開けてはならないパンドラの箱
僕は家に帰る途中、ずっと考えていた。
見てはいけないものを、見てしまったあの気持ち
飯島を責められない感情。
そして梅野と有紀の気持ちへの答え。
希ちゃんに対する思い。何もかもが中途半端だ。
僕はどうすればいい?
やる瀬ない行き場の無い思い。
結局、家に着くまでのわずかな時間と距離の中では結論は出なかった。
家に着いても、家族の言葉は全て右から左へ抜けていく。
部屋に戻っても、答えは出ずまま、窓から空を眺め続けた。
オリオン座は遠くから、悩める中学生を見続けていた。
遥かなる漆黒の闇に広がるあの天空の星空。
何を語るでもない。答えを出してくれるでもない。
ただ煌めき輝いている。
そしてそれぞれの思いが交差する夜は更けていく。
それぞれの思いが交差し、新学期が始まった。
誰もあの公園での出来事を話す者はいなかった。
開けてはならないパンドラの箱のように。
あの出来事がなかったかのように変わらない毎日が過ぎていく。
それぞれ必要な会話だけをするだけの関係。
『奈津子!』
『あっ、有紀。どうしたの?』
『帰りにちょっと時間ある?』
『いいけど、どうかしたの?』
『部活が終わってから話すね。』
有紀は奈津子にそう言うとグラウンドから立ち去った。
僕と飯島は有紀の姿も気付かなかった。
それだけサッカーに集中していた。
と言うよりもサッカーをする事であの日の事を
忘れようとしたに違いない。
部活が終わり、有紀が奈津子を学校の正門で待っていた。
『ごめん、有紀。遅くなっちゃった。』
『ううん、いいよ、いいよ。』
『いいけど。どこか行くの?』
『ちょっと話をしながら一緒に帰りたいと思ってね。』
『うん・・・。』
微妙な空気に包まれながら有紀と奈津子は並んで学校を出た。
『ねぇ、奈津子。』
『何?』
『もうすぐバレンタインだよね。』
『うん・・・。』
『奈津子は誰かにあげるの?』
『私?部活のメンバーに義理チョコはあげようかな?』
『義理チョコとは別には?』
『まだ考えてないよ。』
『良太には?飯島は?』
『お正月以来、まともに話していないし。』
『そっかぁ。』
二人の間に沈黙が包み込む。二人共、顔を俯いていた。
有紀はゆっくりと顔をあげて奈津子に言う。
『ねぇ、奈津子。今週の土曜日空いてる?』
『土曜日?今は予定ないよ。』
『だったら買い物に付き合って。』
『うん、いいけど。』
『決まりね!』
『でも二人きりで?』
『もちろん二人きりで!』
『うん、わかった。』
『じゃあ、土曜日ね!』
そう言うと、有紀は手を振って走って行った。




