最後の声
観覧車から降りた後、希ちゃんはずっと俯いたままだった。
夢の世界から現実の世界に戻ってきたシンデレラ。
観覧車の中の希ちゃんと降りた後の希ちゃんは、
表情も固く、黙って歩いていた。
『気分でも悪い?少し休んでいこうか?』
『ううん、大丈夫だよ。』
『でも、何だか元気ないように見えるよ。』
『平気だよ。良太君やさしいね。ありがとう。』
『いや、そんな事ないよ。』
『良太君、帰りに小学生の時に一緒に雪だるまを作った、
あの公園に寄ってもいい?』
『うん、いいよ。』
僕と希ちゃんはあの思い出の公園に向かった。
公園に着くまでの間、希ちゃんは口数も減り、
観覧車に乗る前とは全く異なり、終始俯き加減だった。
公園に着いて、二人並んでブランコに座る。
辺りはもう完全に星が輝く夜に包まれていた。
『何だか懐かしいね。良太君、雪だるまを一緒に作った事、覚えてる?』
『もちろん。あの時と比べると冬に雪が降り積もる事も少なくなったね。』
『うん、あと誕生日に私と色違いの手袋をプレゼントした事、覚えてる?』
『もちろん!初めて貰った女の子からの誕生日プレゼントだよ。
凄く嬉しかったしね。』
『覚えてるんだ!』
『それは当然だよ。』
『ここには私の楽しい思い出が沢山つまってる。』
『俺もそうだよ。』
『あの頃に戻りたいなぁ。』
そう言うと、希ちゃんは俯いてしまった。
僕は希ちゃんに言葉をかける事が出来なかった。
『良太君、そろそろ帰る時間だね。』
『うん・・・。』
希ちゃんはブランコから立ち上がる。
『良太君、ここには沢山の思い出が詰まってる。』
『うん。』
『その思い出をそろそろ封印しようと思うの。』
『どういう事?』
『今日のデート、凄く楽しかった。凄く嬉しかった。
でも、また私は神戸に帰らなきゃいけない。』
『うん、わかっているよ。』
『良太君といたいけど、いられない。そしてそれが凄く辛い。』
『・・・うん。』
『それに、今、良太君には奈津子ちゃんがいる。』
『梅野?』
『だから奈津子ちゃんと良太君の間には入れない。
奈津子ちゃんの良太君に対する気持ちも知ってるから。』
『希ちゃん、俺は・・・。』
『良太君、今までで一番楽しい時間をありがとう。
本日をもって思い出を封印して、神戸に帰るね。』
『希ちゃん!』
『さよなら、良太君。』
そういうと希ちゃんは公園から出ていく。
『希ちゃん!』
『来ないで!来ないで、良太君。私が決めた事だから。』
公園から出ていく時に希ちゃんが言った。
『ありがとう、良太君。』
これが僕が聞いた希ちゃんの最後の声だった。




