乗り越えないといけない壁
翌朝、僕は気分が悪いと言って学校を休んだ。
いつもなら学校を休む事を、なぜ休むのか追及してくる母親だけど、
流石に今日は何も聞いてこなかった。
母親は僕に何があったのか、理解していたのだろう。
放課後、飯島が僕を訪ねてきた。
『良太、体調悪いのか?』
『あぁ。』
『何かあったのか?』
僕が黙っている事で飯島は何か察したようだった。
『希ちゃんの事か…?』
『希ちゃんなぁ…。』
『うん…。』
『亡くなったよ…。』
僕のこの一言で部屋の中が凍り付いた。
静まり返る部屋の中で二人共、膝を抱えて座り込む。
沈黙が包み込む中、飯島がゆっくりと話し出す。
『梅野は知っているのか?』
『いや…。』
『そうか…。言いにくいよな。』
『言えないよ…。』
また沈黙が部屋を包み込んでいく。
そして飯島は何も言わず、部屋を出て行った。
掛ける言葉は何一つも見つからないと感じたのだろう。
こんな日が数日も続くと流石に僕の両親は、
ふさぎ込んでいる僕の部屋に入ってきた。
『良太、ちょっといいか?』
『うん…。』
父親はドアを開けて静まり返る部屋に入ってきた。
部屋の電気をつけ、ベッドの上で膝を抱えて
座っている僕の前に座る。
『なぁ、良太。お前はいつまでこうしているつもりだ?』
僕は黙っていた。
『何があったのかまでは聞かないが、お前がこうして
過ごして解決出来るのか?』
『解決はしないよ…。ただ…。』
『ただ…?』
『大切な人が地震で亡くなったよ。神戸に行っても何も出来なかった…。』
『そうか…辛いな。でもな、良太は何も出来なかった訳じゃないはずだ。』
『でも…。』
『お前はちゃんと神戸に行けたじゃないか。大切な人がいる街に行けたんだ。
あの震災地に自分の足で行けたんだぞ。』
『そうだけど…。』
『行きたくても行けない人が多くいる。その中をお前は行ったんだ。
悲しい結果だったが、来てくれてそれだけでも良太が大切と思っている人は
きっと喜んでいるはずだぞ。』
『うん…。』
『そして無事にお前が帰って来てくれて喜んでいる人達が
ここには沢山いるんだよ。』
『ここに…?』
『もちろん。俺達家族だけじゃなく、お前の友達もな。』
『うん…。』
『今は現実を受け入れる事はきついかも知れないがいつか、
この現実を乗り越えられる日が必ず来るはずだ。俺の息子だからな。』
『買い被り過ぎだよ…。』
『そんな事はないさ。』
親父はそう言うと、いかにも『俺の息子だからな。』といわんばかりに
僕の肩をポンポンと叩くと部屋から出て行った。




