第5話
あの三人と出合った食事会から一週間がたった。
あれから真は色々と実験を繰り返していた。あの日にわかったのは基本的にはサングラスをかけていれば眼の力は遮断されることがわかった。しかし、それ以外はわかってはいなかったのでより知るために実験をしていたのである。
わかったことは、こちらから見ていても相手が目をあわさない限りは効果がなく、距離も五メートル以上離れていれば効果がないことがわかった。駄目だったのは色の入ってないサングラス、普通の眼鏡みたいなものは全く効果がなく、あとはコンタクトも駄目であった。
結果としては厚みがあり、色が着色されているものを挟んでみれば問題ないことがこの一週間でわかったことだ。
夏休みということもありここ一週間はずっと外に出てそんなことばかりを繰り返し実験していた。もちろん慧を連れまわしてである。
若干、というかかなり慧はうんざりしている様子だったが、借りを返してもらうという名目で無理やりつき合わせているのはここだけの話しだが。
流石に連れまわしすぎたと思った真は今日は一人で行動している。まあ、大体の事がわかったからでもある。
今日もダサいサングラスを着けて、午前九時、快晴の街をぶらぶらと歩いて、ついでに買い物をしていく予定で外へ出てきていた。
不意に携帯が、真の大好きな音楽を短く鳴らしたので携帯をポケットからだして確認すると慧からだった。
――今、大丈夫か?
――大丈夫だがどうした?
――今日って夜は暇か?
――別に用事もないから暇だぞ!
――それだったら今日の夜におまえ所行くわ
――ああ
――ついでにちょっと二人程連れて行くからヨロシク
――はっ? 誰を連れてくるのよ?
――この前会った七海と梓ちゃん覚えてるか? その二人と行くから
――意味がわからないんですけど
――これからその二人と遊ぶんだけど、なんかおまえにもう一度会ってみたいらしいぞ
――もっと意味がわからんわ。なんで俺なんかに会いたいのよ?
――それは知らない。まあそういうことだからヨロシクな
――無理
――まあまあ、そう言わず付き合ってくれ
――何考えてるのよおまえは!! どう考えたっておかしいだろ!何かあったらどうするつもりなのよ?
――そこは俺が責任持つから。それに二人がどうしてもって言うから頼むよ
――どうなっても知らんからな……
――わかってるって。じゃあ行く前に連絡するから
――ああ
携帯をポケットにしまい盛大な溜息を吐く真。
そして暗い顔のまま、とぼとぼと歩いていくのであった。
あの後、二時間程街をぶらつき部屋に帰ってきた。
当初の予定では買い物をしてくるはずだったがそんな気力もわかずそのまま帰ってきてしまったのである。
実際のところそんなことは覚えてる余裕はなく、今日の夜をどうしようか思案している。
ベットに横になり何もする気がおきず、ゴロゴロとすごしていたのだが、買い物をするのを思い出し、時計を見るともう昼を当にすぎており十四時近くになっていた。ボーッとしてながらも二時間近く考えていたのだ。
あわてて財布を手にとって近くのスーパーに向かう真。
近くのスーパーと言っても普通に歩いていけば二十分ぐらいはかかるのだが、真の場合は更に倍の四十分はかかってしまう。
なぜかというと、二十分の道のほうは太い道路に面しており人通りがかなり多いのだ。基本的に女性と接触しそうな場所は必然的に避けることになり遠回りをしているのだ。
因みに、四十分の道は人通りがあまりなく完全な裏道である。周りは住宅街ではなく、工事会社や資材置き場などがあり女性は普通に歩かないような場所。
そんな場所をスーパーが込む時間帯を避ける為に走って向かっていると、資材置き場という名の空き地から女性の叫ぶ声が聞こえてきた。
「やめて!! 近づかないで!!」
その声に足を止め、声のした方へ行ってみることにする。
様子を見るように資材の影からのぞいてみるとそこにいたのは顔見知りの女性、蒼空だった。それにチャラそうな男が二人いる。片方は金髪のロンゲでもう片方は帽子をかぶり長身の男だ。
「いい加減一度くらいデートしてくれたっていいじゃん?」
「イヤだって言ってる。本当にしつこい」
「なあ、一回でいいから」
そう言うと金髪の男は蒼空の手を掴み無理やり連れて行こうとしている。
「離して!!」
手を振り回し男の手を振りほどくが、勢い余って男の顔に手を強打してしまう。
男の表情は見る見る変わっていき、今度は蒼空の肩を突き飛ばした。
「痛えな! 優しくしてやってるのに何するんだよ」
「あーあ、これは一回と言わず何度もデートしてもらわないといけなくなったなー。いや、デートじゃすまないかもなー」
帽子の男が下種な笑いを浮かべながら蒼空に近寄っていく。
蒼空も倒れながらも距離をとろうと後ずさっている。しかしあまり怖がっているようには見えないのだが。
流石に知り合いということもあり、このままだとまずいと思ったのか溜息を漏らしつつも物陰から姿を現し近づいていく真。
「おい!!」
真の声にチャラ男二人が振り向く。
「誰だおまえ?」
「……真」
金髪の男が真の姿をみるなり挑発するかのように声をかけてくる。
「その人の知り合いだ。嫌がってるんだしやめてさっさと帰れ、このクズが」
その一言で元々蒼空に叩かれて若干機嫌が悪かった金髪の男が更に沸騰した怒りを露にする。
真に罵声を浴びせる二人などお構い無しに近づいていく。その距離が二メートルぐらいまで近づいた事で何かに気がついた帽子の男が罵声を上げるのをやめ真の顔をまじまじと見てくる。
更に近づき手を伸ばせばつかめる距離までよると、あからさまに帽子の男の表情が変わっていく。
顔は青ざめ、軽く身体を震わしている。帽子の男の前にいる金髪の男はそんなことには気が付くわけはないのだがその後ろにいる蒼空は不思議そうにみていた。
帽子の男の表情は明らかに驚愕の顔をしておりそれを見ていた真はホッと一息吐く。
金髪の男は呆れて溜息を漏らしたのかと勘違いしたのか真の胸座を掴もうと手を伸ばそうとするが、後ろにいた帽子の男に身体ごと止められてしまうのである。
「なんだよ!?」
不満げな顔で帽子の男に訴える男の耳元に囁いている。
「やめろ。こいつは……店の……しりあ……で……この前も……って……騒ぎ……だぞ!」
「はっ!?」
「だからこの前……ったろ! あの店の……係者で……五人を……でや……」
聞いていた男の顔がどんどん青ざめていく。喋る言葉も心なしか小さくなっていく。
「見間……のか? そんな……みえな……」
「間違い……! それに……真って……だろ! 実際に……ていた……ないって!」
「マジかよ……」
二人揃って真の顔を見るなり後ずさりしていく。
そのまま下がると蒼空にぶつかってしまうので、後ずさる二人とすれ違い蒼空の近くに寄ってこうとする真。近づこうと歩み始めたとき男二人は一瞬ビクッと身体を動かしそのまま硬直してしまう。
二人とすれ違い蒼空の傍による。しっかりと一メートルは距離を開けてだが。
「大丈夫ですか蒼空さん?」
「え、ええ……」
その言葉と身体を見て大丈夫なことを確認した真は男達二人のほうに振り返る。目つきは険しくなっていた。
「でっ? そっちの男は俺の事知ってるみたいだけどこのまま大人しく帰ってくれるのか?」
「は、はい!! 帰らせていただきます」
「そう言うと一目散に逃げようと振り返ろうしている二人に真は声をかける。
「ちょっと待て!」
「はい!!」
真の言葉に振り返る動きを止め、勢い良く返事をする。
「おまえら、蒼空さんに謝ってから帰れ」
「わかりました!!」
急いで蒼空の前までいくと九十度以上頭を下げ謝罪していく。
「「すいませんでした」」
「え、ええ」
あまりの勢いに茫然と謝罪の言葉を受けている蒼空。
男達は謝るとすぐに振り返るとダッシュで駆けていった。
「ふう……」
息を一つ吐き、男達が去ったのを見届けると蒼空のほうに振り返る真。
蒼空は未だに立ち上がらず茫然としている。しかしその視線は真をジッと捉えていた。
「大丈夫ですか?」
いつまでも起き上がらない蒼空に改めて再度確認するが問題はなさそうだった。
普通、助けたなら手を差し出し起こすのを手伝うところだが、そんなことなど真にはできるはずもなく、距離をとり確認するだけだ。その距離感にも蒼空は疑問に思っているような表情をしている。
「ありがとう、真」
立ち上がりお礼をする蒼空。しかしその顔は晴れない表情だ。
「たまたま通りかかっただけですから……。気にしないでくださいって言っても無駄そうなので、できれば内緒にしてくれるとありがたいです」
「気になるところはあるけど、助けてもらったのは事実。ちゃんと内緒にするから色々と教えて欲しい」
「特に教えるところなんてないと思いますけど……」
困ったような、焦っているようなどちらも入り混じったような顔になってしまう真。
後悔先に立たずとはよく言ったものだ。ばれてしまったのは仕方ない状況だったので諦めるしかないだろう。
実際のところ、真が格闘技をやっていたことを知ってるのは一部の人間しか知らない。一番良く知っているのは慧なのだが、それ以外にも数人は知っている。
しかし、恐怖症の事を知っているのは家族と慧、中学、高校の知り合い数人。そして真がカウンセリングを受けている大学病院のカウンセラーしか知っている人間はいない。高校時代とかには数人には知られているが、今の大学環境で身近に知っているのは慧とカウンセラーしか知らないのである。
格闘技の事は知られてもさしたる問題ではないが、恐怖症の事を知られるのは避けたい。
特に、蒼空は心理学部に在籍している学生。学術的に興味を湧かれると色々と面倒なことになりそうだなと考えても致し方ないことであろう。
「ありすぎて私は今、困っているぐらい」
「そうですか?」
「そう」
あまりの真剣な表情で端的に答える蒼空にどうしようか考えこむ真。その間も蒼空は表情を崩さず真をずっと見つめている。
数分考え込みながらチラッと蒼空の顔を見るが表情は変わることはなかった。諦め顔になり溜息を吐く真。
「じゃあ、答えられるものに対しては答えます。それ以外の事に対しては答えたくないこともありますから……」
「それでいい。無理に教えてもらおうとは思ってない」
理解してくれたことに胸をなでおろす真。
そして、何が聞かれるか心の準備をして待っていたのだが、最初の質問は質問ではなく意外なものだった。
「最初に聞きたいことじゃなくてお願い。その喋り方。敬語で話すのはやめて欲しい」
「えっ!?」
「助けてもらって更に敬語で喋られると居心地が悪い」
「はあ……。そんなのでよろければ……」
「だから、禁止!」
「……わかった」
はじめて見るであろう少し語尾を強めに言ったことに驚きながらも、言うとおりにする真。
まだ出会って2回目の会話だが、初めて話したときからの感情の起伏のなさは際立っていたので驚きはかなりのものであろう。
「まずはお礼を言わないと――ありがとう真」
「さっきも言ってもらったから気にしなくていいです……いいよ」
深々と頭を下げる蒼空に恐縮し、手を振り大丈夫だとアピールする真。危なく敬語を使いそうになり言い直したのだが、蒼空にはしっかりとばれており顔だけあげて冷たい目で見つめていた。
「それで聞きたいことなんだけど……」
顔をあげ真に質問しようとするのだがまだ考えが纏まってないのか言葉が続かない。
そんな蒼空を見て真が先に質問する。
「なんで蒼空さんはこんなところにいたの? 俺がここにいるのにこんなこと聞くのもアレなんだけどさ……。あんまり人通りも少ないから一人では歩かないほうがいいと思うけど」
「私の住んでいるところ、ここの近くだから」
「そうなんだ。それはしかたないね。それにさっきの男達って前に言ってた寄ってくる人達?」
「そう」
「それでもあんな男達とこんな人気のないところに行ったら駄目だよ。何されるかたまったもんじゃないから」
「違う。あいつらがここで待ち伏せしてて中に引っ張っていかれたから……」
「そんなことされたんだ。なんかストーカーみたいな奴等だな」
「真はなんでこんなところにいるの?」
経緯を聞いて呆れていた真だったが、次の質問には一瞬困惑の表情になりそうだったが何とか我慢したようだ。
「スーパーに買い物に行く途中だったんだよ」
「そうなんだ……」
訝しげな顔で見てくる蒼空。ちょっとたじろぐ真だがしっかりと蒼空を見つめ返す。
実際のところ買い物に行くのは事実だし、この前会った時も住んでいるところまでは教えてないので何もおかしいところはない。
「と、とりあえずこんなところで話すのもなんだから場所を変えない?」
「わかった」
真に促され流石にいつまでもここにいるわけにはいかないと思い資材置き場から移動することに。
とりあえずは真がスーパーに買い物に行くということもあり、そちらのほうに歩いていくことになった。
「買い物に行くのはわかったけど、真の住んでいる所はこのあたりなの?」
「……いや、もっと向こうのほうだよ」
住んでいる方向に指差す。
「ならこの道は遠回りになるはず。何でこんなところ通っているの?」
もっともな疑問を言われ答えられず苦笑いするしかなくなる真。
なんとかごまかしたい真だったが蒼空は答えるのを待っているようで何も喋らなくなる。
何も会話がないまま数分がすぎる。聞こえる音は虫の鳴き声、二人の足音と風の音だけである。
「言いたくないことなのはわかった。だからこれ以上は聞かない」
「そうしてくれると助かる」
「言いたくない事ははっきり言ってくれると私も助かる」
「ごめん。わかった」
言いたくないことがわかってくれた蒼空に感謝しつつも、釘をさされ申し訳ない顔で謝る真。
それをみて蒼空も頷いている。
「あと……聞きたいことは……。そう、何であの男達は真の顔を見るなり帰っていったの? いつもならもっとしつこかったのに。それに真の事知っている見たいだったし、知り合いだったの?」
「いや、知り合いじゃないよ」
「じゃあ、何で男達はすぐに帰ったの?」
頭を掻きながら苦笑いをするしかなくなる真。それを見ていた蒼空は不思議そうに真を見ている。
「とりあえず話してもいいんだけどあんまり広めたくないって言うのもあるんだけど……あんまり他の人に話さないでね?」
「わかった。話さない」
「実は俺バイトやってるんだけどちょっと特殊なところで働いているんだよ。たぶんそこで働いているの知っていたのだと思うから、それで俺の事知ってたんじゃないかな」
「何のバイトなの?言ってくれた内容だと逃げたのが説明つかないのだけど……」
苦笑いをしながらも頷く真。
流石にそれだけの説明ではわかることのない事はわかっているようだ。
「何をやってるかはバイト先から口止めされているから詳しくはいえないけど、まあ簡単にいえば警備の仕事だよ。まあ普通の警備じゃないことだけは言っておくわ。それで警備していて色々あったんだけどそこを見たことある奴がいたから逃げたんだと思うんだけど」
真は簡単に警備の一言で済ましているが実際のところはそんな生易しいものではなかったりする。
詳しく知っているのは慧のみで、家族も知らないことなのだ。
仕事の中身に関しては今は割愛する。
「普通の警備じゃないって事は危険な仕事?」
「そうだね。実際は週末しかしてないし割とバイト代がいいから」
実際、月に十回前後しか行かないのに給料は十五万円近くもらっているのである。下手なバイトよりかなり貰っているほうであろう。
まあ、稼いだお金のほとんどが趣味の世界に消えていくのはここだけの話しである。
「危険な仕事をしている割にはあんまり強そうじゃない」
「それはよく言われる」
蒼空の率直な感想に、真は苦笑するしかなかった。
昔から言われていたこともありそこは否定できないところでもある。
「そんな仕事をしてるのだったら何か習っているの?」
「中学の頃から格闘技習ってたし、高校からボクシングもやってたよ。まあ今はやっていないんだけどね」
「それはすごい」
驚きの言葉を言っているのだが表情からは読み取れない蒼空。
そんな蒼空を苦笑してみてるしかなかった。
「何で逃げたかははっきりしないけど、真が強いことがわかった」
「それはどうも」
そんな事を話しながら歩いていると、気がつくとスーパーの近くまで歩いてきていた。
話しをしていたのでどれぐらい時間が経過していたのかわかっていなかった真。
「そろそろ着くみたいだね」
「そういえば真はスーパーに何を買いに来たの?」
「食料品と身の回りの物だけど」
「食料品って事はご飯は自炊してる?」
「そうだけど……」
「助けてもらったお礼に私がご飯作る」
「そんな、別にいいよ」
「何かお礼がしたいから」
「そういわれても……」
心配そうな顔をする真。
蒼空を見る限り料理などできそうもないと思ったのだろう。
それよりも心配なことがあるのだ。夜に慧たちが家にくるのだ。それと出会うのは何が何でも避けたいところ。特に慧にそんなところを見られたら目も当てられない。
「心配しなくても大丈夫。私料理得意だから」
「それも心配なんだけど……」
「大丈夫。任せて」
「い、いやだから……」
「任せて!」
「い、いや……」
「任せて!!」
「……はい」
任せてというたびにどんどん真に迫ってくる蒼空。近づいた分だけ下がるのだが流石に後がなくなってきていた。
これ以上の状況はまずいと思ったのだろう最終的に了承してしまうのであった。
スーパーに到着して買い物をする真と蒼空。
因みに、買い物は別々にしている。
真の買い物は、三、四日分買うのに対して、蒼空は今日の晩御飯分しか買わないからという理由からだ。
カートに商品を入れていく真。中身としては意外と普通に生鮮食品とか野菜とかを買っている。
これには理由があり、その理由は慧である。頻繁に真の家に泊まりに来る慧に任せておけばなんだかんだで勝手に作り出すから、インスタントを買わなくてもおいしい料理にはありつけるからだ。
まあその分、一人分の材料ではなく二人分になってしまうのだが、作ってもらう身分としてはそこは仕方がないところであろう。
色々と物色しながらカートを押していると、前のほうに買い物カゴを持った蒼空がいた。
何を作るのか気になった真は、声をかけてみる。
「蒼空さん」
「真。どうしたの?」
「いや、何作るのかなって」
「そうだ、真に聞きたかったんだけどいい?」
「……何?」
「真の家にオリーブオイルと牛乳とオーブンある?」
「牛乳は毎日飲んでるからあるよ。後、オーブンはレンジがオーブンレンジだからそれ使えば大丈夫だけど、流石にオリーブオイルはないな」
「わかった」
蒼空の後ろをついていく真。何を買うのか見ているとカゴにオリーブオイル、薄力粉、ベーキングパウダー、チーズ、ウインナー、ピーマン、マッシュルーム、玉ねぎ、最後にピザソース。
流石に最後にカゴに入れたもので何を作るかわかった真は驚嘆するしかなかった。
「作るものはわかったけど……本当に作れるの?」
「任せて」
自信のある声だがあまりその変化のない表情からはいまいち信じられないが、信じるしかなかった。
「そうだ、真。クッキングシートは?」
「……それはあるはず」
「そう」
実際、真がクッキングシートなんか使うはずもなく、家にあるのは慧が持ってきたからだ。
あることがわかった蒼空はレジのほうに行ってしまう。
「俺も買っちまうか……」
その後も色々と買い込み、なんだかんだでカート一杯の量を買う真であった。
スーパーから出ると陽が結構傾いてきていた。
両手にはビニール袋一杯に入っているのを三つ持っている。
蒼空のほうも意外と量があり持つことにしたのだ。
「ごめんね真。持ってもらって」
「別にいいよ」
なんとなくわかるような落ち込んだ感じの蒼空に恐縮してしまう真。
「そ、そんな荷物持つぐらいなんでもないから。本当に気にしないで」
「んっ」
その後ほとんど会話らしいものはなく無言で歩き続ける二人。
そうしているうちに真のマンションの近くまできた。
「あそこの見えるのが俺の住んでるマンションだよ」
「あそこなんだ」
見えているマンションを指して教えてあげる真。その時……
「あっ!?」
「どうしたの?」
「い、いやなんでもないよ……」
蒼空にはなんでもないと言ったがその顔からは汗が流れ落ちていた。
真の気がついたこと、それは――今まで自分の部屋に家族に慧、他数人以外は入れたことがなく、特に女性だけ入れることがなかったからである。
よくよく考えれば女性と二人っきりでいること自体ありえないことに今更ながら気がついたのだ。それに夜には慧の他に七海と梓がくるのだ、蒼空と二人でいるところなど見られたものならどう言い訳してもかなりのダメージがあることにかわりはないだろう。
「顔色悪いけど本当に大丈夫?」
「だ、大丈夫だよ」
頑張って取り繕いながらも、これからどうしようか考えを巡らせるために黙り込む真であった。
お読みいただきありがとうございます