第2話
部屋のインターホンが来客を告げる音をならす。
今日の来客の予定は二組。姉達か慧のどちらかだ。ドアホンを確認すると慧が手を振っていた。
一瞬、イラッときたがオートロックを解除して招きいれる。
「おじゃましまーす」
ガチャガチャと瓶の音が鳴る袋を片手に慧が、まるで自分の家のように部屋に入ってきた。ベットに座っている真は視線だけ向ける。
「いらっしゃい、慧君」
出迎えたのは母親だ。
「ご無沙汰してます、真琴さん。それと咲奈さんも久しぶりですね?」
「本当に久しぶりだね、慧」
「まさか咲奈さんまで来てるとは思いませんでしたよ」
若干、苦笑い気味だ。慧にとっても予想外の事であったのだろう。
「そう? 身内が事故にあったら来るのは普通じゃない? 因みに、後で姉さん達もくるのよ」
「えっ? 詩織さんと彩子さんも来るんですか?」
「もうそろそろ着くはずだから。付いたらみんなでどこか食べに行きましょう」
引き攣る顔を真のほうに向けると、もの言いたげな目つきで慧を睨みつける。蛇に睨まれた蛙のように慧は固まった。
「……はい」
返事するのもやっとだ。
「そういえば何を買ってきたの?」
そう言って笑っていた母親は、慧の持ってきた物を片付けようと立ち上がった。
「真に頼まれて買ってきたお酒です」
「あらあら、そんなこと頼んでたの真は? わざわざ、ごめんなさいね」
「たいした事でもないですから。気にしないで下さい」
母親が冷蔵庫にお酒を片付けてると、インターホンが再び鳴る。
「着たかなー?」
咲奈がドアホンを確認する。周りからは見えなかったが姉達だったのだろう。ロックをあけている。
しばらくすると、扉の開く音が聞こえ部屋に入るなり真の傍まで一人駆け寄ってきた。
「真! あんた、大丈夫なの!?」
あまりの勢いにたじろぎながらも、危険な警報を感じ取ったのか慧の後ろに隠れる真。
苦笑いながらも、しっかり真を後ろに隠す慧。
「相変わらずですね。詩織さん。」
「あら、慧じゃない。いたの?」
「そんなところも相変わらずですね……。あと彩子さんもお久しぶりです」
扉から遅れてもう一人姿をあらわす。
「慧……。久しぶり……」
父親以外の真の家族が狭いワンルームに勢ぞろいだ。
「そんなことより、真!大丈夫なのか答えなさい!」
「真……。怪我はない……?」
「見てわかるだろ! 大丈夫だから離れろ、詩織姉!! 問題ないから心配しなくていいよ、彩姉」
慧を挟んで詩織と真はいまだに争っている。詩織は真の怪我がないかどうか確認しようと捕まえようとし、真は必死に叫びながら逃げる。慧は案山子のように微動だにせず立っているしかなかった。
「詩織、真、いい加減にしなさい。慧君も困ってるでしょ」
こんな状況でもなぜか母親は嬉しそうだ。
「母さんがそう言うのだったら……」
少し拗ねた口調で母親の言葉に従う。きっと、正座したときの事を思い出したのだろう。
「みんな揃ったんだからどこか食べに行こうよー。]
「そうね。着いてすぐで悪いんだけど詩織、車だしてちょうだい?」
「わかったわ」
母親の一言でご飯を食べに行くのが決定した。
詩織が乗ってきたワゴン車に全員乗り込む。もちろん真は慧と共に一番後ろの座席だ。
少し離れたところにある大衆居酒屋で鍋料理などを食べたのだが、真だけは心身共にボロ雑巾のようになっていた。
真の世話を何かと焼きたがる姉三人は、慧と母親に挟まれていて、テーブルの反対側にいたのにもかかわらず、何かにつけては真にあれやこれやとしてくるのだ。
事前に車の中で慧には何とかするように頼んで……、いや、脅していたのだが。最初のうちは話しかけ、落ち着かせ、宥めていたのだが、三対一は分が悪かったようで、後のほうでは完全に放棄していた。
母親は母親で笑っているだけなのだ。多少の窘めることは言っていたのだが、姉達を止めるには到らなかった。
マンションに戻ってきた真は、扉を開けすぐにベットに満身創痍の身体を投げて横たわった。
遅れて母親と慧が入ってきた。
三時間ほど居酒屋にいたので姉達は真達を送ると、未練がましく愚痴を言って帰っていった。
ベットの傍まできて、腰掛ける慧。
「一年ぶりぐらいだけど、変わってないな、おまえの姉さん達」
「あいつらが変わると思うか?」
「そりゃそうだ」
納得の顔で、慧が声にだして笑った。
幼稚園からの長い付き合い。小学、中学、高校と同じ学校に通いクラスも一回を除いて全て一緒ときている。実家同士も仲がいいため家族ぐるみで付き合いがあるから慧もよくわかっている。
「真、何か飲むかい? 慧君も」
コップをテーブルに持ってきて、母親が声をかけてきた。
「ウーロン茶」
「同じものでお願いします」
起き上がり慧の横に腰掛ける真。ウーロン茶を飲み一息つく。
「全く……。今日は慧のせいで碌なことがなかったな」
「悪かったって」
「慧君のせいにしたら駄目よ、真。」
「いいんですよ、真琴さん。余計なことをしたのは事実ですから……」
「そんなことないわ。教えてくれたことには本当に感謝してるんだから。それに、真が連絡しなかったかもしれないしね」
「俺はちゃんと連絡するつもりだった!」
「それなら何で、昨日の内に連絡しなかったの?」
「……」
微笑みは崩さない母親をみて、冷や汗をかく真。
「まあ、いいわ。じっくり話しを聞く約束忘れてないわよね?」
母親は笑顔で念を押してきた。
「は、はい」
心が波立つのを感じ、心の中で深い溜息を吐く。
慧は横で身体を震わせている。
「慧君は今日はどうするの? 泊まっていくの?」
「い、いえ。明日も補講があるので今日は帰ります」
「コンパばっかりで、真面目に勉強してないからだろ?」
「余計なことは言うな!」
ここぞとばかりに反撃に出る真。実際のところ事実なので否定はできない慧。
「そうなの? でも、真と違ってカッコいいから仕方ないわね」
「余計なこと言わなくていいから……」
今度は真が母親に事実を言われて苦笑する。
「まあ、ゆっくりしていきなさい。真、お風呂借りるわね」
「ああ」
そう言うと浴室にいく母親。いなくなったのを確認した慧は、
「どうするんだ?」
「何が?」
「病院で言ってただろ? 話してくれるって!」
「あっ!?」
「忘れてたのか? おまえ」
「今日の事があって覚えてると思うか?」
苦虫を噛み潰した顔をうかべる真。
「それもそうだな……」
慧は苦笑いをして頷くしかなかった。
何とかしなければならない真の眼。これからの生活の被る被害を回避する方法を考えなければならないのだ。一人では解決は無理だろうと判断して、慧にだけは打ち明けることを決心していた矢先に、姉達の襲来である。身内ですら、これだけの肉体的疲労感、精神的鬱々感があるのだ。力を使わずにこれでは前途多難。解決できるかどうかわからない。
思わずこめかみを押さえて頭痛をこらえる真。
「今日は、母さんがいるから明日にしたいんだけど、大丈夫か?」
「今日と同じぐらいの時間なら問題ないぞ」
「じゃあ明日また連絡するわ」
「わかった。じゃあそろそろ俺は帰るわ。真琴さんに今日はご馳走様って伝えておいてくれ」
そう言って慧は片手を振って帰っていった。
慧が帰ってから三十分ほどで母親が風呂よりあがってきた。その間に母親の寝る布団を床に敷いて準備しておいた。
部屋の様子を見て、
「慧君は帰ったの?」
「ああ。今日はご馳走様だって」
「そんな気にしなくても良かったのに」
そう言って真の向かいに座る母親。
「そうしたら、教えてもらおうかしら?」
「はい……」
聞かれることはわかっていた真は、自分の覚えている事や出来事などを必死に話した。
事故にあって当日の記憶がなくなっている事、看護師さんとの接触事故を覚えてる限り母親に話した。多少、盛ってしまったのだが……。
記憶がなくなっている事に、母親には珍しく驚愕の表情をうかべ、看護師との出来事には苦笑、苦笑というには笑いの成分の強い感じだった。
追加として、説明に二時間。正座で説明することになったのはここだけの話しである。
姉達から精神的被害うけた翌日。疲労がかなりあったのだろう起きたのは十一時過ぎだった。
起きると母親は布団を片付け、帰る準備をしていた。
「おはよう、真。ごはん作っておいたから食べなさいよ」
眠い目をこすり、頷く。
「あと、なんかあったらちゃんと連絡する事、いいわね?」
「それなんだけど頼みたいことがあるんだ」
起き上がり、昨日貰った保険屋の名刺を母親に差し出した。
「なんかあった時の為に連絡とってもらっていい? 後、来週病院行ったときに支払いあるからそのお金も貸して欲しいんだよね。その時に一度連絡するから」
「わかったわ。けど最初はちゃんと自分で連絡するのよ」
そう言って名刺を受け取る母親。
事故にあった被害者は直接保険屋と話し合いを行うのが普通なのだが、真には事故当日の記憶が抜け落ちている。あるのは昨日警察が教えてくれた内容だけで、それは実体験から記憶している内容ではない。
病院で意識を取り戻してすぐに気を失ったこともマイナスに働いている。
精神的に被害を受け気持ちが沈みがちではしっかりと話ができないのは当たり前の事だし、それに真は二十年の人生経験しかないのだ。
経験として自分で学ぶことも至当ではあるが、今は甘えてもバチはあたるまい。
「それはわかってるって」
「じゃあ、帰るけど今日は安静にしてなさいよ」
「ああ」
帰る母親を見送り、部屋に戻りご飯を食べる。
作ってくれたのは野菜炒めとプレーンオムレツだった。母親の料理に期待したのだが、あまりいい料理がなかったことに落胆する真。
食べ終わり、食器を片付け一息つける。
やるべきことは山のように積みあがっているが、目を背けてもどうしようもないと思い直し、やれることから片付けようと決意を胸に行動する。
シャワーを浴び、まずは保険屋に連絡をとることにした。
話しとしては、加害者の詳細、事故費用の支払い、今後の対応などについて詳しく教えてもらった。母親が窓口になってもらうことも伝え、加害者がお詫びに来る旨を教えてもらったが女性だということを聞き丁重にお断りすることにしたのは仕方がない事だろう。
恙無く保険屋との話しも終わり、次に眼の事を考えたが、これは慧が来てからと後回しにすることにして買い物に出かけることにした。
冷蔵庫を確認すると食材は残り少なくなっており、中にはお酒数本と卵が二個、人参とキャベツが少々あるだけの状態。母親の料理がなぜああなったのか理解をし、心の中で謝罪するのであった。
買い物も無事ではなかったが、なんとか実行し、この際だからと部屋も掃除し、洗濯もした。はじめは自分なりに眼の事を考えていたのだが、集中力が続かなかった。
いつもながら思うが、やるべきことには集中できないときに限って他の事には目覚しい集中力を発揮するのかを一時間程問いただしたくなる。
考えるのを諦め、テレビを見て時間を潰す事にした真は、慧が来るまでテレビを見続けるのであった。
その日の十九時すぎ。
慧からの連絡があり、程なくしてマンションにやってきた。
「ただいま~」
いつものように入ってくる慧。昨日は真の家族がいたこともあり行儀の良い言葉使いだったがこれが普通なのだ。
手には何かが入っているビニール袋を持っていた。
「なに買ってきたのよ?」
「鍋でもしようかなーっと思ってモツ鍋の材料買ってきたぞ」
そう言うと台所に立ち鍋の準備を始める。
真も慣れているのか、料理以外の準備をする。
真はマンションに一人暮らしをして一年半もたっていることもありそれなりの料理は作れる。慧にも同じことが言えるが、料理の腕前はまるっきり違う。よく泊まりにくることもあり、この役割分担は当たり前の事になっているのだ。
鍋の準備も終わり二人でテーブルを囲む。
「そろそろいいかな?」
そう言うと鍋の蓋を開け確認する。その途端、湯気が広がり同時においしそうな匂いが部屋に充満する。
「大丈夫そうだな」
二人分を取り分け、昨日買ってきたお酒で乾杯をして食べ始める。
「昨日はわるかったな、真」
食べ始めてすぐ、不意にそんな事を言ってきた。
「……本当に最悪な事してくれたな」
「悪かったって言ってるだろ?」
「まあ、過ぎた事はどうしようもないけど二度とするなよ!!」
「わかったって」
慧の回答に、納得したような釈然としないような様子を見せる真。
今回の出来事には損害以外得たものがない。母親に連絡したことは手間が省けたが、姉達まで来たのは慧にとっても予想外なのだろう。全面的に慧に非がない事はわかるが、一言言いたい事がないわけでもない。
「まあ、いいわ。それより聞いて欲しいことがあるんだわ」
「そうだったな。それで何があったのよ? おまえは気を失うなんて久しぶりだよな?」
「……そうだな。とりあえず話す前に言っとくけど、これから話すことは信じられないかもしれないけど事実だから、そのつもりで聞いてくれ。あと他の人には話すなよ!」
「わかった」
ひどく神妙な顔つきになる真。
珍しい真の顔つきに慧も真剣な顔つきで頷く。
「実は――」
話しを切り出した真の言葉をしっかり聞く慧。
内容を聞き進めると同じく、慧の表情も困惑に満ちた表情に変わっていく。
普通はありえないことを話してることを自覚している真は、苦笑いをうかべるしかなかった。
「……信じられないな」
かばのような大口をあけ、茫然とした表情をする慧。その言葉を予想していたのか、溜息を吐き言葉を返す真。
「まあ、普通はそうだよな……。実際俺もいまだに完全に信じてないけど、体験しちゃうと信じないわけにはいかないんだよな」
「……そうかもな」
未だに信じることのできない慧は相槌を打つだけしかできなかった。
「それで、これからどうすればいいか考え付かないんだけど、なんかないか?」
「話しを聞いて思ったんだけど、手っ取り早いのって『 心の底から好きになる異性を見つける事』なんだろ? それなら見つけたほうが早いんじゃないの?」
「それができないからおまえに相談してるんだろうが! おまえだって俺の事はわかってるだろ!!」
「ま、まあ、わかってるけど……。」
真の勢いに押され、どもってしまう。
下手したら真の家族よりも真の事を理解しているかもしれない慧。付き合いの時間の長さでは間違いなく上回っている。そんな男ですら鬼気迫る真をみるのは初めてな気がする。
「とりあえず言いたいことはわかったけど、そんなに大袈裟なことじゃなくね?」
「はあ!?」
何を言っているのか意味がわからない真。
悩んでいるからこそ相談しているのに、大袈裟じゃないと言ってのける慧に疑問を持つことは至極当然である。
「簡単に考えればわかるんじゃないか? おまえが引っかかっているのって女性に近づかれるじゃないのか?」
「……そうだけど」
「別に人を好きになるのって気持ちの問題なんだから、おまえが懸念してることにはならないんじゃないか?」
「あっ!!」
看護師の出来事が強すぎて簡単なことに全く思い至ず、頭を抱える真をみて、呆れるしかなかった。
落ち込んでいる親友を哀れに思いながらも、話を戻す慧。
「とりあえず、解決する道は見えたことだしそっちは何とかするしかないとして、問題はおまえの眼の力だよなー……」
「……」
さすがに一番驚いたところにはお手上げ状態で、解決の糸口すら見つかってない。
実際、そんなことは現実にありえることはない事を考えるのだ、そう簡単に浮かんではくるはずもない。
「とりあえずさー、実験してみるしかないんじゃないか?」
「なっ!?」
ひどく臆病そうな青白い顔で固まってしまった。まあ無理もないだろう。
「とりあえず俺も見てみないとなんとも言えないし、しかたないじゃん。それに、なんかいい案が出てくるかもしれないし……。なっ?」
「……」
慧の言葉に泣く泣く頷きつつ、気持ちに折り合いをつける真。
実際のところ、自分の身の危険しか感じられず、心中では断りたい。しかし、慧の言葉にも納得してる部分があるのも事実。未知のものは調べなければ手のつけようがない。
「そんな心配そうな顔するなよ。俺も一緒に行くから。なんかあったら俺が何とかしてやるよ」
頼もしい言葉を言っている慧だが、その言葉とは裏腹に、にんまりと嬉しそうな顔をほころばせている。
「台詞と顔が一致してないのは気のせいか?」
「そうか?」
「顔がにやけてんだよ!」
指摘をうけ顔を確認するが、鏡が目の前にあるわけでもないからわかる分けないのだが、両手で頬の辺りを触り確認している。
人は自分の不幸には悲観など負の感情になるが、知り合いの不幸には楽しいなど正の感情になるのががほとんどだろう。特に友達ならなおさら。慧はその例に漏れず、心の内は楽しさで一杯のようだ。
「とりあえず、実験って何をするのよ?」
「明日、おまえ暇か?」
「まあ特に予定は無いけど……」
「じゃあ、手っ取り早く街にでて確認してみようぜ?」
「それはリスク高すぎだ!! ライオンの群れのなかに生肉置いていくようなもんだろうが!」
「いつも買い物に出てるだろう? それぐらいの気楽さで行けばいいじゃん」
「いけるか!! さっき買い物行ったときなんてとんでもない事になったんだぞ……」
冷蔵庫の中に何もなかったので、考えも無しに買い物を行ったときの事を思い出し青ざめる真。
いつものように、いつものスーパーで買い物をしようと、いつものように家を出て、いつものように向かったのだが、スーパーではいつものようではなかった。
買い物に行ったのは17時頃、世の奥様方は晩御飯の準備でよくいる時間帯。よりにもよって夕方市なるチラシが入っていたものだからいつもより人の割合は多かった。
普段なら人が多くても何とか買い物を済ます真であったが、今回はそうはいかなかった。
品物を探してカートを押しながら視線を彷徨わせぶらぶら歩いていると、向こうを何かを探してたであろう母娘と思わしき二人と、お互いの視線が凍ったように止まってしまった。
花の蜜を求める蝶ような足取りと表情で真に近づいてくたのである。
後悔先に立たずとはよく言ったものだろう。
カートをその場に放置して必死に逃げた真。それほど広くないスーパーを逃げ回り、いつもなら十分ぐらいで終る買い物を一時間もかかってしまったのであった。
「何があったのよ?」
「……」
それ以上の事を何も語ろうとはしない真だったが、態度からなんとなく想像できてしまった慧。
追求しても話してくれないだろうと感じた慧は話しを戻すことにした。
「とりあえず話しは戻すけど、俺も見てみないことにはどうにもならないのはどうしようもないことなんだからそこは諦めてくれ。それになにも人が多いところでやろうとは思っていないから、そこは信じてくれよ?」
「因みに何を、何処でやろうとしてるのよ?」
「やることははっきりしてるだろ? 方法としては目をあわせてもらうしかないからな。あとは何処でやるかだけど……。手っ取り早く俺の知り合いと二対二ぐらいで食事でもしてみるか? もしくは合コンとか?」
「ふざけるな!! なんで俺がそうなことを――」
憤慨してる言葉を言い放とうとしていた真を、遮るように話す慧。
「ふざけてねえって。じゃあ聞くけどおまえこのままでいいのか?」
「……」
このままでいい訳がない。そのために真は慧に相談しているのだ。
それをわかっているから真は言い返せなくなる。
「だったら素直に見つけるしかないだろ?それに眼のことだって何か対策ができるかもしれないのに最初から否定してたら何も始まらないだろ!」
「……」
「とりあえず俺の言ったことをやる事に異存はないな?」
「……わかった」
珍しく声を少し荒げる慧をみて真剣に考えてくれてると思い納得する真。
「なら、明日決まったら連絡するわ。じゃあ、この話しはもう終わりな。鍋が冷めちゃったから創り直すか」
立ち上がりもう一度鍋の材料を作り直しにかかる慧の背中を見て、
「すまんな、慧」
「気にするな、真」
造り直した鍋を楽しく食べすごす二人。
しかし真は気づいてなかった……。
慧の真剣な瞳の奥に、戯れようとしている感情が宿っていることを。