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金と銀の狼

夫を返してください

作者: 高倉 碧依

昔ノートに書いていたのを載せてみました。


想像以上の方に見ていただけて恐縮です。

脱字の直しと少し文章をつけたしました。

それはいまから3年程前の話です。

東の国の外れ、気候と地形に恵まれないその地は、人も獣もとうに去り、ただ砂に覆われた地ー【死土】と呼ばれていました。

そこにいきなり爆発的な魔力が生まれたのです。

最もその地に近い国の王が調査団を送りましたが、一月経っても誰も戻りません。

今度は人数を増やし、より強力な兵を連れた第二調査団を送るも、誰一人帰ってくる者はいませんでした。

王は戦々恐々としながらもそれ以降人を送るのをやめてしまいます。

どうせ誰も帰ってこないのだからとー

はじめは警戒していた者たちも、特に何か起こるわけでもないことに気づくと、あの場は立ち入り禁止とし、何事もなかったかのように暮らし始めました。


だけど何もないわけはないのです。


1年経ち、死土の砂が徐々にその範囲を広めていることが解りました。

山、川、畑が砂に覆われ、生きるために国を捨てるものが現れ、3年経った今ではかの国の国土は半分を砂に覆われてしまいました。

弱り切った王は世界中の勇者に助けを求め、死土の異常の原因解明に力を傾けましたが何せ誰も戻ってこれない土地。

命知らずや正義感に猛る者も段々と減っていき、王は最終手段にでたのです。


異世界からの勇者降臨ー


そうして呼ばれたのは可憐な少女でした、戦うことに長けているわけでもなく、魔力も持たない少女。

ただその可憐な容姿で次々と強力な力を持つ仲間(信者)を増やしついには死土の原因を解明し、東の国を救った救国の聖女。


過分に嫌味を込めましたが、だいたいこれが今から半年ほど前まで世界中を震撼させていた話です。

私は問題の国の隣国の貴族の妻です。

私は聖女が嫌いです。

何故なら彼女は役目を果たしたあと、元いた世界へ返そうというこちらをまるっと無視し、いつまでもこの世界にいつき、共に死土へ向かった男達をそばから離さずに東の国で贅沢三昧に暮らしているのです。

その中には私の夫も含まれています。

夫は我が国の騎士団で副団長を勤めておりました。真面目で優しく誠実で…、私達は幼い頃からの婚約者としてゆっくりと愛を深めてきました。

夫のくれたプロポーズの言葉は私の大事な宝物です。

そして結婚式をあげてちょうど一月経った頃、聖女が仲間(信者)を連れて我が王に頼みがあると、王宮にやってきました。


死土の原因解明に力を貸してほしいー。


早い話が仲間(信者)を増やしにきたのです。我が王は隣国の現状に心を痛めておりましたので、第一王子と騎士団長にその役目を手伝うようおっしゃいました。

それを彼女は断り、私の夫を指名してきたのです。

結果、夫は私を置いて隣国に向かうことになりました。

「必ず無事に戻るから待っていてくれ」

泣きじゃくる私に優しくキスをしてくれた夫の背中越しに見た、優越感に満ちたあの顔。

その時に手をうっておけばよかったのでしょうか。

何故王子たちではなく私の夫を連れて行ったのかー

王子達は決して醜くわないけれど凡庸な方達で、

夫は目を見張る程美しい方、

聖女の仲間(信者)にはそんな方しかいない事に何かおかしいと思えば良かったのでしょうか。


夫が聖女に連れられ旅立ってから二ヶ月程経った時、世界中に吉報が流れました。


"死土に現れた魔力が消え、東の国を覆っていた砂が忽然と消えた、国を救った聖女一行は誰一人欠けることなく無事に戻った"


世界中が安堵したその知らせを聞き、私も神に感謝し涙しました。




ー問題が解決したのに夫が帰ってこない…




事後処理もあるのだろうと、私はしばらく我慢しました。でもついに我が王に頼んだのです、夫を返してくれるよう東の王に伝書をやってくれと。

私の事情を知っておられる王はすぐさま伝書をやってくれました。

何度も、何度も…

返事は『否』のみでした。夫も聖女の側にいたいといっているという言葉と共に…


そんな訳はないと言い続け、夫を信じておりました。

でもそれも今日で終わりになりそうです。


先日私は息子を産みました。

夫によく似た顔立ちと瞳の色。


夫に伝えるため手紙を書き、東の国に送りました。

たとえ旅立ってから一度も返事をくれたことがなくとも、息子の誕生を知らせたくて…

王も諦めずに伝書を送ってくれております、明日には第二王子が使者として向かってもくれるそうです。

第二王子は夫の友人…、きっとなんとかしてくれるでしょう。

「国交を考え、今まで無理強いをできずにすまなかった。

必ずあいつを連れて戻る!」

それを伝えにわざわざ我が家までいらしてくださいました。


息子を授かっているとわかったとき、周囲には産むことを反対されました。

両親にも義父母にも、医師にも魔導師にもとめられました。

今回は諦め、せめて夫が戻ってからまたつくればいいといわれました。

私は丈夫ではなかったので…、でも愛する夫の子です。

それはできませんでした。

何より、夫が旅立ってからの私を支えてくれていた大事な子です。

絶対に産むと譲らない私に、最後まで反対していた母と義母が泣きながら…それでも許してくださいました。

私は今でもこの決断は正解だったと思っています。

だって、息子はこんなにも夫に似た可愛い子だったのですから。


夫もきっと喜んでくれるでしょう、明日にも王子が向かってくださるというのなら、早ければ10日後には夫は息子に出逢えます。

叶うのならその場に私もいたかったのですけれど…

申し訳ありません…

私はもう貴方に会うことが叶わなそうです…

昨夜から身体に力が入らないのです…

王子にもきちんとお礼を言わなければならないのに…

なんだか声もうまく出なくて…

不意に視界が暗くなってきました、目を開けているつもりだったのですがおかしいですね…

でも暗闇は好きなのでかまいません、愛する貴方の髪と瞳の色ですから…

読んでいただきありがとうございました。

夫編もあるにはあるのでいつかまたのせるかもです。

その時はよろしくお願いします。

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