第3話
「起きろ、慧」
「あと十分寝かせてくれ……」
鍋を食べた翌日、泊まっていくことになった慧を揺り起こす真。
結局あれから慧が買ってきたお酒では二人とも満足はできず、歩いて5分程の所にあるコンビニで追加のお酒を買い、明け方の四時まで飲んでしまったのである。
真にとっては本日の苦行を紛らわす為、自棄になって飲んでいたのだが、なかなか酔えなかったようだ。
慧にとっては違ったらしく、徐々に酔いが回るにつれて真に、彼女をつくる哲学を熱く、嬉しそうに語っていたのだが最後の方は呂律が回っておらず何を言っているのか理解不能だった。
「いい加減起きろ!」
ベットの布団を剥ぎ取り、強制的に起こすのを試みる。
因みに慧が寝ているところは、普段真が寝起きしているベットの上。
なんで寝ているかというのは予想が付きやすいが、先にダウンしたのが慧で、そのままベットに直行しただけの事だ。
これだけやっても起きない慧に見切りをつけ、昨日の残骸を片付ける真であった。
「ふぁぁぁ……」
大きな欠伸の声と共に身体をベットから起こす慧。
現在の時刻は十四時をまわっていた。
お昼のちょっとすぎた頃に起きた真は呆れた目で見ていた。
「おまえ、寝すぎじゃないのか?」
「今、何時?」
「もう十四時を過ぎてるよ」
「マジか!?」
すぐにベットから起き上がり、近くにあったペットボトルを開け一気に飲み干す。
「なんで起こさないのよ?」
理不尽な物言いに呆れ果て何も言えなくなってしまう。
真としてはちゃんと起こそうとしたのに、起きる様子がないほうが悪いのではないのか。そのことを突っ込みたい真ではあるが溜息しか出てこなかった。
「あんまり時間ないな……。誰に頼もうか……。やっぱり最初は……。合コンはもう……」
ボソッボソッとした独り言を言い出し始める。所々に不穏な言葉が聞こえるのは気のせいだろう。
戦々恐々として尋ねてみる真。
「なんか聞こえてきたんだが気のせいだよな?」
「ん?」
わざと知らない振りをして携帯をいじり始める慧。行動にあからさまを感じながらも黙って見つめるじかない。
一度携帯をいじり始めると埋没してしまい反応を一切示さなくなる。特に女の子とのことなら尚更だ。慧の悪い癖でもあるのだが。
三十分ぐらいたっただろうか、着信音が何回も鳴り響いていたのが終わり顔をあげ一息つける慧。
「なんとかなったわ」
満足げに笑みをこぼす。
何が何とかなったか予想は付くのだが聞かずにはいられない真。
「何が?」
苦笑いしながら確認してみる。
「そりゃあ、今日の夜の事に決まってるだろ」
何言ってるの、と言いたげな顔で真のほう向いてくる。
「……そうか」
「とりあえず合コンにしたかったんだけど、時間なかったら飯食べに行くことになったら。十九時に行くからその前に準備しておいてくれ」
「それはいいけど……。誰が来るんだ?」
「俺と同じ学部の女の子に頼んだんだけど、他は俺も知らないぞ。俺はとりあえず一人か二人ぐらい連れてきてとしか言ってないから」
「はあ!? そんな感じで大丈夫なのか?」
「あいつは顔が広いから大丈夫じゃないか」
慧は真の疑問に答えたのだが、真の求めてる答えではなかった。
真としては自分の身の安全の事を尋ねたのだが、慧は人がちゃんと集まるのかと疑問をもったと思ったのだろう。
うんざりとした表情で慧にしっかりと訂正する。
「そうじゃなくて……。俺は大丈夫なのかと聞いているんだが」
「ああ、そっちね。たぶん大丈夫なんじゃない」
「たぶんって言うな!!」
のんきな事を言ってのける慧にあきれつつ、とどろくような叫び声をあげる。
その叫びに多少後ずさりをする慧。
「落ち着けって。行く店は個室で予約取ったし、その店は広くないから人もそんなに来ないから。それに、その店は俺のマンションに近いから最悪そこに行けば問題ないだろ」
「もしかして、その店って『一心』か?」
「知ってるのか? 珍しいな」
些か呆気にとられる慧。
真はあまり夜の店とかには行くことがないのだ。人との接触を極力避けたいのもあるが、一番の理由として趣味がおおいに影響している。
インドワ派というわけではないので引きこもりとは違うのが、客観的にみればそう見えなくもない。
しかし、旅行にも普通に行くこともあるし、アクティビティな遊びも好きなのだ。かといってお酒が苦手とかでもなく普通に飲む。自分からは積極的には行くことはないのだが、誘われれば断る理由がない限りは付き合う。
格闘技をやっていたこともあり身体を動かすことは好きなほうだし、なにが真をそんな風にしているかというと……。
実は、アニオタ、CSゲーマーという一面ももっている。特にゲームに関しては投稿動画サイト、ニコ○コ動画で実況プレイをしている。
実況プレイは大学に入ってからやり始めているのだが、大学に入学してすぐに意気投合した友
人、慧は全く付き合いのないが名前だけは聞いている荻野という男と二人でやっている。
この荻野という男は情報学部におりPCに扱いに長けており、その手の投稿などは大学に入る前からやっておりお手のものなのだ。アニメに関しても精通しており真の一番の趣味友といったところである。
因みに、『一心』というのは住宅街にある個人経営の居酒屋だ。街の無料の情報誌にもたびたび載ることあり、陽気な店長が有名な店である。
「そりゃあ名前ぐらいは知ってるけど、行った事はないぞ」
「知っているんだったら話は早いな。そこの店の前で待ち合わせだから、ちょっと前に俺の家に来てくれ」
「……わかった」
不本意ながらなも了承する。
「そういえば、おまえグラサンなんかもってないよな?」
「はっ?」
「いや、だから、グラサンもってるか?」
突然、そんな事を聞いてくる慧。
普段から眼鏡もかけることもない真はそんなもの持っているわけがなかった。なんでそんなことを聞いてくるのか理解するのに少し時間がかかったが言いたいことをなんとなく理解する。
「……もってないけど。おまえの言わんとしてることは理解したわ」
「まあ、とりあえずやってみる価値はあると思うけど、こればかりはやってみないことにはなんとも言えんからな」
「そうだな。けど俺は本当にもってないぞ」
「もっていないとは思ったけど……。まあ、そこは仕方がないな。俺の貸してやるから行くときはそれを着けて行ってみようか」
「そうだな。そんなので防げるとは思わないけど何事もやってみなとな」
お互い顔を見合わせ頷きあう二人。
「じゃあ来るときは少し早めに来てくれよ。他に何かあるかもしれないしな」
「わかった」
予定の打ち合わせを終ったタイミングで立ち上がり、遅めの昼ご飯創るため台所に向かう。
手際よく創っていると、真のほうを向き
「真も食べるか?」
「いや、俺はもう食べたから別にいらないぞ」
「そうか」
そう言うと慧は缶詰とありあわせの野菜を使い、五分程で見た目もおしそうな料理を創ってのけた。
料理のできに羨望の眼差しをむける真。
「なんだ? 食べたくなったのか?」
「いや、相変わらず料理の腕がすげえなって見てただけだから」
「そうか? 頑張れば簡単にできるだろう」
簡単に言ってのける慧。
中学校のときからなぜか慧は料理が得意。家に泊まりに行ったときは、よく手料理を食べさせてもらっていた。その頃から主婦顔負けの技量をもっている。
昼食に専念しはじめる慧は、おかわりをして満足そうだった。
「さて、そろそろ帰るわ」
後片付けをすませ、帰る準備をしていく。
「俺のマンションに着いたら連絡してくれよ」
部屋から出て行く慧。
それを見送った後、
「食事か……」
そんな事を言いながら、約束の時間に向けて準備をする真であった。
その日の夕方。
「やっときたか」
真のマンションから歩いて十分程の場所にある慧のマンション。
マンションに到着した真を、待ち侘びていた慧がにこやかな笑顔で出迎えてくれた。
「その笑顔はなによ? 気持ち悪いわ」
「そうか?普通だと思うけどな」
真の物言いに、苦笑しながら慧が答える。
正直なところ、この後の事を考えるとにやけたくなるのは仕方がない。
「普通じゃないから言ってるんだが……」
「まあ、細かいことは気にするな」
慧の言葉に釈然としない様子を見せながら座る真。
今回の食事に関しては完全には納得していない。勢いに流されて決めてしまった感じもするが最終的に判断を下したのは真なのだが、一言言いたい事がないわけでもない。
「まあ、とりあえずいいわ。とりあえずサングラス以外になにかいいものあったか?」
「これといって特にないな。しいて言うならコンタクトだけど、おまえコンタクトなんて無理だろ?」
「それは俺も考えたわ。まあ無理だけどな」
「そうだよな。とりあえず、今日はできることからやるしかないか……。とりあえずこれもっていけ」
そう言うと、一つサングラスを差し出してきた。
このサングラスは一般的なもので、サングラスのレンズ部分は楕円形で、細身のメタルフレームでできていた。レンズの色は薄いキャメル色だ。
「なんか色薄くないか?」
「付けっぱなしにするにはそれぐらいじゃなきゃ無理だと思ったんだけど、あとはレンズが黒いのしかないから諦めてくれ」
「さすがに黒一色のはまずいな。仕方ない、それで我慢するしかないか……」
黒いサングラスは常時かけてる人などは普通は見かけることなどない。外出中はかけても部屋の中でかけることはまずありえない。しかし色が薄ければ眼鏡と言われても、あまり違和感はないだろう。
「それよりも、とりあえずかけてみてくれるか?」
たまらなく楽しそう顔でウズウズしている。
実は、真は眼鏡などは一度もかけたことがないのだ。単純に視力が良くてかける必要がなかっただけなのだが。サングラスにしてもあまりファッションに興味がなかったし、格好つけようともしなかった。
そもそも、真は異性に好かれようとはしてないのだから格好つける必要もなかったし、理解もできていない。する必要もなかった言ったほうが適切なのかもしれない。
「おまえの顔を見てると無性にかけたくなくなってきたわ」
「どのみちかけることになるんだから、別にいいだろ?」
しぶしぶサングラスをかける
それをみた慧は、耐えようとしていたのだが耐え切れなかったようだ、お腹をかかえ笑い転げている。
「おい! 笑うのはいいけど、笑いすぎだろ!!」
「わ、悪い。けど……」
堪えきれず再度笑い出す。
すぐにサングラスをはずし、慧に近づき頭を軽く叩いた。
真にとっては軽くでも、慧にとっては軽くなかったようだ。
「痛いな、何するんだよ!」
頭を抑え、泣きそうな表情で訴えてくる。
「笑いすぎなんだよ!! それにそんなに強く叩いてないだろ。大袈裟なんだよ」
「おまえには軽くでも、他人にしてみたらすごい痛いの」
「叩かれるようなことしてるからだろ」
うんざりとした顔で溜息をこぼす。
「それは悪いとは思っているけど……。あれは笑うだろ!一回、自分の姿みてみ」
思い出したのだろう、口を押さえ身体を震えさせる。
慧の姿をみて不機嫌な顔をして鏡のあるところへ確認しにいく。
鏡の前には口を半開きにし、苦笑いしている顔が映っていた。
「おまえの言ったこと、……なんとなくわかったわ」
がっくりと肩を落とし、トボトボと慧の傍に座りなおした。
普段から格好いいとは思っていなかったが、鏡でみた姿はあまりにも酷かった。
実際のところ何でも着こなしたり身につけたりできる慧と違い、着ても付けても似合っていないわけではないのだがどうしても若干ダサく見えてしまう。
昔からファッションにはあまり頓着しないほうであったのもあるが、根本的に雰囲気というかオーラといえるものからにじみ出てるものが駄目なのが大きい。
もっとも、本人があまり気にしてないから今まではあまり問題にしていなかったがこれからはそうもいかない。
今のままではリスクしかもたらしてくれないし、下手したら変な事故に繋がるかもしれないのだ。もう、流石に何もしないわけにはいかないだろう。
「わかってくれたか」
満足げに頷いている。
「あんなに似合ってないとは思わなかったわ……」
溜息混じりにどんどん落ち込んでいく。
ここまで落ち込んでいる真をはじめてみた慧は憐れみの顔で苦笑するしかなかった。
「そこは仕方ないけど、これからの事考えるとそのままじゃまずいな。今日すぐにどうにかなるものじゃないから今日は諦めるとしてもこれからはそこの部分もなんとかしないとな」
真面目な顔に一変して、心配そうに言葉をかける。
「俺には無理じゃないか?」
「そこは俺が面倒見てやるよ」
肩に手をおき、ドヤ顔できめている。
「……ああ」
あまりのドヤ顔に言葉が続かなかった真は悲観と希望が入り混じった顔になる。
割合としては悲観の割合が強いのだが。
慧はおしゃれに関してはすごく至当の事。周りの誰もが認めるところだ。
実際のところ、目に見えて変わってきたのは高校からだが、それは大体の高校生ならば普通の事だが、慧の場合は際立って目立っていた。
真も納得するところではあるが、自意識過剰なところがあるのが玉に瑕でもある。
しかし、今頼れるのは慧しかいないのも事実。多少の不安も諦めるしかなかった。
「まあ、そこらへんはおいおい何とかするとして、そろそろ時間も近いしいこうぜ」
時計を確認して準備を整える慧。
「もうそんな時間か……。いまさらだけど、あんまり気乗りしないんだよな」
「ホント、いまさらだな。おい」
「仕方ないだろ。行きたくないのは事実なんだから」
「今日は様子見なんだから気楽に考えろよ。眼の状況によってはこれからもこんなことしていかなきゃならないかもしれないんだから、今日のところは慣れることだけ考えていけばいいだろ?」
「そうかもしれないけど、女の子と食事なんて初めてなんだからそこは察してくれ」
「そうだったな。まあしかたないか」
言われて思い出し、苦笑いをうかべる慧。
「さて、時間もちかいしいくか」
立ち上がり真を促す。
誘われ真もしぶしぶ立ち上がる。
真にとって苦痛の時間が始まるのであった。
慧のマンションを出て、歩いて数分のところに目的の店はあった。
居酒屋一心。住宅街の中にある店。
時間通りに行った二人は、店の前に数人の人影があるのに気がついた。
そこには三人の女の子が待っていた。
こちらに気がついたのか、一人が慧の名前を呼びこちら手を振って近づいてきた。
「もしかして待たせたか?」
近寄ってきた女の子に優しく声をかける慧。
「私達も今来たところだよ」
本当に気にはしていないであろう、笑顔で答える女の子。
「とりあえず中に入ろうか?」
「そうだね」
慧に促され店の中に入っていく女の子達。それに続いて二人も店の中に入る。
店の従業員に迎えられ、予約していた席に案内される。途中、知り合いがいるのか慧は店の人間に挨拶をしている。挨拶の他に何か頼んでいたようだ。
個室の席に通され各々席に着く。
部屋は案外広く、十人ぐらいで使っても狭さを感じなぐらいの広さがありテーブルは掘りごたつである。
「今日は突然どうしたの、慧?」
慧の知り合いであろう女の子が尋ねてきた。
「いやー、友達が女の子紹介してくれってうるさくてさー」
あからさまな嘘に苦笑いをうかべているが目が笑っていない真。
それを見た慧も作り笑いしてその場を繕っている。
「その人がそうなの?」
「そうだよ」
顔を向けられ、眼の事もありつい下を向いてしまう。
「とりあえず、紹介しとくわ。こいつは俺の幼馴染で、神代真って言うんだわ。恥ずかしがりやだからそこのところは勘弁してやってくれ」
紹介ついでにさりげなくフォローをいれる慧。
「真君ね。私は慧と同じ歯学部に通ってる中村七海だよ。よろしくね」
「えー……えっと、神代真です。よろしくお願いします」
無邪気に真に手を振っている七海。
身長はやや低めで、座っていてもここにいる全員よりも低い。爽やかなスカイブルーのワンピが可愛らしく見せている。また、かけている眼鏡のフレームもピンクで、さらに引き立てているようだ。
顔も小さく、ショートな黒髪、リスのような小さい目をしている。
本当に照れているのだろう、下を向きながら答える真の姿を見て、慧は口に手を当てて必死に笑いをこらえている。
「本当にシャイなんだね。それにしても、慧は笑いすぎだと思うんだけど……。真君に失礼じゃない」
七海に諭され肩をすくめる慧。失礼なことに対してそれなりに自覚はあったようだ。
「七海。それよりもこちらの二人を紹介して欲しいのだけど。まあ一人は知り合いとは違う意味で知ってるけどな」
「流石に慧は知ってたかー。まあ、私も直接話するのは初めてなんだけどね」
慧は期待と喜びがごっちゃになった顔になり、七海も微笑を浮かべる。
真はというと、何を言っているのかわからないといった顔をしていた。
「そうだよ、七海。そっちで盛り上がってないで私達も仲間にいれてよ」
七海の横にいた女の子が頬を膨らませて言ってきた。
「ごめんねー。私の隣が梓で、その横が蒼空さんだよ。梓は私の友達で蒼空さんは梓の友達なんだ」
「森本梓でーす。よろしくね。真君。慧君」
「……よろしく」
「俺の名前は大山慧だよ。よろしくね梓ちゃん」
梓は太陽のようなはじける笑顔で二人を見ている。
腰のところまであろうか長い髪な梓。夏の格好らしく薄いピンクのキャミソールにデニムのショートパンツで、健康的な脚をこれでもかと見せつけていた。だがそれよりも目を引くのがこれでもかと胸を押し上げているところだろう。
「私は心理学科の伊吹蒼空です」
「知ってるよー。よろしくね、蒼空ちゃん」
「……よ、よろしく」
抑揚のない声で挨拶を済ませる蒼空。
長いソバージュの髪と、非の打ち所がない美貌。そしてすらりとした長身と、くびれる所と膨らむ所がはっきりとした体つき。わずかにつりあがった目元が彼女を大人びさせていた。古風な雰囲気と端然とした姿は、自然と人目をひきつけるものがあった。そして、ベージュのワンピースが清楚な感じを際立たせている。
二人の紹介に軽い笑顔でいる慧と、未だに下を向いている真。
対照的な二人をみて、七海と梓は微笑ましく見ているが蒼空は不思議そうな様子で見ていた。
「それにしても、蒼空ちゃんと知り合えるなんて七海には感謝だわ」
「でしょう。じゃあ、今日は慧のおごりでいいよね?」
「七海。それはないんじゃない? 連れてきたのは私なんだから、おごってもらうなら私じゃないの?」
「二人とも、言葉だけで満足してくれないかなー?」
本当に勘弁してもらいたいのだろう。苦笑いを浮かべながらあたふたしている慧。
何しろ、慧はバイトなどはしていないので、収入は家族からの仕送りだけなのだ。故に懐はあまり豊かではないのだ。
普段から飲み会やらコンパなど毎日を忙しくこなしているため、そんな事をしてる暇はないといえる。
だが、そんなことばかりやっていたらお金がなくなるのは必然で、大学に入ってからは常に金欠という危険がつきまとっているのだ。
因みに、本日のお支払いは真からお金を借りることになっていたりする。
「慧のお金ないのは何時もの事だから……、しかたない、諦めてあげるよ」
付き合いが長い賜物なのだろう、慧の事を良く理解している七海。
「さすが七海。よくわかってらっしゃることで」
「よくわかってるねー、七海。それにしても、慧君はいつもお金ないんだ?」
「いつもじゃないんだよ! 今日はたまたまだって」
必死に梓に言い訳をしている慧。その必死さがお金のなさを語っているが、当の本人はまったくわかっていないのは滑稽な感じがする。
「そうなの? あやしいなー。そうだ! 蒼空。心理学的に慧君の言葉はどう思う?」
「ん、なんとなく嘘っぽい」
「いやいや……嘘じゃないって」
「信じられないなー……。じゃあ幼馴染の真君に聞いてみるかな。ねぇ真君?」
なかなかしつこい梓に苦笑している慧。
急に話しを振られた真は、ビクリと身体を強張らせている。
今まで何も喋っていないところに問いかけられればそうなるのは仕方ないところだろう。
「幼馴染なら私より知ってること多そうだよねー」
七海も興味津々なのか目を輝かせている。
「で? どうなの真君?」
慧は何かを訴えるような目をしてるようだったが、俯きがちの真には伝わることはなかった。
「……慧は大学に入ってから常に金欠だよ」
「やっぱりねー」
「慧君、嘘は駄目だよ」
「嘘はすぐにわかる」
三人に攻められ、慌てながらも視線は真を睨んでいた。
「と、とりあえず話し込んでいないで何か注文しようぜ」
あたふたしながらも店員を呼び注文を促す慧を見て、四人とも笑いながらも部屋に来た店員に飲み物の注文をするのであった。
お読みいただきありがとうございました