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大観覧車の中で

今まで遠くて届かなかった希ちゃんの手。


希ちゃんが転校した後、ずっと届かないと思っていた。


白くて、小さくて柔らかい希ちゃんの手。


今は僕の手の中に包まれている。


『手を繋ぐと、ちょっぴり照れくさいよね。』


そう言うと、ちょっと俯いた。


『うん、そうだね。なんかドキドキするかも?』


『もぅ、そんな緊張しないでよぉ~!こっちまでドキドキしちゃうよ。』


『でも、嬉しいよ。やっと希ちゃんとまた手を繋げたし。』


『私も。』


手を繋いだまま、僕らはウィンドウショッピングをした。


希ちゃんは色んな服を見ては、益々笑顔になっていった。


今日は色んな表情の希ちゃんの横顔を僕はずっと隣で見ていた。


そして夕暮れが近づいて希ちゃんが乗りたいと言っていた観覧車に乗りに行く。


もうその頃には手を繋いでいる事が自然に感じていた。


『近くで見ると大きいねぇ。』


『ほんとだ!これって一周15分もかかるんだって。』


『へぇ、そうなんだ。早く乗ろう、良太君。』


乗車のチケットを買い、2人で観覧車に乗り込む。


観覧車に乗り込んだ時には辺りはもう薄暗く、


街は何色もの光を空に放っていた。


『本当に景色いいよね。』


『うん、綺麗だね。』


『そうだね。それに観覧車なんて、中々乗らないしね。』


『うん、乗る機会って、ありそうで意外とないしね。』


『中々乗らない観覧車に今日は良太君と乗ってるし、記念日だね。』


『うん、希ちゃんとまさか乗れるとは思わなかったよ。』


『夢みたいな気分になれるね。なんだか良太君と一緒に

空に飛んでる気分になれるよ。』


『うん。』


『ずっと乗っていたいな。』


『うん、そうだね。』


『でも・・・。』


『でも、何?』


『それも15分後には終わっちゃうんだね。』


『うん・・・。』


『降りたら、また現実の世界に引き戻されてしまう。』


希ちゃんは凄く悲しそうな顔で、外の景色を見ている。


僕も希ちゃんと観覧車から見える、漆黒の闇が迫る海岸線を黙って見てる。


『何だか、景色と同じで暗くなっちゃったね!暗くなるのはおしまい。』


『うん、せっかくのデートなんだからね。』


『そう!ねぇ、良太君。』


『何?希ちゃん。』


『良太君は将来、どんな職業をやってみたい?』


『そうだなぁ、まだ何になりたいとかは思い付かないなぁ。

希ちゃんは何になりたいの?』


『私?私は看護婦さんになりたい。』


『そうなんだ。でもどうして?』


『おばあちゃんが入院した時に看護婦さんが仕事を見て、

あんな看護婦さんになりたいなぁって思ったの。』


『そうなんだぁ。』


『うん。高校を卒業したら、こっちの看護学校に入学して、

看護婦になりたいな。』


『こっちに帰ってくるの?』


『うん、出来ればそうなりたいな。だってそうすれば奈津子ちゃんや有紀ちゃん、

飯島君、五十嵐君、さやかちゃん、そして良太君ともいつでも逢いに行けるし。』


『うん、そうだね。みんな待ってるからね。』


『だから早く中学、高校を卒業して、みんな待ってるとこに行きたい。』


僕は黙って、希ちゃんの話を聞いた。


僕も小学生の頃、希ちゃんが転校したのを聞いて、


淋しくて、悲しくて、仕方がなかった。


でも、僕には僕の周りに淋しさを一緒にわかってくれる仲間がいた。


希ちゃんも淋しかった気持ちは僕と変わらない。


でも転校した希ちゃんには、この淋しさや悲しさまでを


分かち合う仲間はいなかった。


僕なんかよりも、その淋しさの大きさは計り知れないくらいだろう。


それが今、素直に言葉で表れたに違いない。


その手をずっと放したくはなかった。夢の時間が過ぎたとしても。


しかしもうじき夢の世界は終わり、現実の世界に戻ってくる。

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