夢から醒めた新年
『良太、お友達来ているわよ、良太。』
一階から母親が僕を呼ぶ。
ただその声も現実の世界の声なのか、空想の世界の声なのか、
僕ははっきりと区別がつかなかった。
『良太、いつまで寝てるの。』
激しくドアを叩く音で、僕は現実の世界に戻ってきた。
左手に握られた水色の封筒が希ちゃんが神戸に帰った事実を物語っている。
『いい加減にしなさいよ。』
母親じゃなく姉貴がドアを開けて部屋に入って来た。
『良太、あんた起きてたの?起きてたなら、さっさと出なさいよ。』
『あっ、うん。』
僕の気のない返事が更に姉貴の怒りをかった。
『あんた、正月ボケしてるんじゃない?友達来てるんだから、
早く行きなさい。』
『あっ、わかった。』
姉貴はドアを激しく閉めた。
左手に握られた水色の封筒を僕は机の引き出しに片付け
階段を一歩一歩確かめながら降りていった。
『明けましておめでとう。』
玄関には梅野、飯島、有紀の3人が立っていた。
『明けましておめでとう。』
今日はみんなで初詣に行く約束をしていた日だった。
『体調でも悪い?』
有紀が僕の顔を覗き込んでくる。
『いや、大丈夫だよ。』
『そう?だったらいいんだけどさ。』
有紀はいつもの笑顔で僕を見る。
僕の視線は梅野を見ていた。
『早く行こうぜ、もうめちゃめちゃ多くの人来てると思うけどな。』
飯島はそう言うと玄関のドアを開け出ていった。
梅野と有紀もそれに続き靴を履き、三人のあとを追った。
今朝は玄関のドアがいつもより重く感じた。
案の定、天満宮は多くの人でごった返していた。
家族連れ、恋人達、そして僕達みたいな友達と初詣に来ている人で
溢れかえっている。
神様もこれだけ多くの人のお願い事を聞くのは大変だろうなと感じる。
でも神様だからそれが出来るのだろう。
『やっぱり凄い人数だよね?』有紀が僕に言う。
『毎年、毎年凄い数だなぁ?』
『境内まであと10分はかかりそうだなぁ!』
飯島は先頭にたち、僕らに振り返って言う。
『飯島、ちゃんと前向いて歩けよ。』
『良太こそ、はぐれるな。』
『その時には迷子のアナウンスでもしてくれ。』
『そんなん、恥ずかしいじゃん!』
梅野が呆れた顔をして見る。
『もし、はぐれちゃったら、天満宮の入口で待ち合わせしよう。』
飯島は僕らに言う。
『それいいかも!誰かさんの迷子のアナウンスなんて
恥ずかしくて出来ないし!』
梅野が僕に言う。
そう言えば今日、梅野と逢って初めて見た笑顔かも知れない。




