いつもの帰り道
『もうすぐ奈津子ちゃんも来るはずだよ。』
『梅野も?』
『うん、もちろん!奈津子ちゃんはちょっと遅れるみたいだけどね。』
『ふぅ~ん。』
『良太君の事は奈津子ちゃんから話は聞いているよ。』
『えっ、どんな話?』
『内緒!』
ふとした仕種はやはり希ちゃんのままだった。
希ちゃんはずっと笑顔で話していた。
『希ちゃ~ん!』
公園の入口から梅野が駆け寄っている姿が見えた。
『奈津子ちゃ~ん。』
希ちゃんも手を振っている。
『希ちゃん、久しぶり~!いつ帰ってきたの?』
『奈津子ちゃんも久しぶり!さっき帰ってきたの。』
『良太も来てたんだ。』
『まぁな。』
『良太が先に希ちゃんと逢ってるのは悔しいなぁ!』
『何だよ、それ。』
『別に~、それより希ちゃん、元気だった?』
『うんうん、元気だったよ。奈津子ちゃんは?』
『つい最近まで風邪ひいちゃって寝込んでいたけど、もう大丈夫!』
『本当に平気?平気ならいいんだけど。
こんな寒い日に呼び出してごめんね。』
『いいよ、いいよぉ。』
希ちゃんと梅野は僕をそっちのけに話続けている。
『あっ、そうだ!良太、ちょっと飲み物買ってきてよ。
私が三人分出すから。』
『えぇ~、俺が?』
『いいじゃん、いいじゃん!私はミルクティーね!希ちゃんは何にする?』
『私はカフェオレがいいかな。』
『じゃあ、足の早い良太、よろしくね!』
『ごめんね、良太君。』
『断る権利無しだな、わかったよ、近くのコンビニまで行ってくるよ!』
僕は二人をおいて、急いでコンビニに向かった。
コンビニで三人分の飲み物を買って戻って来ると、
そこに梅野の姿はもうなかった。
『あれ、梅野は?』
『奈津子ちゃん、何か用事の途中だったみたいで帰っちゃったよ。』
『何だよ、あいつ。俺に買物させておいて。』
『用事だから仕方ないよ。年末の忙しい時期だからね。』
『しょうがないなぁ、希ちゃん、はい、カフェオレ。』
『ありがとう、良太君。良太君寒くない?』
『大丈夫だよ!希ちゃんは寒くない?』
『うん、大丈夫。』
そう言うと希ちゃんは僕の頬に手をあててきた。
『冷たいじゃん!』
『あはは、良太君、びっくりした?』
僕は希ちゃんの手の温もりにドキドキしていた。
『この辺りも随分、変わったね。』
『区画整理とかあったからね。』
『風景は変わったけど、私にはちっとも変わってないように感じるよ。』
『そう?確かにこの公園は変わってないけどね。』
『うん、そして良太君も変わってない。』
『俺も?』
『そう、良太君もちっとも変わってないよ。』
『そうかなぁ?』
『そうだよ、見る景色は変わっても、
良太君は変わってないから安心した。』
この希ちゃんの言葉に僕の高鳴りは最高潮に達した。
『それは褒め言葉だよね?』
『どっちもかな?』
そう言うと希ちゃんは僕の顔を見て笑った。僕も一緒に笑った。
『希ちゃん、こっちにはいつまでいるの?』
『お正月までかな?』
『また逢えるかな?』
『また逢えるよ。』
『うん、また逢おう。』
『じゃあ、暗くなってきたし、そろそろ帰るね。』
『うん、寒くなってきたしね。』
『途中まで一緒に帰ろう。あの頃みたいに。』
『うん、帰ろう。』
小学三年生の頃とは違う風景を見ながら、
いつも一緒に歩いて帰った道を再び、僕らは歩いて帰った。
そして、この時の希ちゃんと梅野だけで話した内容は、
随分あとで、僕は聞かされる事になる。
あの公園で希ちゃんと逢った後、年内は希ちゃんと逢うことはなかった。
そして新年を迎える。
年末に最高のプレゼントを頂き、僕は正月ムードも便乗して
浮かれまくっていた。
その浮かれた気分も年賀状に紛れ込んだ、水色の封筒を見るまでは。
水色の封筒を見た時に、すぐに希ちゃんからの手紙だとわかった。
しかも今度は差出人がきちんと『谷本希』と書かれてあった。
僕はその水色の封筒を開け中から便箋を取り出した。
『明けましておめでとう、良太君。良太君がこの手紙を読むときには、
私はもう新幹線の中かな?もう少し長くいたかったんだけど、
神戸に帰る事になりました。』
浮かれていた僕の気持ちは一気に下がってしまった。
手紙の続きにはこう書かれてあった。
『またさよならを言えなくてごめんね、
でもさよなら言わないから、また逢えると信じてる。』
思わず涙が溢れそうになった。
また見送る事も出来ずに希ちゃんは神戸に帰っていった。
夢から醒めたような虚しさが僕の心を包み込んでいく。




