昭和という時代の青春ドラマ
『やっぱり侮れないな!』
そこには、五十嵐とその横にマネージャーの光井さやかが立っていた。
『五十嵐、お前、何でこんな所にいるんだ?』
『敵情視察ってとこかな?それにお前、俺を嵌めやがったしな!』
五十嵐は笑いながら言う。
『どう言う事だ?』
『また惚けやがって、お前のとこのマネージャー、
梅野さんだっけ?お前の事探してたぜ。』
『梅野が?』
『あぁ、あと坂井さんと友人Aがな。それに梅野さんって俺らの試合の時に
いつもお前を応援していた女の子だろ?』
『五十嵐、知ってたのか?』
『あぁ、いつもお前しか見てなかったけどな、いい加減気付けよな。』
『五十嵐君、よしなよ。』
マネージャーの光井さやかが五十嵐を窘めるように言う。
五十嵐はさっき僕が蹴ったボールのとこに行くと、
軽くドリブルすると、強いパスを僕に出してきた。
『お前のラストパスを受けるフォワードの情報を梅野さんに
聞こうとしたけど、ガードが固いな!』
また五十嵐は笑顔で言う。
『あいつは口は固いからな!』
僕も強いパスを五十嵐に返す。
『そうみたいだな!じゃあ俺らは行くぜ、
梅野さんもも来たみたいだからな。』
そう言うと五十嵐は校庭の隅を指差した。
『良太、クリスマスイヴはまだ終わってないぜ。』
そう言うと五十嵐はグラウンドから出ていく。
光井さやかも僕にちょこんとお辞儀すると五十嵐の後を追い、
グラウンドから出ていった。
そして五十嵐が指差した方向には梅野が立っていた。
それにしても今でも思うが、五十嵐の言葉は、
昭和という時代の青春ドラマに匹敵するくらいだ。
思わず笑いが出てくる。あいつは本当に同級生か?
五十嵐達がグラウンドから出て行ったあと梅野は
僕の傍に駆け寄ってきた。
『梅野、どうしてここに?』
そう言った瞬間、僕の左頬をビンタされた。
『痛ぇっ!なんだよ。』
『何でこんなとこにいるの!』
『何でって・・・』
『おばさんに聞いたら、練習に行ったって聞いたから!
何で一人でいるのよ!』
梅野の顔は紅潮している。
『一人でゲーセン居たでしょ!五十嵐君達に聞いたんだから!
みんな良太の事探したんだよ!』
『五十嵐と知り合いなのか?』
そう言った瞬間に、二回目のビンタが飛んできたが、
僕はそれを咄嗟に避けた。
『何だよ、もう叩くなよ。』
『五十嵐君とはたまたまファミレスで後ろの席に座っていて、
良太の事を話していたから、聞いたの!』
梅野はまだ怒っている。
『そっか・・・』
『みんな探したんだからね。』
そう言うと梅野の額が、僕の胸に押し付けてきた。
『お前、熱あるんじゃないか?』
『ほっといてよ!』
『馬鹿だな、熱があるのにこんなとこに来るなんて・・・』
『馬鹿はどっちよ!』
『悪かったよ・・・』
『こんなんじゃ・・・』
『こんなんじゃ、何だ?』
『やっぱり希ちゃんの替わりになんてなれないのかな・・・』
梅野は泣いていた。
『希ちゃんなら、こんな時、どうするんだろ・・・』
梅野は涙が溢れて止まらない。
衝撃的な一言だった。
まさかここで『希ちゃん』の名前が出てくるとは思いもしなかった。
希ちゃんの替わりなんて誰も出来やしない。
もちろん梅野の替わりも誰も出来やしない。




