君が住む街に響く無力な声
三時間程歩き、僕は神戸の街に着いた。
ここまでの道程でも地震の被害は出ており、僕の想像を遥かに越えていた。
街は埃っぽく、人影も見えず建物も傾いたビルや、
火災の後もあちこちにあった。
僕は避難所を探し、街中を歩く。
硝子やコンクリート片が道路に散乱しており、
スニーカーを履いていても踏んだ時の感覚は足の裏に伝わる。
どうにか避難所を見つけ、僕は被災した人に声をかける。
『谷本希さんを知りませんか?』
『人を探しているんですが…。』
僕のその呼びかけに反応は少なく、まだ夢から
覚めていないと感じられる人や不安で憔悴しきっている人達。
俯くおばあちゃんに声をかけても、元気がない。
『おばあちゃん、怪我してない?』
『はい…。』
『もう少しの我慢だからね。』
『ありがとうね。お兄ちゃん、家族は大丈夫?』
『えっと、僕は今日福岡から、こっちに来たんだ。』
『福岡から?そらまたなんで?』
『人を探してるんです。』
『難儀やね、街はこんな感じやし…。』
『うん…。おばあちゃんは家族は?』
『あの地震やし、ようわからんわ。』
『そっかぁ…。』
僕はそれ以上、声をかけれなかった。
行く前に父親に言われた事を僕は思い出していた。
『お前に何が出来る!』
今の僕には余りにも無力だった。
僕は避難所の中を歩きまわり、希ちゃんを探すが見つからない。
何ヵ所もの避難所に行く度に希ちゃんの名前を呼ぶ。
無力な僕が出来る、僕なりの希ちゃんへの思い。
黒く焦げた臭いのする街並み。傾いたブロック塀。
入る事の出来ない自分の住んでいた家を見上げる人達。
あちこちで自衛隊や消防士が崩れ落ちた建物に
残されている人達を救助、捜索にあたる光景。
僕には何も出来ない。「無力」の言葉しかない。
ただ希ちゃんの名前を呼ぶばかり。
そして、避難所にいた人達から聞いた、希ちゃんの住んでいた街に入る。
もう街は人影が全くなく、今まで見た中で一番被害があったと一目でわかった。
僕はそこでも、希ちゃんの名前を叫ぶ。
反応はなく、虚しい声が響く。
その時、一人の女性が声をかけてきた。
『谷本さんっ人を探しているの?』
『はい、希ちゃんを知ってるんですか?どこにいるんですか?』
『名前までは知らないけど。多分、私の家の近くに
住んでいる家は谷本さんだったけど…。』
『そうなんですか!僕と同じ歳の女の子いました?』
『君はいくつ?』
『中三です。』
『同じ位の女の子を何度か見た事あるわよ。』
『家の場所はどこですか?』
『あそこに行くつもりなの?あそこは行けないわよ。』
『お願いします、教えて下さい。』僕は何度も頭を下げる。
『行っても、その地区には入れないわよ。』
『いいんです!教えて下さい。お願いします。』
女性は僕に困り果てて、住んでいた場所を教えてくれた。
僕は深く頭を下げると、避難所から飛び出し出て行った。
避難所には僕を引き留める声が響いた。




