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無くしたくないもの

チャイムを鳴らすとインターフォン越しの声は梅野の母親の声だった。


『はい。』


『宮内ですけど、奈津子さんいますか?』


『あら、良太君?奈津子はまだ戻ってないのよ。

良太君、学校で奈津子と会わなかったの?』


『えぇ、会わなかったです。』


『そう、最近あの子元気ないから良太君からも励ましてあげてね。』


『あっ、はい。また来ます。』


僕はそう言うと梅野の家をあとにした。


『あいつどこに行ったんだよ!』


僕は無性に梅野に会いたかった。


梅野を見つけたい一心だった。


コンビニにも公園にも図書館にも行き、ただひたすらに梅野を探した。


梅野に会わなきゃと僕は強く感じていた。


街中を探し回ったけど、こんな時に限って梅野を見つける事が出来なかった。


今の季節ではもう18時にもなると完全に日も暮れて、


一気に薄暗い闇に辺りが包まれていく。


僕は公園のブランコに座りこんでしまった。


そして神戸で希ちゃんを探し回っていた事をふと思い出してしまった。


神戸では一番逢いたかった人に逢うことは出来なかった。


そして悲しい結果を突き付けられた。


もうそんな思いはしたくない…。有紀の言葉が突き刺さる。


『本当は神戸なんて行って欲しくなかった。心配でしょうがなかった

奈津子の気持ちを考えたの?奈津子は今でもすごく良太の事を心配している。

そんな人が傍にいるのに…。』


梅野の気持ちはわかっている。


今までわかっていて、その気持ちに応える事が何も出来なかった。


もちろん希ちゃんという存在が心の中にいたからかもしれない。


でもその気持ちをわかっていて、なお僕の事を思ってくれる梅野奈津子。


僕はそう思うと何故だか急に涙が出てきた。


『良太?』


僕は呼ばれた方向に顔をあげる。


そこにはずっと探していた梅野奈津子が立っていた。


『梅野…。』


それ以上、言葉は出てこなかった。


梅野を見つけて、こんなにも嬉しく感じた事は今までなかった。


今は違う。梅野に会えた事が何よりも幸せに感じた。


『良太…。』


そう言うと梅野は僕の隣に座ってきた。


『良太…、希ちゃんの事だけど、私、何て言っていいのか…。』


『梅野、無理して言わなくてもいいよ。』


『良太…。』


梅野は静かに泣き出した。


本当は声を出して、泣きたいはずなのに梅野は声を殺して泣き続けた。


辛いのは僕だけじゃない。みんな辛いし悲しい。


そしてそんな気持ちを押さえて僕を心配してくれて、


いつも気がつけば傍にいてくれる、梅野奈津子。


『ありがとう。』


素直な気持ちで僕は今までの全ての思いを込めて梅野に言った。


『えっ…?』


『ありがとう、奈津子。』


『えっ?』


『いつも傍にいてくれて、僕を思ってくれて、支えてくれて、

見守ってくれてありがとう。』


梅野の眼に一気に涙が溢れ出して止まらなくなった。


『やっとだよ…。』


『やっと?』


『うん…。やっと思いが通じた。』


僕は奈津子の肩に、手を回し寄り添った。


いくつもの思いが蘇る。


『待たせてごめんな。もう奈津子の傍にずっといるからな。でも…』


『でも?』


『俺でいいのか?』


『良太がいい。』


『希ちゃんはずっと俺らの心の中にいるからな。』


『うん…。ずっと…。』


『ありがとう。』


もうこの言葉が全てを集約している。


僕は奈津子と二人、満月を見上げた。

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