見失った宝物
僕は人込みの中、さっき見たブルーのキャミソールの女性を探した。
すれ違う人波、強制的に流れるベルトコンベアーのように
僕は流されている。
そして少し離れていたけど、今までで1番近くに
そのブルーのキャミソールを着た女性を見る事が出来た。
横顔がはっきり見えた。
『間違いない!希ちゃんだ!帰ってきたんだ!』
少し大人びた、でもあの屈託のない笑顔。
僕は何とか逆の流れの方向に乗ろうとしたが、
人波の多さで乗れない。
ドンドン希ちゃんとは離れていく。
この人波は鳥居の所まで続いていた。
『良太。何しているんだ?』
また境内に戻ろうとしていた僕に太一が話かけてきた。
『先に行ってくれよ、ちょっと落とし物したから。』
僕はとってつけた理由を言った。
『落とし物?これだけの人だかりだから 見つけるのは無理だよ。』
飯島が言うと、
『財布でも落としたの?』梅野も続いて言う。
『うん、そんなもんだよ』と僕が言うと、待っていると言ってくれた。
急いで僕は境内に戻っていった。
神社の境内は先程より人込みは更に増して、
この中で希ちゃんを探す事は、至難の技だ。
でも僕は人込みを必死にかきわけながら進んで行く。
かき氷を美味しそうに食べている小学生も、
出来たてのタコ焼きを頬張り、
口の中をやけどしてそうなおばさんも、
僕が探している人を知らない。
ここで精一杯の声で、『希ちゃん』と叫ぶのが
1番早いかも知れないけど、『のぞみちゃん』という
女の子はこのお祭りに、何人もいるかも知れない。
そんな勇気はその頃の僕にはほど遠かった。
僕は端から端まで探したけれど、
ブルーのキャミソールを着た『希ちゃん』を、
見つける事は出来なかった。
もしも、すれ違った時に声をかけておけば出会えたかもしれない。
『もしも』は後悔した人がよく使う言葉だと父親に
サッカーをしてる時に、よく聞いていた言葉だけど・・・
今はその言葉の意味がよくわかる。
僕は待っているみんなの所へ戻っていった。
『探し物は見つかった?』梅野が僕に聞いてきた。
『うん、何とかね。』
どう見ても、探し物は見つかっていない感が
伝わる口調になってしまった。
『ふ~ん、よかったね。』梅野の口調は凄く淡泊だった。
『良太、よく見つかったなぁ!』太一は対象的に驚いている。
『本当は見つからなかったんだ。これだけの人の中で、
希ちゃんを見つける事は出来なかったよ。』
本当はそう言いたかった。
花火は僕の心と裏腹に、鮮やかな何色もの色を夜空に描いていた。




