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神様からのいらない贈物  作者: ケンケン
夏の出会い
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第4話

 店員により全員分の飲み物が運ばれてくる。

 女性陣はカクテル、男性陣はビールを頼んでいた。

 注文した飲み物が全員分揃ったところで、


 「かんぱーい」


 飲み物のグラスを打ち鳴らし、飲み始める。

 真も、飲み物が来るまで話していたことが幸いしたのか若干の慣れがある。未だに顔は正面を向けないが会話なんかは普通にできるようになってきている。

 こういう場で飲むことなどなかった真にとって新鮮そのものであるが、やむを得ず来てるのも否めないところだ。

 

 ある程度飲んだところでメニュー表から食べるものを選び始める七海と梓。


 「何食べよっか?」


 楽しそうに選んでいる七海と梓を横目に蒼空はなぜか目の前にいる真を見つめている。と思ったら、すぐに慧の方を見ている。

 実のところ少し前から交互に見ているのだが、見ているだけで話しかけようとはしてこない。しかし、その瞳には興味の色が見て取れるようだ。


 「どうしたの? 蒼空ちゃん」


 「なんでもないよ」


 気になったの慧が聞いてみたがあっさりとかわされ、蒼空はメニューに視線を向けてしまった。

 何なのかわからず首をかしげて向き合う真と慧。しかし、その答えは違うところからもたらされた。


 「蒼空ってちょっと変わってて、学術的興味から初対面の人にはすごい観察するんだよね……。私も出会った時なんかは結構見られてたからねー」


 当時の事を思い出しながら話してくれたのだろう、梓は苦笑いをしながら教えてくれた。


 「そうなんだ」


 納得した慧は腕組みをして何度も頷いていた。


 「そんなことより、早く注文するの決めちゃおうよ」


 「それもそうだな。ほら真も選べよ?」


 「ああ」


 お腹が空いているのか会話をバッサリと断ち切り注文を早く選べと急かしてくる七海。そこらへんを分かっているのか、慧も同意をしていた。

 

 五分ほどで注文する品が決まり、呼んだ店員に頼んでいく。

 その際、店員に店のお薦めを紹介され、慧も薦めていたこともありきっちり五人分注文したのは言うまでもない。

 因みに、その品は卵かけご飯で、一杯の値段が千円もする。ここの店は鳥料理を売りにしてることもありその種類は豊富で、通常の居酒屋より二倍近い種類が揃っており、串から始まり、サラダ、焼き物、ご飯物と一般的な部位から珍しい部位まで様々な料理で食べられる。特に卵を使った料理はたびたび情報誌に取り上げられるほどだ。


 「このお店来たの初めてだからどんな料理か楽しみだなー」


 「私も」


 「そこは期待していいと思うぞ。なあ、真?」


 「そうだね。来たとき食べたものはおいしかったから大丈夫だと思うよ」


 「そうなんだ。それは楽しみ」


 それぞれに店に期待を膨らませる女子三人。色気より今は食い気ということなのだろう。真と慧は一緒には行ったことはないが、それぞれで行ったときの事を思い出し問題ないことを語った。


 「慧は分かっていたけど、真君も意外と知ってるんだね? よく出かけたりするの?」


 「たまたま一回だけ行っただけだよ。それ以来はずっと来てないし……」


 「そうなんだ……」


 「えっ? その話しぶりだと慧君は遊び歩いているってこと?」


 「そうだよ。歯学部では結構有名だよ、梓」


 「なんとなくそんな感じはある」


 七海にあっさりと暴露されバツが悪そうな顔をしてる慧。その横では声は出してないが納得の表情で真が頷いている。

 

 「真! そこは頷かないでなんかフォローしろよ!」


 「俺にはおまえをフォローすることはできないわ。そんなこと分かりきってることだろう、付き合い長いんだしそこは諦めてくれ」


 「……」


 真の答えに口をあんぐりあけて何もいえなくなる慧。

 だがあまりにも当たり前の事を言われ納得するしかないと諦めの溜息をもらす慧。


 「さっきも幼馴染って言ってたけど、どれくらい付き合いは長いの?」


 「慧とは幼稚園からの付き合いだね。幼稚園、小学校、中学校、高校と一緒で、クラスもほぼ一緒だったんだよ。実家も近所だし、親同士も仲がよかったから家同士の付き合いもあって兄弟のように扱われて育ってきたんだよ、俺らは」


 「それはすごいねー」

 

 真の説明に三人ともかなりの驚きの表情をしている。特に蒼空に関しては一際驚いているようだった。


 「だからお互いいらない所まで分かったりもしてるんだけどね……」


 「それじゃあ、私の知らない慧も知ってるんだ?」


 「そりゃあね」


 「余計なことは言うなよ真」


 真面目な顔つきで真を制する慧。

 流石に長い歳月の中にもお互いに言いたくない事はあるので、そこは余計なことは言わない。特に真のほうは言えない事が多すぎるのだ。

 まあ、ほとんどは病気に関することなのだが、あまりにも内容が突拍子もない事なので言ったとしても信じてもらえないのがオチだろう。


 「……ああ」


 「えーっ! 話してくれないの?」


 「慧もああいってることだし、後は本人から聞いて」


 諦めを促すが、七海は納得してない表情だ。梓と蒼空も残念そうな顔をしている。

 

 「それなら、蒼空に聞いてもらったらいいんじゃない?」


 梓の言葉に、名指しを受けた蒼空の顔を真を除く三人が見つめている。当の本人は首をかしげていた。


 「なんで、私?」


 「心理学ならそういうこともできるんじゃないの?」


 「それは無理。私が学んでいる心理学は行動から人間の心理を解き明かしていくのが基本。その時々の心理の状態とかは予測で答えることになるから間違いないとは断言できない。それに、私としては慧君より真君の方が惹かれるものがある」


 「なになに? それって真君が異性として気になるってこと?」


 真は危うく顔を上げて蒼空を見つめそうになったが、なんとかこらえ話しに耳を傾ける。

 普段から女性をならべく避けて生活している真にとって、必要最低限の会話はすることはあっても色恋沙汰の話しなどすることはない。慧といても基本的には話をすることもなく、慧の方も極力話さないように心がけている。


 「うーん……。それは違うと思う。異性というより学術的に興味ってこと」


 「そっちなんだ……」


 「あいからわずだね蒼空は……」


 蒼空の答えに残念な雰囲気になってしまう七海と梓。

 慧は悔しさと嬉しさが入り混じった表情をしていたが、一転して残念そうな顔になった。


 「ねえ梓ちゃん。蒼空ちゃんって普段からこんな感じなの?」


 「そうだね。普段からこんな感じだよ慧君」


 「こんな感じ?」


 質問にあっさりと答えるが、蒼空本人はなんの事だか分かっていない様子だ。不思議そうな面持ちで慧を見つめている。

 蒼空以外はなんとなくわかっているのか、微笑みを浮かべながら見つめている。

 

 疑問に答えてあげようと話そうとすると、店員が料理を部屋に持ってきた。

 それにより会話は一旦中断することに。





 運ばれてきた数種類の料理を全員で食べ始める。それぞれの小皿に運ばれてきた料理を嫌そうな顔もせず、当たり前のようにとりわけている慧。そういう細かい気配りはなかなか真にはできないことだ。

 なお、真はまったくできない事はないのだが長い付き合いの中で慧といると役割分担が出来上がっており、まさに不文律と呼ぶに相応しい事だと真の名誉の為に説明しておこう。

 

 はじめにきた料理から少しづつではあるが次々と注文したものが運ばれてくる。それらの料理に舌鼓をうちつつ、話しに花をさかせる。その中でも中心で喋っているのが慧と七海、あまり喋っていないのは真と蒼空。梓はどっちつかずという感じである。

 話の内容としては大学の話しばかりしていたのだが慧が思い出したかのように、急に話しを切り替える。


 「そういえば、梓ちゃんに聞きたかったんだけど聞いていい?」


 「何?何でも聞いていいよー?」


 「さっき、俺と真の出会いと話したけど梓ちゃんと蒼空ちゃんてどういう繋がりなの? 学部とかも違うみたいだしそこのところ気になったんだけど……。俺と真みたいに幼馴染とかなの?」


 「んーっ……。知り合ったのは大学からだけど……なんで知り合ったんだっけ?」


 「歓迎会の時に梓が話しかけてきたのが切欠」


 歓迎会とは双葉大学が誇るマンモス行事の一つで、毎年入学してくる全員が大学の近くにあるホテルの会場、実は大学が経営しているホテルなのだが、そこを会場を四つすべて貸し切って行われる。

 なぜ、大学がホテルを経営してるのかというと、単純にそれが必要な学部があるからである。

 学部の数も四十もあり、そのような建物があったとしても不思議ではない。

 因みに毎年入学してくる学生の数は二万人前後が入学してくるのだからマンモス大学と言われても仕方がないことだろう。

 

 「あっ、思い出した! そうだよ、私が蒼空に話しかけたんだったね」


 「あれか……」


 全員遠い目をして当時の事を思い出す。

 一つの会場に五千人前後がいるのでそれなりの広さがある会場でもかなり酷い事なる。特に真は予想どうりというか、かなりの危険な状態までなりそれを世話していた慧も大変に辛い思いをしたのである。


 「みんなはあの時何処の会場にいたの?」


 「俺と真は確か『夏の間』だったよな?」


 「たしかそうだったはず……」


 「そうなんだ! 私は『冬の間』だったんだ。梓と蒼空さんは?」


 「確か『春の間』」

 

 「そうだったね」


 「なんか私だけ仲間はずれだ……」

 

 七海の質問にそれぞれ思い出しながら答えていく。七海以外の四人は苦笑いだが七海は頬を膨らまし不満顔だ。


 「それは仕方ないだろ。会場の場所は自分で選べるわけじゃないんだから」


 「それはそうだけどさー」


 慧に宥められるがそれでも七海の不満は収まらないようだ。


 「慧君もああ言ってるんだからそこは我慢しなよ。ねえ、真君、蒼空?」


 「ん、あれはしかたがない」


 「あれはどうしようもないんじゃないかな」


 「うーん。そうかな……」


 全員に諭されしぶしぶ納得したようだ。完全には納得はしてなさそうだが。


 「話し戻すけど、何で慧君は私達の出会いを聞いてきたの?」


 「えっ!? だって蒼空ちゃんって有名じゃない。だから単純に興味が湧いて聞いてみたんだけどまずかった?」


 「それはわかるかもー」


 慧の答えに七海も頷いて同意している。真は何もわかっていないようで、頭の中は疑問で一杯な顔だ。


 「それねー、実は私が勝手にエントリーさせちゃったんだよね」


 「あれは本当に迷惑だった」


 「マジで!?」


 「そうなのー?」


 梓の言葉に本当に驚きを隠せない顔をしている慧と七海。蒼空はジト目で梓をみている。

 未だに何の話かわかってない真は聞いてみることにした。


 「さっきから何の話してるの?」


 「「えっ!?」」


 七海と梓は信じられないといった表情で質問した真を見つめる。慧は真が蚊帳の外にいた理由をわかっているようで苦笑い気味だ。


 「真君、知らないの?」


 「うーん? 話してた内容が全くわかってなかったんだけど……」


 「そういえば、真は去年の学園祭はほぼ参加してなかったもんな?」


 「学園祭? 去年のはほとんど出てなかったけど、それがさっきの話と何が関係あるのよ?」


 「そこにいる蒼空ちゃんは去年の学園祭のミスコンで一年生にして初めてグランプリに輝いた、ミス双葉なんだよ」


 「えっ!?」


 驚きのあまり思わず顔を上げて蒼空を見てしまった真。蒼空も真の事を見つめていた。

 その頃の真は大学に入って知り合った荻野と共に投稿動画に夢中になっており、学園祭期間中は、ほぼ荻野の家に入り浸っていたので知らないのは仕方がないだろう。


 それよりも目をあわせてしまった事が問題だった。咄嗟に顔を逸らしたが間に合った感じはなかった。

 看護師のときは一瞬じゃなく見つめ合ってしまったから起こったのだが、目をあわせる時間の説明は聞いていない。漠然と目をあわせるだけしか聞いていないのである。

 つまり、目が合ったらすぐに『魅了の眼』が発動するかどうかはわからないし、サングラスの効果があるかどうかもわからないのである。

 元々、それを調べるために今日の食事会を慧に開いてもらったのだから今更ぐたぐた言ってもしょうがない。

 覚悟を決めて恐る恐る顔を上げて真は確認する。座りながらも逃げる体勢の準備もしてある。やや前傾姿勢で腰を少し浮かべた状態だ。

 真の様子に気がついいたのか、慧の肩に手をポンッと軽く叩き、安心感や期待感をもたらしているようだった。


 顔を上げた真は蒼空を見るが、先ほどと変わらない態度で不思議そうに真と慧のやり取りをみていた。

 ちなみの、七海と梓も蒼空と同じ顔をしていた。

 それを見た真は安堵の溜息を大きく吐いた。その顔を嬉しさに満ち溢れている。慧もうれしいのか、なかなかの強さで肩を叩いている。


 あまりにも嬉しそうにしている二人を見て唖然としている三人。一番早く我に返った七海がおずおずと聞いてきた。


 「二人共急にどうしたの?」


 七海のもっともの疑問に苦笑いでお互い顔を合わせる。

 さすがに素直に理由を言ったとしても荒唐無稽すぎて信じてもらえないだろう。どうしようかと頭を悩ませている真を尻目に慧があっさりと口を開いた。


 「実は、真があまりにも女の子に対してかなりシャイなもんだから、それを少しでも克服してもらおうと思って連れてきたんだけど、最初っからこいつずっと下向いていただろ? それが、顔を上げたから嬉しくってね」


 すらすらと出てくる言葉に驚いている真。しっかりと真をダシにして自分の好感度を上げてるところは流石の一言に尽きる。


 「そうだったんだ。珍しく友達思いだね、慧」


 「珍しいとは失礼だな」


 「そうなの? 慧君」


 「感心してたのに」


 「二人とも、七海の言葉を信じたら駄目だよ」


 「それにしては真君が驚いているんだけど……。そこのところどうなのかな真君?」


 「大体は慧の言ってることであってるよ」


 若干の慧に目で脅されたことは否定できないが、半分は正しいとも言えるので素直に七海の質問に答える。

 これで慧の好感度も上がったことだろう。


 「真君がそう言うのだったら納得するしかないね」


 「そう言ったよな俺?」


 「普段の慧からはなかなかそこは想像できなくて、ごめんね」


 「一回おまえとはじっくり話し合ったほうがいいな」


 「そうだね」


 ジト目を向ける慧を笑って受け流す七海。


 「それより、さっきの話に戻っていいかな?」


 不安がなくなったのか真は顔をしっかり上げ話しを戻そうとする。四人が頷くのを確認した真は


 「伊吹さんが……」


 「伊吹って呼ばれるの好きじゃない。蒼空でいいから」


 「いきなり呼び捨ては厳しいんで、蒼空さんで」


 「じゃあそれで。私はキミの事、真って呼ぶから」


 「私達も名前でよんでいいからねー」


 「いや、それは無理ですよ。七海さんと梓さんで勘弁してください」


 少しは慣れてきてるが流石に真にはハードルが高すぎる。


 「まあ、しかたないかな。じゃあそれでいいよー」


 なんとか納得してもらい脇道にそれた話を戻し、続きを話し始める。


 「蒼空さんがミス双葉とか本当なの?」


 「本当」


 「さっきも聞いたと思うのだけど、何で真君知らないの? ミスコンなんてうちの大学の学園祭の目玉企画なのに」


 このミスコンはかなりの規模を誇る。全員が通ってる大学は行事一つをとってもかなりの規模で開催される。その中でも一番の大きさを誇るのが学園祭で、期間は10月の半ばから一週間にわたって開催される。


 通常、大学の学園祭は一日か二日、長くても四日程が普通なのだが、双葉大学は敷地の広さも、学生の多さも規格外なので学園祭もそれにあてはまる。

 その中にあってミスコンはさらに異彩をはなっているのだ。エントリーは二ヵ月前から始まり、一カ月前に学内ネットで予選が行われ、ファイナリストには十人が出場する。毎年千人前後がエントリーする為、グランプリに選ばれるのはなかなかの狭き門になっているのも特徴だ。

 そして上位五人に関しては1年間大学の外部向けイメージキャラクターに選ばれる。その事でわかるとおりミスコンは大学側からのバックアップもあり、すさまじい人気を誇っている。

 どこぞのオーデションみたいだが、毎年二万人前後の入学者を誇り、学生と大学職員も合わせれば十万人近い人達がいると思えばそんな大した事ではないだろう。


 だが、学園祭には全員が参加することは強要してなく、講義が休講になることもあり普通に一週間休みを満喫するのも少数派ではあるがいない訳ではない。

 

 「実は、学園祭の間はほとんど参加してなかったんだよね。友達と家で色々とやっていて……」


 「そうなんだ。意外と真君って引きこもるタイプなの?」


 「……」


 グサリと心に突き刺さる梓の言葉に返す言葉が見つからなく黙ってしまう。横では慧がお腹を押さえて爆笑中だ。


 「もしかして、まずいこと聞いちゃった?」


 「……そんなことはないよ」


 「それにしては横で慧君が笑いすぎだと思うんだけど……」


 「こいつは気にしないで」


 そういって慧のわき腹を一発小突いておく。笑いから一変してかなり痛そうにしている。

 意外とムカついいていたのか、かなり強めだったようだ。人間凶器の本領発揮というところだろう。


 「実際のところどうなの慧?」


 「慧の態度が答えだと思う」


 七海の質問の答えは意外なところから返ってきた。息も絶え絶えになって答えられそうにない慧に代わり蒼空が答えたのだ。


 「それってどういうこと?」


 「見たままだと思う。態度がそのまま肯定してる」


 「ま、間違っていないが、半分はあってるよ」


 だいぶ呼吸も整ってきたのだが、多少顔を歪めながらも訂正をしておく慧。


 「半分ってどういうこと?」


 「真は大学に入ってからそういう方面に行ったけど、高校まではどちらかって言うと活動的なほうだったから」


 「そうなんだ。今の私とは逆かも。羨ましい」


 「今の蒼空は忙しいもんね」


 「誰のせいだと思っているの?」


 「それは何度も謝ったでしょう。いい加減機嫌直してよ」


 プックリ頬を膨らませ、唇も尖らせているいかにも不満だ、という顔をしている。しかし目は怒っている感じではない。


 「い、意外と長く根に持たれてるのね……」


 「当たり前。忙しい私に更に追い討ちをかけたのだから」


 「当たり前なんだ……」


 あと、二ヵ月ほどで学園祭から一年もたとうというのに未だに根に持っている事に微妙な笑いをしている七海。真の慧も何もいえなくなる。


 「後二ヵ月の辛抱じゃない。私だってまさか蒼空がグランプリとるなんて思って応募したわけじゃないんだから」


 「それもそうね。けど忙しくなったのは事実」


 「ちょっと聞いていいかな蒼空ちゃん?」


 「何?」


 「忙しいって言ってるけど、実際のところなんで忙しいの?」


 完全復活を遂げた慧が全員が思っているであろう疑問を蒼空にぶつけてみた。


 「ポスター用の写真取ったり、大学のイベントに参加したりするたびに休みの日がつぶれていくところ。あと知らない男に良く声をかけられるようになったところ。けど、大学のイベントのほうはお金貰ってるから文句は言えない。もう一つのほうがなかなかしつこい男がいるから嫌」


 「お金貰ってるの!? それってどれくらい貰ってるの?」


 「イベントに参加すれば、一日二万円貰ってる」


 「なにそれ!? 私、初めて聞いてんだけど!」


 「梓には言ってない。言ったら責任感じてくれないから」


 「酷くないそれー!」


 意地悪そうな微笑みで梓を見ている蒼空。

 そんな微笑みの顔をしている様子を見ていた残りの三人は珍しいものでも見るかのように蒼空を見ている。

 

 「揃って私を見てるけど、どうしたの?」


 「い、いや……」


 「変なの」


 首をかしげ、本当にわかっていない様子。

 実際のところ、何で真、慧、七海の三人がそんな顔をしたかというと、蒼空の笑ってるところをはじめて見たからである。


 本日、出会ってからというもの感情の起伏が薄い印象を拭えなかったのだが、話していくうちに微かながらも所々にわずかな感情は垣間見られたのだけど笑っているところは見てなかった。それが微笑みでではあるが笑っている表情を見たことで珍しいものでも見るような表情をしてしまったのは致し方ないことであろう。


 その中でも劇的に表情を露にしているのは真だった。

 視線は蒼空に釘付けになっており、表情も接着剤でも顔に塗りたくったように固まっていた。

 

 「真、どうした?」


 「ああ」


 真の様子がおかしい事に気がついた慧だったが、返事は上の空だった。

 要領の得ない返事に放置することにして話しを戻すことに。


 「とりあえず話しを戻すんだけどさ、イベントとかで忙しいのはわかったけど、声をかけられたりするのは仕方ないことなんじゃないの?」


 「なんでしかたないの?」


 「いやいや、蒼空ちゃんの容姿だったら声かけられても仕方ないと思うんだけど……」


 「慧君、それは蒼空に言っても無駄だよ。そのことは私が何度言ってもわかってくれないから」


 「そうなの?」


 「そうなの……」


 諦めに似た空気をかもし出しながら、力のない言葉で頷く梓。

 その様子になんと言葉をかけていいかわからなくなる。


 「みんなが私の事を綺麗だとか可愛いとか言うけど、私には信じられないし自分自身をそうとは思わないから。上辺だけど言葉や下心丸出しの言葉にはうんざり。そんな話ししかしないなら聞くだけ時間の無駄」


 「じゃ、じゃあ今まで彼氏とかはつくったことないの?」


 「つくるわけがない」


 「そしたら、今まで人を好きになったりしたことは……?」


 「なったこともない。むしろ逆に聞きたい。私の人生はそのような感情は湧き上がってくることは一度もない。人を好きになったりするにはどうすればいいのか、恋とは何か教えてほしい」


 あまりのも壮大なテーマを突きつけられ言葉を失う三人と、未だに固まったままの真。

 この後、当たり障りのない会話でそのまま時間はすぎていくのであった。

お読みいただきありがとうございます

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