」
「別にかまわない。私は急に来たのだから断る必要もない」
「それもそうだね……」
「それよりも慧の分も作ったほうがいいの?」
「できればそうして欲しいけど……来るのは慧一人じゃないんだよね」
「他に誰が来るの?」
「七海さんと梓さんも一緒にいるみたいで、そのまま付いてくるみたい」
「梓と七海が?」
「うん……」
「なら、多めに作ることにする。なにか他に作ったほうがいい?」
「いや、そこまでしてもらったらなんか悪いから慧達に何か買ってきてもらうよ」
「わかった」
追加分を作るために台所に戻る蒼空。手伝いたい気持ちはあるのだろう、申し訳なさそうな顔をしている真。
しかし、できないので諦め、慧に連絡をとり何か買ってきてもらうことお願いしようとスマホを操作するのであった。
慧からの連絡から一時間ちょっと経過しただろうか。
外は薄暗くなってきており窓から外を見れば西の空はもうすぐ完全に陽が沈もうかという頃だ。
部屋の中には香ばしいトマトソースの匂いが漂っており食欲をくすぐってくる。蒼空は出来上がりを待つだけの状態で、テーブルを挟んで反対側のところに座っている。
真は準備ぐらいなら手伝えると行動したのだが、蒼空に全て静止されてしまいやることがなく、ただ座って待つしかなかった。
まあ、手伝いと言ってもテーブル周りを片付けたり、皿などの食器を準備するだけなのだが。
そんな感じで出来上がりを待っているとインターホンが鳴った。
立ち上がりドワホンを確認する真。まあ確認するまでもなく慧達なのだが。
受話器から慧の声を確認するとオートロックを解除してマンションの中に入れてあげる。後ろからは聞き覚えのある声がしっかりと聞こえてきていた。
「ただいま」
「「お邪魔しまーす」」
部屋に入ってくる慧と七海と梓。慧の入ってくる言葉はデフォルトなので気にしないことにしている。先日は真の親がいたこともあり礼儀正しく言っていたが普段はこれが普通だ。
逆もしかりで、真が慧の家に入っていくときも同じ事を言う。
「本当に蒼空がいる!!」
「ていうか、すごいいい匂いがしてるんだけど!!」
部屋に入ってくるなり梓と七海は蒼空の姿と匂いに興奮気味のようだ。
慧は何も言わず真の傍にきて肩をポンッと叩いてくるだけだった。
「何で蒼空が真君の家にいるの?」
「真に助けてもらったから、そのお礼にご飯つくりにきた」
「そうなの!?」
慧から詳しい事情を聞いていなかったのだろう、梓はかなり驚いている。
七海は匂いの元である台所のほうに興味津々のようだ。
「オーブンに入ってるの蒼空さんが作ったの?」
「そう」
「七海に言ってなかった? 蒼空って料理かなりの腕前なのよ」
「「「へぇー」」」
その情報に真、慧、七海の三人は驚きと感心が入り混じった表情をしている。まあ、真だけは二人ほどではないが。
作っているところを見てればなんとなく予想はできたし、身近に同じぐらいの奴がいれば予想するのもたやすいだろう。
「私はそれよりも、なんで蒼空が真君の家に来ることになったのか聞きたいのだけど?」
「私も気になるかも……」
梓の言葉に同調する七海。その言葉の割にはあまり興味がなさそうだが。
そんな話しをしているとオーブンが音を鳴らし完成を告げる。
「話す前にご飯食べようぜ。俺、お腹へって死にそうだよ」
本当にお腹が減っているのだろう慧がお腹に手を当てながら訴えている。
「そうだね! 先に食べちゃおっか」
「持ってくる」
蒼空は立ち上がりオーブンの中からピザを持ってくる。オーブンには再度ピザを入れて次の準備をして。
持ってきたピザからはスタンダードな具材ながらも食欲を刺激する香ばしい香りと、酸味の利いた匂いが更に強く感じられ見るからにおいしそうだ。
テーブルに置くのを見て慧は買ってきたものを出し、それもテーブルに並べ始める。連絡したときに事前にピザを作っているのを慧にだけは伝えていたので、合う物をしっかりとチョイスして買ってきたようだ。テーブルにはメインのピザの他に、鳥のから揚げ、スパゲッティーのサラダ、それにワインだ。
何処に何があるかわかっている慧は立ち上がり、五人分のグラスを用意する。
因みに、から揚げとサラダは既製品ではなく慧が家によって作ってきたそうだ。
ワインを開け、グラスについでいく慧。
全員にいきわたったところで
「いただきまーす」
よほどお腹が空いていたのだろうすぐに食べはじめる慧。
それにつられるように四人も食事の挨拶をして食べはじめる。
「おいしー」
「これはうまいな」
「さすが蒼空ね」
「負けたねーこりゃあ」
皆が口々に蒼空の作ったものに賞賛をしている。当の本人は、黙々と食べているだけだ。
人は見かけによらないとはこのことであるが、蒼空にはあまり当てはまらないような気がするが気のせいだろう。
一枚目のピザを食べ終えようかというときに二枚目ができ、三枚目をセットする蒼空。
食べるペースが落ちついいてきたところで梓が先ほどの話しに戻そうとする。
「そろそろ今日の出来事を教えて欲しいなー」
「いいよね? 真」
「ああ」
蒼空に頷いて放しても問題ないことを伝える。
慧と梓は早く話せといわんばかりの目をしている。七海は、まあ聞いてあげるよみたいな感じで待っている。
「実は――」
そう切り出すと蒼空は真との出来事を詳細に話し出す。
内容としてはかなり詳細に話しているようで、真と出会う前の話も織り込まれておりそこの部分は真も真面目に聞いていた。あまりにも詳細に話している蒼空を真は関心の眼差しで見つめていた。
それ以外に関してはあまり触れられたくなかったので聞き流していたのだが、そう簡単にはいかないのが面倒くさい所だ。
特に反応が顕著だったのが梓と慧だ。だが注目している点はそれぞれに違うようで、感嘆の声をあげるところが違っていた。
十分程かけて話し終えた蒼空は一息つきたいようでグラスに注がれているワインを一気に飲み干していた。
蒼空の話が終り梓が興味津々といった感じの眼差しで真を見つめてくる。それを見た真は逃げ出したくなったが狭い部屋ではそれもかなわないと溜息を吐き諦めているようだった。
「何々、真君って何者なの? すごい気になるんだけどー」
「何者って言われましても……。見たままだと思いますよ」
「えーっ! だってこの前会ったときに引きこもりみたいな話ししてたよね? それが何で蒼空の絡んできていた人達が逃げていくのか繋がらないんだけど?」
首を傾げ悩んでいる真。その表情から本当にわかっていない感じがにじみ出ていた。
「確かにそんなこと言ってたよね」
七海も興味があるのか梓の言葉から思い出したのか同意している。
それでも思い出せない真。うなりながら思い出そうとしている真に助けたのは慧だった。
「梓ちゃん、七海。この前言ってたのは今の真のことだよ」
「今の?」
「そうそう。大学に入ってからの真の事。昔とは一八〇度違う生活だけどね」
説明をしている慧を苦笑いしながら話しを聞いてる真。自覚はあるのだろう話の腰を折ったりせず黙って話しに耳を傾けている。まあ間違ったことを言おうもんなら即座に話しの軌道修正はすることであろう。
「そんなに違うの? 一八〇度ってそれは言い過ぎなんじゃない」
梓はものすごく不思議そうな顔で訴えてくる。
「あんまり誇張はしてないと思うんだけど……」
「そこのところどうなの真君?」
「……まあ、大体あってるかな」
もう真の顔はずっと苦笑いしっぱなしだ。事実であるから否定もしようもない。
「あってるんだ……」
呆れた様子で真を見つめてくる梓。七海も多少呆れているようだ。
残ってる蒼空は表情に変化がなくただ黙って話しを
聞いてるだけであった。
「俺が言ったとおりだろう?」
「真君が認めているんだったら間違いないかな……」
慧の言葉にいぶかしむ態度だった梓は、真の言葉で納得したようだ。
話しが少し途切れたところで蒼空が急に話しに割り込んできた。しかし、それは話しの続きをから割り込んできたものではなかった。
「まだ材料あるけどおかわりいる?」
「私はもういいかなー」
「私も……」
「俺は少し欲しいかな」
「まだ欲しいかな」
女性陣はもう要らないようだったが、男性陣はまだ食べれるようだ。特に真はまだかなり余裕がある発言だ。
「わかった」
そう言うと立ち上がり次の準備の為に台所に向かう蒼空。
その姿を眺めている真に梓から声がかかった。
「話しを戻すんだけど、結局真君って前は何してた人なの?」
「それは……」
言いよどみながらどうしようか考えている真を尻目に横からあっさり話されてしまう。
「真は中学ぐらいから格闘技やってたんだよ」
「えっ!? そうなの?」
「それってすごくない?」
七海と梓は鳩が豆鉄砲を食ったような顔になっている。それを見ていた真と慧はそれをみて微笑んでいる。
この二人はそんな顔など見慣れている。中学からやっていた格闘技を高校に入ってからも続けていたが、高校に進学すれば知っている人もいれば知らない人もいる。その知らない人に説明をすれば大抵はそんな顔になるのだ。その顔を何度も見ていれば見慣れてくるのはしょうがないことではあろう。
それも、二人の通っていた高校はそれなりの生徒数が在籍してて今でも話したことない人など大多数いるのだ。そんな高校で最初の一年目などは大多数の人に話したのでまず対応に困らないほどの経験をしているのも一役買っている。
「まあ、今はすっぱりやめて軽く身体を動かす程度しかしてないみたいだけどね」
「何でやめちゃったの?」
更に瞳の輝きの増した梓が迫るように身を乗り出して真に聞いてくる。
その状況にたじろぎ後ろに下がる真。まあテーブルを挟んでいるので近くまでは寄れないのだが、本能的に身の危険を感じたのだろう。
「昔からあんまり好きじゃなかったんですよ。まあ、必要にかられてやってるっていうのがしっくりくるんですけどね」
「なにそれ? すごい気になるんだけど」
「そこはあんまり言いたくない所なんでそこは勘弁してください」
「えーっ! そう言われると余計に気になるじゃん!」
「そこはそっとしておいてあげて梓ちゃん」
「……わかったわよ」
むすっとした顔でしぶしぶ納得する梓。
「けれどそれだけじゃあまだ謎が残るんだけど……」
「何が?」
そこに突っ込んできたのは七海だ。それに答えているのはなぜか真ではなく慧。
「さっき蒼空さん言ってたのは、何もしないのに逃げていったって聞いたんだけどそれだけじゃ逃げた理由にはならないでしょ? それなら他に理由があって逃げたってことなんじゃないの?」
「言われてみればそうだね」
七海と梓の言葉に顔を合わせ目で何かを確認しあう真と慧。その応酬は一分ほど続けられ、最後に真が溜息をついて決着がついたようだ。
そして話し始めたのは慧だった。
「実は、真がバイトしているのが関係してるんだと思うんだよね」
「どういうこと?」
何処まで話していいのかわからず再度真と顔を合わせる慧。再度真は溜息をつき今度は真が話し出す。
「バイトの事は詳しい話しはバイト先から口止めされているので詳しくは話せませんが、おそらくですが男達が逃げたのはそのバイトの様子を見ていたのだと思います」
「逃げ出すとかどんなバイトしてるのよ? バイト先から止められてるなら仕方ないけど話せるところとまで話してほしいな」
「それはかまいませんよ」
かなり顔がひきつりながらも興味のほうが勝るのか続きを促そうとする七海。先ほどまで大した興味がなさそうだったのに何が七海の興味を示したのだろうか疑問だ。
「とりあえず話せるのはバイトの内容としては大まかな分類で言うと警備ってとことですね。お話しできるのはこれぐらいなので逃げていった理由はそこからのご想像にお任せします」
「話せること少ないんだね……。もうちょっとないの?」
「これ以上は無理なんですよ」
「ねえ、慧どうなの?」
「はっ!? 何で俺に聞くの?」
真は無理と判断して慧に会話を振る七海。急に振られた慧はかなり驚いている。
「だって何か詳しく知ってそうじゃない?」
「いや、まあ、知ってるといえば知ってるんだけど……。そこまで詳しくは知ってないよ。真から教えてもらったわけじゃなくて、俺も見ただけだから」
慧の話は本当の事で、真はバイトに関しては働いている場所以外は一切教えていない。
本当のところ口止めされていても慧には話してもいいかなと思っていた真だったが、かなりの拒否感で断ったからという背景があったりする。
「見ただけって事は働いてる場所は知ってるんだ。そこは話してくれてもいいんじゃない?」
「それぐらいだったら問題ないよな真?」
「ああ」
「どこ、どこ?」
「私も知りたーい」
真の了承を得て七海と梓に話そうとしたとき
「できた」
話しの流れなどお構い無しにテーブルに出来上がったピザを置く蒼空であった。
お読みいただきありがとうございます